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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
戦後の日々
208/221

80年目の変節

教村の新聞社は80年ぶりに、その論調を大きく変えつつあった。

4月3日の社説で、先島や尖閣諸島をあきらめてでも、即時停戦を模索すべきと述べたのが、猛批判を浴びたのだ。

購買を止める層はそれほどでは無かったが、企業広告の撤退が急増し、頑迷な上層部でさえ世論の変化を受け入れざるを得なかった。


澤崎の手記の掲載、防衛大臣、後には沖縄復興大臣の同行取材、自衛隊員達へのインタビューといった、教村の取材方針が社内的にすんなり認められ、掲載されていった理由はこれだった。


教村は若い自衛隊員達のインタビュー記事をチェックする。

特に、宮古島で戦った隊員達の手記、インタビューの最後は「こんなことはこれで最後にして欲しいです」と結ばれていた。


同じだ。繰り返されていると彼女は思う。


手元に、参考として置いていた2冊の本があった。

それぞれ阪神と東北の地震で、災害派遣に出動した自衛隊の記録だ。

当時の若い隊員達の手記の多くもまた、「こんなことはこれで最後にして欲しい」と結ばれていることが多かった。


外交面では、日米台と中国は互いに自分達が勝利したと認識しており、中国に至っては平然と賠償金を要求するような有様だったから、双方の「交渉」は嚙み合っていない。


教村は外交にはあまり詳しくないが、中国は欧米資本の撤退が加速し、日米台との経済交流が断絶することで、国内景気が本格的に後退に向かうであろうことは想像できた。

そのデメリットを支払ってでも、国内の引き締めを図るために、「外患」を意図的に作りあげたというのだろうか?と思った。


日本が総選挙を行っている頃、中国は上海と北京で戦勝式典を行い、多くの人民が熱狂的に参加している。

そう、中国人は負けたなどと欠片ほども思っていない。


京村はため息をついた。中国側の認識がそうである以上、大損害を受けた軍備が回復したなら、再び侵攻があるかもしれないと思ったからだ。

嫌だなあと心の底から思う。

こちらも防衛費の増大と、緊張の持続に付き合うしか無い。平和な時代は終わったのだろうか?


中国の式典といえば、向こうの統合作戦総司令官は、政治指導部が介入する程の稚拙な指揮をしたせいで、無闇に損害を出したらしい。

そのため「勝った」にもかかわらず、国内で異例の批判を浴びているらしかった。

現に総司令官は辞職して、式典には参加せず、代理として胡中将なる人物が国家主席の表彰を受けていた。


国内の極右政党は青筋をたてて、中国への報復と賠償金の獲得を主張していた。教村は一応その主張に目を通したが、一読した後に頭痛薬を飲むハメになった。


軍事専門家達によれば、戦闘そのものは事前に予測されていたよりも遥かに短期間かつ、日米台の損害が少ない優位な状況で終結したらしい。

だからといって、万事めでたしめでたしとはいかないのは、歴史を勉強していれば分かる話だ。

その状況を起点として発生する、新たな難題に悩む日々がやってくるだけだからだ。


現に中国に進出していた企業の多くは、生産拠点を国内に回帰したり、東南アジアに移しつつあった。

右派は呑気に喜んでいたが、話はそう単純では無い。

中国は日本の資産を遠慮なく差し押さえたから、各企業は特別損失で、直近の損益がとんでもない数字にならざるを得ない。下手をすれば倒産する企業が続出する。

さらには国内に生産拠点を移そうにも、原発を止めている今の日本では、降って沸いた電力需要に対応できないのだ。


それらの企業への支援と、各地への誘致。さらには原発の再稼働と新規建設を早急かつ円滑に行わなければ、早々と日本経済は危機を迎えることになる。

その在り方を巡って国会では活発な議論が行われていた。

そして急ぐ必要があった。審議拒否など論外中の論外だった。


教村としては旧野党が幅を利かせていた、わずか半年前と比べると、こんなに国会が建設的になるとは信じがたいものがあった。

同時に今までの野党の在り方が、いかに非生産的なものだったかを思い知る。


教村は適当に休憩をとってはいたが、今日も自宅に帰るのは遅い時間になりそうだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、中国は勝利をでっちあげるだろうなぁ、と。 しかし、軍部やらある程度現実が見えている政治家は暗澹たる気持ちじゃなかろうか。台頭するインド、ある程度現実が見えてまともになりつつある日本。…
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