再会
改めて二人の隊員を見る。
石橋と名乗った隊員は片腕を吊っていた。
実は花を救助しようとした時に脱臼してしまい、応急処置だけで戦闘を続けていたのだという。
二人共に、戦闘服のあちこちは破れ、顔にも何カ所か絆創膏が貼ってあった。
自己紹介した二人は、「八木花さんのお母様でいらっしゃいますね?」と真紀子に尋ねた。
「そうです。」
真紀子が答えると、二人は別の天幕へ真紀子を連れ出した。
3人だけになると、まず石橋と白神は真紀子が抱えた花の遺骨に深々と礼をした。
二人は改めて自己紹介をし、真紀子の足を止めたことを詫びた。
「そうまでしたのは、私たちが娘様の最後に立ち会ったからです。
私達は、花さんの最後のご様子をお母さまにお伝えする義務があります。
それに当時の現場記録を、私達のヘルメットに装着していたカメラが記録しておりました。そのデータをお母さまにお渡しするためです。」
「ああ・・・・。」
真紀子は言葉にならない。
それこそが、せめてそれだけでもと求めながら、あきらめつつあったものだからだ。
二人は事の経緯を説明した。
彼らは、「少々特殊な任務」をしており、中国の工作員に騙された花のような学生の動きを、追っていたのだという。
中国は弾道ミサイルを呼び寄せる、危険極まりない機能をもったスマホを学生に持たせて、自衛隊の部隊を写メで撮影させていた。
そして、画像を確認すると学生もろとも、弾道ミサイルで攻撃する計画だったのだ。
真紀子は、初めて花が死んだ理由を知る。
中国側の企みに気付いた石橋と白神達は、死力と尽くして学生達の身柄を拘束し、スマホを取り上げていった。澤崎の呼びかけもあった。
だが、花だけが自首もせず、中々捕まえることもできず、攻撃までに身柄の確保が間に合わなかったのだと説明した。
「娘様の花さんを何とか助けようと微力を尽くしましたが、力不足でした。」
「私達にもう少し力があれば、何とか元気な花さんを八木さんに会わせてあげることが出来たはずなのです。」
そして二人は、「申し訳ありませんでした。」と揃って頭を下げる。
真紀子は恐縮した。
「いえ、そんな。あの子は私から見ても、頑固な子でしたから。
皆さんに途方もないご迷惑をかけましたし、頑固に自分の間違いを認めなかったでしょう。
最後の最後にになって、私に助けを求めてきたくらいです。本当に馬鹿な子でした・・。
それでも私には・・・。」
「いいえ。そうではないのです。」
「え?」
「攻撃を受けたことで、花さんは最後の最後で、何と言いますか、そうですね。「目を覚まして」おられました。
そして、お母さまに会いたいと仰っていたのです。
画像をご確認頂ければ、お分かり頂けると思います。」
「それは・・、本当ですか!?」
そう言うと、石橋は真紀子に渡すつもりだった、USBメモリに入っている画像を持参したノートPCで再生しようとする。
「花さんのお体は傷ついていますから、その部分は編集しています。それで少し時間がかかってしまいました。
お渡しするデータには編集を加えていない、所謂「生データ」もあります。
お気持ちのご準備はよろしいですか?」
白神はそう尋ねる。
肉親が死にゆく動画をこれから見せるというのだ。しかもそのデータを手渡したいという。
そもそも真紀子がそれを望むかどうかの意思確認が、常識的には必要だっただろう。だが、二人の特殊部隊員は敢えてそれを省いた。
真紀子が藁にもすがる思いで、花の最後の様子を知りたがっていることを知っていたからだ。
問われるまでもなく、真紀子には「視る一択」だった。
簡易な机にノートPCを載せ、パイプ椅子に真紀子を着席させる。
「それでは始めます。」
動画の最初は動きが激しかった。
奥の方に立っている人影が花だということだったが、真紀子にも分からなかった。
伏せるようにという呼びかけとともに、画像が激しく乱れ、閃光と轟音が響いた。
二人は、いったん動画を止める。
改めて申し訳ありせんと言ってきた。
我々は、ここまで花さんに接近出来ていたのです。本当にあと少しだったんです、と。
次に画面が切り替わる。
真紀子は口を両手で覆う。
数日前の花の姿が映っていた。1年ぶりの少し成長した花。だが、その表情は苦痛に満ち、傷ついていた。
画面に向かって真紀子は身を乗り出す。
出来るものなら、画面と時空を超えて、娘を助けようとするかのように。
だが手は伸ばせない。その両手は現実の花をしっかりと抱きしめたままだった。