尖閣奪回
非公式に中国側から停戦を打診された時、日本側はむしろ慌てた。
現状では尖閣諸島を占領されたままだからだ。
このままの戦況なら奪回は確実だったが、今ここで停戦となると話が違ってくる。
占領しているのが、申し訳程度の海上民兵とは言え、停戦中に増援を送りこまれ、中国お得意の強引な埋め立てを強行されかねない。
そうなってから、交渉で尖閣諸島を取り戻すのは不可能に近い。
かといって、停戦が世界に認知された後での奪回作戦は、日本の立場を悪くしかねない。
上記のような状況判断により、自衛隊は残っているスタンドオフ兵器と航空戦力を急遽、尖閣諸島に集中投入するとともに、オスプレイで普通科小隊を送り込んで奪回を試みた。
本来であれば、海上自衛隊で周辺を取り囲んでから行うような作戦だったが、状況が状況だ。
日本にとって幸運なことに、強引かつ性急に実施されたこの作戦は成功した。
中国側の戦力と戦意は、相当に弱体化していたのだ。
中国側は戦後を見据えて、尖閣を保持することを狙ってはいたが、防御するには充分な戦力が最早残っておらず、形ばかりの抵抗を行った後に海上民兵に投降を命じた。
2025年4月4日 21:45 モスクワ
「特別軍事作戦」指揮所で、総参謀長が副官に耳打ちされていた。
中国軍が僅か3日だけ派手に戦ったと思ったら、あっさりと停戦するらしい。
総参謀長は派手に舌打ちしたが、同時に中国が羨ましいと思った。
ロシア大統領と異なり中国の国家主席は、勝ち目の無い戦争をさっさと諦める度量と選択肢があるからだ。
老獪さでは勝負にならない。
約束どおり、中国は軍事支援をしてくれることだろうが、それでウクライナに今更勝てるとは思えなかった。
彼には、ただただ祖国ロシアが、中国の靴底を舐めながら生き永らえる未来しか見えていない。
今後も彼の部下達は、ロシア大統領の夢想と面子のために死んでいくのだ。