第1波上陸
北側の大隊も、米軍のハンヴィーに搭載されたヘルファイアや、APKWSの射撃で大損害を受けていた。
中距離多目的誘導弾も、ヘルファイアも打ちっぱなし性能を持っていたから、射撃各班や射撃チームは発射後にすぐ身を隠し、中国側の反撃をかわす。
こうはいかなかったのは自衛隊の96式MPMS(式多目的誘導弾システム)だった。
彼等は水陸両用車に後続する726A型ホバークラフトを狙って、攻撃そのものには成功した。
だが、システムを構成する機材が、発射機以外に情報処理装置、射撃式装置、地上誘導装置と多数であったために、射撃後の退避が迅速に行えなかったのだ。
96式の光ファイバー誘導は、妨害に強い利点もあり、その実態は徘徊型自爆ドローンに近いものがあった。
狙われた726A型は必死に回避を試みたものの、2隻を撃沈することに成功し、1個中隊200名近い陸戦隊員を海上に放り出す。
だが、そこで対空ミサイルを突破してきた自爆ドローンと、攻撃ヘリの射撃を受けて、発射機2台と、情報処理装置を破壊され、1個小隊が射撃不能に陥った。
他の装置は生きていたものの、前線近くで運用するには、全体のシステム構成が複雑すぎるのが96式の欠点だった。
何か一つでも構成する車両を撃破されると、一個小隊がまるごと射撃不能になってしまうのだ。
2025年4月3日 11:35 与那国島
日米のATGM部隊が陣地変換と次弾装填を行う間に、生き残った中国上陸部隊は海岸に辿りついた。
80年ぶりに外国の軍隊が日本の有人である領土を侵攻し、踏みつけた瞬間だった。
しかし、砲爆撃にもかかわらず、自衛隊が敷設した水際機雷と地雷は相当残っていた。
特に北のナンタ浜に上陸を試みた部隊は、祖納港の水際機雷で壊滅的な被害を出しつつある。
生き残った陸戦隊員は車両から脱出すると、祖納港の岸壁にしがみつき、テトラポットから必死の上陸を試みた。
普段は黄海の茶色く濁った海を見慣れた彼等にとって、与那国の海岸は戦闘ではなく観光で訪れたいような土地だったが、今の彼等にとっては悪夢の舞台そのものだ。
空中強襲大隊は、ドローンと攻撃ヘリが盾になる形で与那国に接近していたが、距離が狭まるにつれ、輸送ヘリが狙い撃ちされ始めた。
特にZ-8Jは1個小隊丸ごと搭載できるだけに、撃墜された場合の損害は甚大だった。
約20機のヘリは、8機を撃墜されたものの、残る12機は250名の陸戦隊員を牧場に降着させると、母艦に向けて引き返した。
さらに位置を晒し、残弾も少なくなっていた日米の対空ミサイル群に、自爆ドローンが突入していく。
輸送ヘリ部隊に対する盾の役割も行った攻撃ヘリは、8機中5機を撃墜されていた。
生き残ったのは、長距離対戦車ミサイルを使用した攻撃に徹した機体だけだ。
大損害だったが、第1波が上陸をした以上、第2波の上陸はいくらかやり易くなるはずだった。