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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
戦後の日々
205/221

処刑

事実上の処刑執行だと李は思った。


日米は中国の情報工作に対する警戒を、最高レベルに保っている。

それにもかかわらず、新たな潜入工作を行い、日本におけるスパイ防止法成立前に可能な限りの基盤を築き、なおかつ澤崎と接触するマスコミ関係者を暗殺しろ、というのが命令だったからだ。


いくらなんでも無茶な命令だった。

十分な準備期間も支援も与えられない。

日本国内の中国の工作員は、今や遠慮しなくなった日本では以前のように活動出来ていない。

大半が脱出するか、摘発され、生き残りは活動再開の時期が来るまで、目立たないように潜伏しているのだ。

それは日本側も承知しているから、裏をかくことにはなるだろうが。

だが、李は祖国を裏切るわけにもいかなかった。

どうにか日本国内に潜り込むことさえ出来れば、あとは何とかなると考える。

いかに理不尽に扱われようと、彼は愛国者だったのだ。


李は奇跡的に沖縄でつるんでいた反社組織とのコンタクトに成功すると、日米の厳重な海上監視の目をくぐり、中国側の漁船から漂流物を装ったボートに乗り込み、数日間海上を漂って沖縄に接近した。

そして反社組織が繰り出した漁船に、無事収容されたのだ。


漁船に乗って李を出迎えたのは、組織の若頭だった。

「久しぶりだな、カシラ。アンタ達のシマを荒らしたから、恨まれてるものだと思ってたよ。」

「とんでもねえ。世の中が多少荒れてくれた方が、こっちのシノギは増えるってもんよ。アンタらには感謝してるぜ。」

「相変わらずいい答えだな。」


漁船から李は、組織の手配した長距離トラックの荷台の奥に詰め込まれ、トラックごとフェリーで移動。

さらに九州から高速道路で移動して東京に到着すると、未だ摘発されていなかったセーフハウスに潜り込んで、ようやく一息ついた。


見せしめの暗殺対象は、教村詩織という名の女性ジャーナリストだった。

これ以上の発信を止めるため、出来るだけ早く、しかも見せしめとして派手に殺害するつもりだった。

まずは行動パターンを押さえようと、彼女が新聞社から出てくるところを尾行するために、築地へと向かう。


東京は雨だった。沖縄と違い、東京の梅雨とはこれほど鬱陶しいものかと思う。




2025年6月17日 21:15 東京


だが、セーフハウスを出て行動を開始した李はあっさりと、複数の殺気に尾行されていることに気付いた。

雨の街を逃げたが、早々と繁華街の路地裏に追い詰められる。

相手は多数。

二人が李に接近し、他は後ろに下がっている。大半は物陰に隠れて、接近する二人を援護するつもりのようだった。


観念した李は両手を挙げて、追いかけてきた数人に向き直る。

お互い打合せをしたかのように、李はボディチェックをされ、携帯していた武器を取り上げられた。

皮肉めいた笑みを浮かべ、李は相手に問いかけた。「あいつら俺を売ったのか?」


李を押さえた二人が答えた。

「司法取引だよ。」

「組の上層部は本当に戦争になったんで、自分達のしたことに今更真っ青になって、知らんふりを決め込んでた。だが、末端の組員がゲロって来たんだ。

それで組に、4月までの国への裏切りはチャラにしてやるから、こっちが網を張るのに協力しろって持ちかけたんだよ。

そうしたら喜んで、お前さんが来るってチクってくれたってわけさ。」

「アンタがプカプカ海に浮かんでる時から、ずっとモニターしてたぜ。

沖縄で抑える手もあったが、東京の方がオマケが増えそうだったんで、泳がせておいたってわけよ。まだセーフハウスがあったんだな。」


「ふん。いつもは法治国家気取りのくせに、随分と無茶をする。まるでわが国だな。」

「何にだって例外はある。彼を時間限定で外に連れ出すことだって出来るさ。

・・・出番だよ。コイツで間違い無いかい?」

物陰に隠れていた人物の一人が歩み出てくる。その顔を見た李は驚愕する。


「なぜ貴様がここに居る!!」

「久しぶりだな。李。まさか俺の顔を忘れちゃいないよな。」

李の前に現れたのは、収監されているはずの澤崎だった。

「石橋さん、白神さん。こいつです。間違いありません。

こいつこそが、僕をはめた中国のスパイ組織。その直近でのリーダー格、李です。本当の名前は知りません。」


(なぜここにヤツが!?面通しか?俺の顔なんて日本にはとっくに割れているのに何故?)

