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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
掃討
190/221

感謝

張は賢明だった。

国家主席に対する説明の中で、触れてはいない事実がいくつもある。

例えば、そもそも1年かけて行ったはずの国家主席主導による、中国に優位な国際政治環境形成への努力が、ほぼ失敗していることだった。

中でも、北朝鮮を巻き込もうとした目論見は裏目に出た。

(未確認だが、奴らはこちらに約束した程には弾道弾を日本本土に撃ち込んでいない。)


双方の航空戦力が伯仲している最中に、多数の戦闘機旅団を北京防空に拘束したことと併せ、早い段階で沖縄方面の航空優勢を喪失した原因になっている。


さらに言うなら、米軍が集結する前に奇襲的に台湾を奪取する構想が崩壊しており、長征作戦開始時点で米軍の展開を許していたことが、根本的に影響している。


いずれも国家主席を含めた、政治のミスと言えた。だが勿論、彼はこの場で指摘するような真似はしなかった。「率直に」という国家主席の言葉を、額面通りに受け取ってなどいない。


他にも装備は10年で回復できるが、艦長や戦闘機旅団長の養成には20年かかる。勿論この点にも触れてはいない。

そんな余計なことを口にするようでは、人民解放軍では出世できない。


(しかし、やはりそういうことか・・。)

張は国家主席の考えが分かっていた。

金門、馬祖島の占領をもって、内外に勝利を宣言するつもりなのだ。

台湾本島、先島、こうなっては忘れられがちな尖閣諸島の占領も本気で考えていただろうが、失敗した場合のことも考えていたのだろう。

その場合は、台湾と沖縄への攻撃は大規模な陽動だったとして、金門、馬祖を確保し、停戦と引き換えに世界に実効支配を認めさせるだけで良い。


国内の言論空間は閉じているから、統制は容易い。

国民は犠牲が大きいからこそ、敢えて積極的に中国の戦略的、あるいは政治的勝利という国家の語るナラティブ信じ、その決断と結果を熱烈に支持するだろう。

犠牲の大きさは無能な軍部、つまり自分のせいにすれば良いのだ。


何より欧米が言うところの、「力による現状変更」に我々は成功した。

戦場では大敗したかもしれないが、地図を塗り替えることは出来たのだ。

過去の偉大な中国の指導者達が、半世紀に渡って実現できなかったことを国家主席はついに実現した。

たかだか2島かもしれないが、この意味は決して小さくない。今後の世界情勢に対する影響もだ。

戦略的勝利を強弁したとて、あながち間違いではあるまい。


それに勝ちすぎた場合における、軍部に国家主席をも上回る程の、国民的英雄が誕生する心配も無いのだ。

国家主席の後継者争いに招かれざる新顔が登場しては、いろいろとややこしいことになっただろう。


経済の失速と軍備の修復のため、莫大な経済的負担が人民に重くのしかかるだろう。

だが、彼等が復讐のために、それを歓んで受け入れる下地は出来上がっている。臥薪嘗胆の10年ということになるだろう。

すなわち、国家主席の政治的地位は安泰なのだ。

戦場での敗北や、経済の悪化を理由に人民の不満が高まり、共産党政権が崩壊することを西側は期待するかもしれないが、その可能性は著しく低い。


おそらく国家主席は昨年の「政治」の成果が思うように得られない中で、早い段階で「損切」のプランを考えていたのだろう。

その見切りは恐らく、米軍が中国本土の航空基地への攻撃を決行した時点だと張は思った。

あの時点で国家主席は、さっさと戦場での勝利を諦めていたに違いない。

だからこそ、自分達の文字通りの意味での保身に注力したのだ。J20を全て取り上げられたのは、その一環でもあっただろう。

素早く決断が出来たのも、恐らくはこの長征作戦開始直前に張が案じていた、コンティジェンシープランを、密かに中央軍事委員会は策定してあったからなのだろう。


戦後の展開は、必ずしも国家主席の書いた絵図通りにならない部分も出るだろうが、伊達に長年権力を握ってきたわけでは無いから、修正はお手の物だろう。


国家主席の言葉は続いた。

「人民のあなたに対する評価は、必ずしも正当なものとはならないでしょう。

だが、心配することは無い。あなたの功績を私や党が認めないことはありません。安心してください。

ただ、しばらくは名目上の懲罰を覚悟しておいて欲しいのです。

それで、あなたと家族の将来は安泰です。よろしいですね?


では、私はこれから停戦を宣言します。あとのことは我々政治家の仕事になります。


それから停戦を宣言するまでの時間は短いですが、出来る限りの手段を用い、台湾の半導体産業に打撃を与えておいて下さい。


話は以上です。上海に戻って下さい。しばらくは眠る暇も無かったでしょうから、少し休むと良いでしょう。」


敬礼して退室しようとする張を、国家主席は思い返したように呼び止めた。

(やはり粛清か?)

「張中将。本当によくやってくれました。」

国家主席の言葉には、本物の感謝が混じっていた。

張は深々と一礼し、今度こそ退室した。


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