決壊
2025年4月4日 7:50 台湾周辺
夜明けと同時に米軍は、台湾周辺での航空作戦を活発化させている。
沖縄、岩国、フィリピン、韓国から出撃した米軍機は、台湾上空の航空優勢を掌握していた中国空軍機と交戦に入った。
夜が明ける前の方がステルス機の優位性を発揮できるが、「ニミッツ」CSGが攻撃開始位置に着くのが間に合わなかったのだ。
調整の結果、この日の航空反撃は朝日と共に開始された。
中国側は滑走路の復旧が進みつつあったとは言え、J20を取り上げられたままで、数でも不利だった。
台湾上空、周辺の中国軍戦闘機は、SEAD/DEAD任務や、対地支援を行っている友軍攻撃機を援護していたが、彼等は多数の米軍ステルス機が接近しつつあることに殆ど気付かず、攻撃機もろとも一方的に撃墜されていった。
急報を受けて、海南島および内陸の基地から緊急発進してきた8個大隊相当の戦闘機も、米軍機を探知できないまま一方的に損害を出して撃退されている。
とはいえ米軍機はステルスとは言え、中国艦隊の強力なレーダーに探知される可能性が無いわけではない。
彼等は探知されることを警戒して、遠距離からのAIM260やAIM120Dによる攻撃に終始したから、撃墜された中国軍機は一方的展開とはいえ、30機程度にとどまった。
だが米軍としては、これから行われる対艦ミサイル攻撃に対して、迎撃することが出来る中国軍機を、中国艦隊の周辺から追い払うことが出来ればそれで良かったのだ。
台湾東の海域に到達した、ニミッツCSGのアーレイバーク級、タイコンデロガ級は、合計100発のトマホークを中国艦隊上空に向けて発射した。
トマホーク群は、台湾南側を回りこみ、西側の海域へと突入していく。
高度は敢えて高く設定されていた。
トマホークには対艦攻撃能力はなかったが、これは中国艦隊に迎撃ミサイルを消費させるための囮だった。
もし、中国艦隊が迎撃を行わないようなことがあれば、そのまま中国南部沿岸のレーダー施設、港湾に着弾するように設定されていた。
未確認ではあるが、中国の空軍基地に米国籍民間人が拘束されている、という情報がもたらされたため、飛行場は攻撃目標から外れている。
目論見通り、中国艦隊は長、中射程の対空ミサイル400発を消費して、トマホークを全弾迎撃した。
それを確認したF35Aのうち100機が台湾の南、西側を封鎖していた艦隊、輸送船、揚陸艦、その護衛艦に向けて、200発のJSMを発射した。
LRASMと競合することもあり、米軍ではJSMの配備は限定的だった。
だが、中国海軍との交戦が現実味を帯びた時、LRASMの配備は加速したものの、それでも絶対数が依然として不足していた。
このためLRASMの不足を補うために、米軍はノルウェーとオーストラリアが保有していたJSMを買い取っていたのだ。
タイミングにややズレはあったものの、ハワイから過去最大の30機が飛来したB1Bは、650発のJASSM-ERを対艦モードで発射した。
LRASMを撃ち尽くしたため、対艦攻撃の能力は限定的なJASSM-ERを使用せざるを得なかったのだ。
だが、これだけ多数を発射すれば、移動中の艦船に対して命中するJASSM-ERへの期待値も上がる。
続いて、「ニミッツ」から発進したF35Cが40発のJSMを撃ち込んできた。
「ニミッツ」艦内には更にハープーン対艦ミサイルの残弾が多数あったが、射程が短いため使用されなかった。
さらにフィリピンをF15E戦闘機40機が離陸し、40発のJASSM-ERを発射。
与那国に配備されていたNMESISの一部は、再度CH53Eで台湾の宜蘭に空輸されていた。
かれらは宜蘭を守備していた台湾軍に再度、密かな歓迎を受けると、20発のNSM対艦ミサイルを発射。再び何事も無かったかのように、CH53で与那国に引き上げていった。
台湾の西側には、8隻の高速揚陸艦、14隻のエリア防空能力をもった駆逐艦、12隻のフリゲート、多数の戦車揚陸艦、輸送船、フェリーが台湾上陸部隊への補給を反復して継続中だった。
彼等は既に台湾側の迎撃により、少なくない損害を受け、そして多数の対空ミサイルを消費している。
だが、それまでは比較的順調に海上輸送を継続してきたのだ。
そんな彼等に、米軍による合計1000発にも達する、ステルスミサイルの一斉攻撃がなされたのだ。一連の攻撃は矢継ぎ早に着弾し、一挙に彼等の対空ミサイルを枯渇させて、次の瞬間に破滅的な被害を与えた。