李は混乱する頭で、必死にこの場を切り抜ける手を考えた。

「分かった。これまでのようだな。沖縄でスパイ行為を働いた工作員が、性懲りも無く舞い戻ってきたとあれば、いかに優しい日本国といえど、ただではおくまい?」

「よくわかってるじゃないか。」

「だから取引といこうじゃないか。

私も今回の祖国の無茶な命令には腹が立っていてね。2重スパイになるというのはどうかな?」


白神がつぶやく。

「なるほどね。・・・却下な。舐めやがって。」

次の瞬間、李にもそれと分かるサイレンサー付拳銃の発射音がした。右上腕に被弾。いつの間にか後ろに回り込んだ石橋がテープで李の口を封じ、悲鳴をあげさせない。


「今度の防衛大臣は沖縄出身でね。

特殊作戦群が言い出した、無茶苦茶な超法規的措置を通してくれたよ。

バレたら自分の責任問題どころじゃないのにな。

だが、彼は国民への報告が何十年後になったとしても、日本人の手で故郷を戦場にしたスパイ活動の主犯に、ケジメをつけることを選んだんだよ。

なんせ自分でやりたいって言ってたくらいだ。総理を説き伏せてくれてね。総理も生かして返すなってさ。」

「アンタにゃ関係無いだろうが、俺と相棒はなあ、お前らが使い捨てにした学生の仇を、必ずとってやるって誓ってたんだよ。

まさかこんなに早く、ノコノコ日本に舞い戻ってくるとは思わなかったぜ。

身柄を押さえただけなら、結局生かして中国にお帰り願うだけだからな。

だからな、思わずなりふり構わず動いちまったってわけよ。

いけないいけない。お互いこの手の仕事はもっと慎重かつ、冷静にやらないと、な。」

そういうと、石橋と白神は李の両手足に、さらに数発を撃ち込んだ。


2人の脳裏には、宮古島の戦場を駆け抜ける間に、目にした光景や顔が浮かんでいた。

最後の最後に過ちに気付き、自分達自衛隊員に謝り、母に会いたいと言いながら、息絶えて行った八木花と、その母親真紀子の流した涙と悲哀。

妹だけでも無事でいて欲しいと願い、最後にその無事を確認して安堵しながら亡くなった、下地祐樹少年。

その周囲で繰り広げられていた悲惨な現実。そこで白神は助かる人間と亡くなる人間とを、選別するという過酷な役目を負った。

まさかの日本民間人による戦争犯罪を防げなかったこと、その犠牲となった勇敢な中国軍パイロット。

数限りない瞬間が二人を駆け抜け、FSP9拳銃を握る手が熱くなる。



李は激痛に顔を歪ませ、地面に仰向けに倒れる。水溜まりがはねた。血と雨と濡れた地面とで、あっという間に李は水浸しになる。

叫ぶこともできず、ただ血走った目を剥きだしにするばかりだ。


「澤崎君。どうする?今度こそ手を汚すことになるが、望むなら最後は君に譲るぜ。教村女史には内緒な。」

「・・・自分にやらせて下さい。」


「引き金を引くだけでいい。」

そういうと石橋は、手にしていたサイレンサー付のFSP9を澤崎に手渡した。

そのまま、倒れた李の前に立ち、銃口をその体の真ん中に向ける。

李は、信じられないという表情をしていた。



「あのおじいさんのことは、結局俺の罪だ。

だが、青池に小田。それに八木を虫ケラみたいに使い捨てにして、罪の無い沖縄の人々を大勢死に追いやったのはお前だ。

地獄に落ちて日本人を怒らせたことを後悔しろ。どうせ俺も後からいくからな。」

言い終えると、澤崎は弾倉に残っていた全弾を李の胴体に撃ち込んだ。


「・・・ありがとうございました。」

澤崎は石橋にFSP9を返却する。

「良かったよ。もしかしたら、そのまま君は自殺しようとするんじゃないかと思って、身構えてたんだ。」

「まさか。1回死んだくらいでは、僕の罪は消えません。あなたがたにも迷惑でしょう?」

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