火力支援
だが、ドローンは島に接近するにつれ、03式、11式、81式、93式といった地対空ミサイルに次々迎撃された。
それでも数が多いので、島の上空にたどり着くことが出来たドローンも、91式携帯対空誘導弾や、87式自走高射機関砲、三菱電気製のレーザー、妨害電波によって、次々撃破されていく。
与那国と宮古では自衛隊の防空システムに加え、海兵隊のアベンジャー、MADIS(海兵隊防空統合システム)、さらにはミサイルを補完するAPKWSレーザー誘導ロケット等も、大量投入され迎撃に加わる。
中国軍揚陸戦指揮官は舌打ちした。空軍の報告だと、敵の対空ミサイルはほぼ沈黙しているはずだったが、状況は正反対だ。
画像で確認できる戦果は無かったので、友軍の戦果報告を鵜呑みにはしていなかったが、ここまで報告と現実のギャップが酷いとは。
揚陸指揮官は、母艦に着艦可能なタイプの偵察ドローンは引き返させた。
威力偵察と、敵の対空ミサイルを消耗させることはできたが、上陸前に敵をじっくりとドローンで徹底的に叩くという目論見は外れてしまった。
数基の対空ミサイルやレーダーを見つけ出し、自爆ドローンが撃破することに成功してはいたが、これほど敵の対空ミサイルが生き残っていたのであれば、上陸作戦と同時に攻撃を行った方が、まだ効果は見込めたかもしれない。
2025年4月3日 10:42 先島諸島
揚陸指揮官は、ドローンによる攻撃を切り上げると、艦隊による砲撃を開始させた。
一部の075級の飛行甲板にはPCH-191自走ロケット砲2両を上げて、火力を底上げする。
北斗による誘導が当てにならないことは分かっていたから、最初からクラスター弾頭を選択し、精密打撃は行っていない。
結果的には、一連の砲爆撃で、この艦隊からの北斗に頼らない砲撃が最も効果を発揮していた。
与那国の比較的狭い範囲に日米の陣地が構築されているため、無誘導でもそれなりに命中弾が発生したのだ。
砲撃によって、ドローン迎撃を終了後、退避の間に合わなかった対空ミサイルシステム、隠蔽しきれなかった車両、掩蓋の補強が十分でなかった掩体、上陸予定地点の障害物、地雷等をかなり破壊することが出来た。
だがそれでも、その弾数は不十分といえた。
055級、054D級の130ミリ砲にせよ、054A級の76ミリ砲にせよ、対空戦闘用にも用いられる砲である以上、対地攻撃用砲弾は4、50発程度だった。
上陸作戦の直接支援用にも砲弾を残しておく必要があるから、全弾を使用するわけにもいかない。
不足する艦隊からの対地攻撃力を補う目的で積み込まれていたPCH-191にしても、本来は第2船団に組み込まれるべき重装備なのだ。075級本来の主役である上陸部隊の邪魔にならない程度に、数両が積みこまれているに過ぎない。
だがその一発は、運よく長谷川一尉が苦心して構築していた、与那国の弾薬庫1カ所を直撃して、大爆発を起こしたのだった。
しかしこれが限界だった。上陸船団からの攻撃は、もともと十分な空爆が行われている前提の、ダメ押し程度の位置づけだったからだ。
揚陸指揮官は結果を受けて、上海にドローンとロケット砲弾のヘリによる空輸を要請したものの、航空戦が苦戦している状況で、陸上からヘリが到着できるかは不透明だった。
対空ミサイルがあれだけ生き残っていたということは、島の火力も相当生き残っていると考えなければならなかった。だから可能ならば、もっと空爆と砲撃を加えてから上陸を行いたい。
だが、そうしているうちに、日米のさらなる対艦ミサイル攻撃が行われるかもしれない。
そうなれば、すでに対空ミサイルを撃ち尽くしたに等しい第1船団は、下手をすれば全滅する。
心苦しいが、上陸部隊を強襲上陸させ、船団は上海に引き返し、上陸第3波を積み込んで先島に戻ってくるのが正解に思われた。護衛艦も対空ミサイルを補充する必要がある。
一連の思案の後、彼は副官に命じた。
「予定通りだ。上陸作戦を開始せよ」