NPO
2024年4月5日 16:00 那覇
花が連れていかれたNPOの事務所は、久米と名乗る中年女性が代表を務めていた。
他のスタッフもにこやかで、いかにも「いい人」達そうに見える。
久米は元々は東京出身だが、沖縄に活動拠点を移すにあたり引っ越してきていたらしい。
だから東京から来た花と話が合った。
花は挨拶すると久米にバイト代のお礼を述べる。
「なんか、大したことしていないのに、こんなに頂いちゃって・・。」
「いーえ、いいのよ。バイト代は沖縄県からの補助金や寄付から出てるわ。
高い税金を払ってるんだから、取り返して当然よ。防衛費みたいな無駄なお金に使われるより、あなたみたいな若い人にお金をあげた方が、よっぽど有意義だと思わない?」
「税金の無駄・・?そっかー。それは、そうですね!」
花は久米の言葉の意味を深く考えず、無邪気に応えた。
花を含め澤崎が連れて来た若者達を、久米達NPOの人間は精いっぱいチヤホヤした。
承認欲求を満たされ気分が良くなった花は、ついつい高校時代の失敗を語ってしまう。
「まあ、それでSNSのアカウントを無理やり削除させられちゃったの?
なんかそれは違うよねえ?八木さんはその子達とはレベルが違うと思うから、いつかは付き合いきれなくなったんじゃないの?」
「そうなんですかねえ・・・。」
「きっとそうよ!そうだ。そういうことなら、うちのグループにも入らない?澤崎さんとこと掛け持ちで。うちのメンバーになったら、組織携帯を渡すわよ!その番号でSNSアカウント、作り直せるでしょ?」
「え?本当に?いいんですか?」
「いいのよー。その代わり、お休みの日とか、ウチでアルバイトしてくれれば良いから。
がっつり働けとは言わないわあ。
他でバイトするより良いのは分かったでしょ?極端な話、卒業後はウチで働いて欲しいくらいよ。
八木さんなら大歓迎だわー。ウチは沖縄県の知事さんにも良くしてもらってるし、下手な会社に就職するよりお給料全然いいわよ。
今は就職してもブラック企業だらけだし。
ほら、こうして八木さんの行動力で、どんどん縁とチャンスが広がっていくでしょう?」
「本当ですね!私、沖縄に来てよかったです!」
その場で、花はNPOとSONに入ることを決断してしまった。
「さっそくなんだけど、次のお休みでうちのセミナーのお手伝いして欲しいの。日当出すわよ。
セミナーの内容については、八木さんも手伝いながら聞いておいてね。」
「セミナーですか?・・・1回目が沖縄の自然を破壊する、米軍と自衛隊の活動の問題点?」
その次は「アメリカの戦争にまきこまれず、平和な沖縄の暮らしと自然を守るための、沖縄独自路線の重要性?」
「そうなのよ。いくら自然保護活動を頑張っても、米軍や自衛隊が居るとメチャメチャにされちゃうのよ。戦争に巻き込まれでもしたら、全てご破算。
だから、沖縄は戦争から巻き込まれずにいることが、最高の自然保護になるわけ。
そのためには、沖縄は日本政府とアメリカから距離をおいて、中国や北朝鮮との間をとりもつ独自路線を歩むべきなの。
まあ、詳しい話はセミナーを手伝いながら聞いてね!私たちは、単純な自然保護活動も大事だけど、最近では根本的に政治も変える必要があると気づいて、考えて行動もしているのよ。」
「なるほどー、すごいですね。」
後ろでにこやかに久米と花の会話を見つめていた澤崎は、内心まったく別のことを考えている。
弱みを握られ、無理やり中国に協力させられている澤崎とは異なり、久米は中国側の工作員に煽動されて、自分の意思で無自覚な協力者になっていた。
企業からNPOへの寄付金は潤沢だが、迂回経路の元をたどれば中国軍の秘密資金だ。
県からの補助金は、県庁にまで浸透した中国シンパから優先的に割り当てられていた。
NPOは潤沢な資金でバイト代やタダで使えるスマホを餌に、次々と若者を勧誘して組織を拡大し、活動を活発させていた。
今も着々と花達の取り込みに成功している。
(いずれロクなことにならないのに、喜んで自分から中国の手先になりやがって。このバカどもが。)