台湾解囲
台湾軍が温存していたハープーンを、敢えて与那国の援護に投入したのには、もう一つ理由があった。
数時間前に再びハワイから飛来した、B1B爆撃機による強力な対艦攻撃が実施され、台湾側の地対艦ミサイル、艦対艦ミサイルの攻撃予定が変更になる程の戦果を挙げたからだ。
ハワイを離陸した24機のB1Bは、空調給油をしつつ、数千キロを飛翔してから約200発のLRASMを発射した。その目標は台湾南部沖から台湾東岸沖に進出して、同海域の封鎖を開始した中国艦隊だ。
中国封鎖艦隊は、自衛隊からの先島上陸部隊に対する対艦ミサイル攻撃が行われなくなったことで、先島諸島に配置された日米の対艦ミサイルは、既に撃ち尽くされたものと判断しており、この判断自体はほぼ正しかった。
だが、台湾と先島諸島に配置されたレーダーは、彼等封鎖艦隊の動向を正確に掴んでいた。
このためB1Bは、衛星からの情報と併せ、先日の第一撃より正確な射撃諸元を得ることが出来たのだ。
これまでの戦闘で、やはりHHQ-9Bを半数以上消耗していた封鎖艦隊は、迎撃途中でHHQ-9Bも16も使い果たしてしまった結果、数時間後に与那国沖で展開される防空戦闘と、同様の様相をたどって行った。
つまり、対空ミサイルを射耗した途端に、中国艦艇の損害は激増することとなり、結果として台湾東側に進出した艦艇の大半が、撃沈破されてしまったのだ。
中国側は、前日の戦いでB1Bに搭載できるLRASMは、使い果たされたと判断していた。
生産され始めたばかりで、そんなに数は無いはずだからだ。だが、その見込み、あるいは願望は裏切られた。
米軍は2024年からLRASMを大規模に増産していたのだ。
LRASMは2023年予算ではわずか25発が生産されたに過ぎず、24年の予算でも民間シンクタンクの高い評価にもかかわらず、米空軍は27発を要求したに過ぎなかった。
だが、民間シンクタンクの提言に対しての米空軍の反応に、危機感を覚えた議会がLRASMの増産を指示。この結果、2025年までの1年間で空軍分だけで800発が増産されていたのだ。
それらは、米本土の基地からハワイにC5やC17で続々と送りこまれており、中国側の想定を上回るLRASMが撃ち込まれるという事態を作り出していた。
生き残った艦艇は、生存者を救助しつつ海域を離脱しようとした。しかし、行き足を止めた彼等に対して、周辺に潜伏していた米海軍の攻撃型原子力潜水艦バージニア級4隻と、ロサンゼルス級2隻が容赦無く襲い掛かり、さらなる損害を与える。
一連の空中と海中からの攻撃によって、055級2隻、052D級3隻、054級5隻、053H級5隻が撃沈破され、生き残った封鎖艦隊の052D級1隻以下6隻は、涙を飲んで本土へ撤退せざるを得なかった。
生存者はボートに移乗し、台湾東岸に漂着した。そこで台湾軍に降伏した彼等は、まだ漂流者が多数存在する海面へ、人道的配慮としての救助活動を求めたのだった。
だが台湾側は、救助活動自体は引き受けたが、大規模な救助活動には、封鎖艦隊の潜水艦と中国空軍の攻撃が予想されるため難しいと答えた。
中国側捕虜と台湾軍の交渉の顛末はともかく、この結果、台湾の東側と沖縄に囲まれた海域は中国にとってブラックボックスとなる。
潜水艦はまだ多数が生き残って封鎖を継続中だったが、彼等の索敵能力には限界があった。
つまるところ、海軍艦艇によって台湾を海上封鎖しようという中国側の試みは、この時点で事実上崩壊したのだ。