北朝鮮
2024年8月23日 15:00 平壌
朝鮮民主主義人民共和国国家主席は、先刻中国国家主席との首脳会談を終えて中国代表団を丁寧かつ、にこやかに見送った。表向きは。内心はその逆。不機嫌そのものだった。
彼には中国側が自分達を見下しているのが、手に取るように理解できていた。
中国国家主席との会談は長かったが、その内容は要約すると、こういうことだった。
「内緒の話だが、半年後に台湾と沖縄に攻め込むからできるだけ協力しろ。
38度線で武力衝突を起こして韓国軍と米軍を引き付けておけ。
それから中国は沖縄の独立を支援する体裁を取るから、代わりに沖縄以外の自衛隊と在日米軍の航空基地に、弾道ミサイルを300発程打ち込んで破壊しろ。
なるべくテロ・ゲリラ攻撃も行って日本国内を混乱させろ。
それが出来るなら、コロナワクチンを大量に恵んでやる。
アメリカに勝った後は、さらに石油輸出含めた経済援助をしてやる。どうだ、悪い話ではなかろう。」
無論、実際の言葉は最上級の修飾に彩られてはいた。
しかし、北朝鮮の通常戦力は韓国と正面から戦えるような状態には無かった。
それゆえ、弾道ミサイルと核の開発に全てを注力するしかなくなっている。
北朝鮮側は努力して38度線の件は断った。
だが、中国側は最初から期待しておらず、断ってくるのは織り込み済だったようだ。
結局、北朝鮮は開戦と同時に300発の弾道ミサイルと相当数の巡航ミサイルを、日本の在日米軍基地および航空自衛隊基地に撃ち込むことを中国側に約束した。
攻撃の口実については北朝鮮側で適当に仕立て上げることになった。
執務室に戻ってきた主席に、側近がうやうやしく話しかける。
「よろしかったのですか?主席様。我が国には倭奴を攻撃できるミサイルは、300発もありませんが・・・。」
国家主席も側近も日本に対する蔑称「倭奴」を当たり前のように使う。
北朝鮮は、22年ごろから中国の要請を受けて、日米のイージス艦を日本近海に拘束する状況を常態化させるため、弾道弾を頻繁に日本方面に発射するようになっていた。このため、弾道弾のストックが不足していたのだ。
「良いのだ。いかに中国といえど、我々が発射したミサイルの数を確認する術は無い。いつも偉そうな連中が、めずらしく向こうから頼み事に来たと思えば、、、
見下しおって!我々は中国の属国では無いのだ!言われるがままになど、なってたまるか。」
「それでは?」
「倭奴に攻撃はする。だが、やつらの迎撃できる範囲に留めろ。ギリギリのタイミングで情報も流せ。そうすれば、倭奴や米帝の報復は最低限に収まるはずだ。」
「中国を裏切ることになりますが?」
「そうだ。中国の目論見通りになれば、奴らは台湾と沖縄の次に、日本本土と南朝鮮が欲しくなるだろう。
そうなれば我々は南とむりやり戦わされるか、下手をすれば最後には南朝鮮共々中国の属国になる。
その過程で我々は生き残っているか?
我々を中国に売り渡す獅子身中の虫が、必ずや出てくるだろう。我が国の独立のため中国に勝たれては困るのだ。」
「それでは、もっと早く情報を米帝に与えて、戦争を抑止しては?」
「わかっておらんな。中国の国家主席は計画を面子にかけて押し通すつもりだ。
情報が洩れたら漏れたなりに、計画を前倒して強行するだけだろう。計画そのものを止めるのは無理だ。奴が失敗を認めることは無い。」
「だとすれば、この状況をいかに利用するかですね?」
「そうだ。中国側の要求通りに動いて見せるが、中国に勝ってもらっても困るのだ。ワクチンだけはありがたく頂いておくとしよう。それとな。」
「はあ?」
「倭奴の政治家は無能者揃いだ。
せっかく我々が情報を漏らしてやっても、余程はっきりした情報でないと、目先の仕事に逃げて何の手も打たないだろう。例の計画はいつでも実行できるように準備しておけ。」
「おさすがでございます。主席様の深謀遠慮に感服致します。」