余計なフラグ立て
2025年4月3日 15:35 与那国島
陣地や掩体、交通壕や道路が打撃を受ける度に、長谷川一尉には戦闘団司令部から、被害状況の連絡と復旧命令が出ていた。
長谷川は場合によっては、自ら現場に出向いて復旧の指揮をとっている。
この中で最優先は道路の維持だ。
例えば、与那国戦闘団の火力の根幹である3個中隊の重迫撃砲の陣地変換は、高機動車が通行可能な満田原森林公園や久部良岳の道路に拠っていた。
だが、道路に爆撃で大穴が空き、あるいは埋没するような事態が生じれば、陣地変換が不可能になり、迫撃砲班が個別に撃破される危険が高まる。
最悪の場合には、中隊単位で渋滞を起こしているところを砲爆撃で殲滅されかねない。
重迫撃砲中隊だけでなく、補給を含めた与那国戦闘団の動脈である久部良岳の道路の維持は、文字通り死活問題だった。
午後の爆撃は胡中将にとっては散々な結果だったかもしれないが、長谷川にとっては難題を突き付けられている。
複数の掩体が潰され、道路が2カ所で寸断されている。おまけに司令部からは、負傷者用と遺体安置用の掩体を追加で構築することを求められていた。
長谷川は司令部に優先順位の確認を行った上で、道路啓開を最短で完了できるよう、指揮下の施設科中隊に次々と命令を下す。自分の部下にも戦死傷者が出ていることは、少なくとも今は考えないようにしていた。
道路の復旧作業が軌道に乗ったことを、現場に出向いて確認した長谷川は、一人徒歩で自分の指揮掩体に戻ろうとした。その途中で、物理的に切断された通信線の復旧をしていた吉岡と、バッタリ出くわす。
「吉岡!無事だったか!」
「長谷川一尉!」
2人は状況が状況だったものの、タバコに火をつけ、言葉を交わした。
「本当に戦争になって、上陸までされて、このまま硫黄島みたいになるのかなあ、とか正直思ったけど。中国さんには悪いが、このまま勝てそうだな。」
「・・・長谷川一尉、そういうのって、変なフラグが立つかもです。」
「え?そういうもんなの?」
その時、長谷川と吉岡の個人携帯無線機がそれぞれ警報を発した。
「警報。警報。敵空挺部隊が接近中」
その後には、各部署に戦闘配置やら、迎撃準備やら、逆に退避を命じる交信が錯綜した。
これが最近のアニメや漫画の世界の話なら、吉岡が「だから言ったじゃないですかあ」とでも言って、ある程度の掛け合いがあったかもしれない。
だが、二人は警報を聞くやいなや、短く別れを告げると同時に、脱兎のごとくそれぞれの持ち場に駆け出していた。
指揮所に走りながら長谷川は罵る。
「クソっ。諦めの悪い奴らだな!」
台湾方面で金門島、他への空挺作戦に投入されたZ20を主力とするヘリ部隊と、Y20、Il76の2機種の輸送機を超低空飛行させて、ヘリボーンと空挺降下を同時に行う作戦が敢行された。
当初の計画では、先島の空港を占拠したあとに空輸されるはずだった空挺部隊だ。
航空優勢が失われつつあった状況では、かなり危険な作戦だったが、このままだと先島に投入する計画だった空挺部隊が遊兵化してしまう上に、上陸部隊には一刻も早い増援が必要と判断されたのだ。
(作戦を実施する空挺部隊の指揮官達は、危険が大きすぎると反対した。だが、先行した上陸部隊を支援するために、犠牲を厭わない増援作戦の決行を長征作戦統合司令部から厳命された。)
与那国には、ヘリ50機を持って2個大隊、石垣には30機で1個大隊によるヘリボーンを敢行。そして距離のある宮古には輸送機20機を投入し、2個大隊強の兵力が空挺降下を強行したのだった。