断罪
大損害を受けた自衛隊の装備を急遽補充し、中国の再侵攻に備えた防衛力強化のために、特別増税は避けられない状況だったが、澤崎はその心配は無いか、それほど大きくないと説明した。
何と言っても、澤崎は沖縄でNPOや一般社団法人が、表向きは大した中身を伴わない活動目的を掲げておき、実態としては反政府活動を行っていながら、莫大な補助金を受け取っていた現実を見ている。
彼等は何か仕事をしている振りをして、税金でタダ飯を食っているに等しかった。
これ以上は無い税金の無駄使いだ。
こんな連中は沖縄だけでない、全国に存在する。こいつらに流れる税金を止め、まっとうな仕事に就かせるだけでも、日本の財政は大きく改善するはずだと訴えた。
かつて「モノから人へ」の美名のもと、公共事業に投入される資金を人的資源に投入する動きがあった。それ自体は理想的な考え方ではあっただろう。
だが、現実にはその理想は大きく裏切られ、福祉・環境・人権利権とでもいうべき、税金の無駄使いの新たな構造と、野党の新たな票田を生んだに過ぎなかったのだ。
澤崎はこのことを言っていた。
同じ時期に、硬直しがちな行政サービスの穴を埋めるべく、弾力的な動きを期待されて、NGO、後にはNPOに税金を投入する試みがなされたが、これがパンドラの箱だったのだ。
野党と結託した一部のNPOや、一般社団法人はあっという間に腐敗して、本来期待された活動そっちのけで利権にしがみつき、他の団体を自分達の利権を守るために潰すことすら行った。(その典型例がシン・YOU・愛のような組織だ)
彼等は組織を際限無く肥大させ、新たな「社会問題」を作り出しては税金を飲み込み続ける割に、大した役割を果たしていない。
監査の目も非常に緩く、マスコミも意図的に実態を無視し続けて来たのだった。
だから、今この流れを断ち切らないと、日本は新たな危機に立たされると澤崎は訴えた。
中国はこの構造を利用して、武力に拠らない侵略を企てている。
それは、いつか澤崎が李達の計画を盗み見たものだった。無論それは張が考えた策謀だ。
澤崎がいつか李達に復讐する機会のために、ひそかに盗み見てきた情報を繋合わせると、その計画は以下のようなものだった。
中国は、戦後に中国国内の民主派に対する締め付けを強化する。その結果、日本や台湾に大量に亡命者が発生する事態となる。表向きは。
実際には民主派は国内で弾圧し、国外になど逃がさない。
日本に押し付けるのは、実際には犯罪者や失業者、あるいは高齢者や障害者であって、単なる棄民だ。
そして彼等は中国政府の指示から逃れられないように、中国国内に家族を人質にとられている。
彼等は日本に大量に亡命した後、意図的に就業せず、生活保護だけで生活し続ける。
それだけでなく、野党の支持基盤である、難民の支援団体の規模を拡大するように中国シンパを動かす。
彼等は政府に補助金と組織の拡大を要求し、政府組織に食い込み、彼等を支援する法律を次々打ち立てていくことで、中国からの亡命者にかけられる予算を際限無く拡大させるのだ。
支援団体は実際には、表向きの活動はいい加減に行い、反政府活動を公然と行うような連中だ。
つまり、「人道」の美名の下、予算的にも社会構造的にも、日本をゆっくりと根腐れさせる計画だった。
そしてある日中国は手のひらを返して、日本に棄てた同胞を保護するために、日本を攻撃すると言い出すか、難民達が日本に自治区の設立を訴えれば良いのだ。
最後に澤崎は
「NPOや一般社団法人なんてものの大半は、税金を投入したり、専従者を必要とするような価値のある代物じゃありません。
おまけにトレーサビリティも担保されていない。無意味に誰かの給料になっているだけです。
寄付や自分達のお金、土日や隙間時間だけで、草の根のように行うからこそ価値があると思います。
こんな状況が何年も放置されているから、日本の景気が良くなるはずが無いのです。」
と結んだ。
澤崎の訴えは極論だっただけでなく、自分で言っている通り、殆ど証拠と呼べるものは無かったが、多くの人々の目に触れ、その論点の検証が行われていくに至った。
彼の手記には、「お前が言うな」「フェイクだ」「証拠があるのか」「陰謀諭」「お前だって人殺し」などなど、野党支持者から罵詈雑言が浴びせかけられ、彼の母親への危害予告もなされた。
つまり、それだけ彼等にとっては都合の悪い内容だったのだ。
なんにせよ、インパクトと拡散力はすさまじく、選挙の趨勢に相当の影響を与えた。
この有様を見て、張の後任の任少将は激怒した。
張から引き継いだ、新たな対日工作の根幹部分が暴露されたのだ。
彼は捕虜交換で戻ってきたばかりの李の責任を問うた。
彼は李が、澤崎の裏切りを過小評価し、即座に処分しようとしなかった責任を、具体的な行動によって取るように命じた。
李は帰国早々、日本にとんぼ返りで潜入工作を実行するハメになる。