RTB
2025年4月3日 08:45 那覇市
自衛隊の戦闘機が集団で沖合から帰ってくる。
普段なら気にもとめないか、騒音に顔をしかめる人が多かっただろう。
だが、今は、パイロット達からは見えないし、聞こえないと分かっていても、手を振り声援を送る人々が圧倒的だった。
2時間前の出撃の時もそうだった。
早朝から救助活動を行う人々はやはり「頑張れ!」「頼んだぞ!」「仇とってくれ!」と叫んでいた。
新垣は相変わらず、早朝から救助活動に加わりながら、その様子をまぶしそうに眺めていた。
彼は知事を殴りつけたあと、いったん警察に身柄を拘束されたが、未成年であること、逃亡の恐れが無いこと、何より警察は他にやることが山積であることから、後日出頭する条件ですぐに解放されていた。
消防隊も増援されている。新垣は彼等に聞きたいことが出来た。
「ねえ、斎藤さん、我如古さん。あの戦闘機に乗る仕事に就くには、どうやったらいいんすか?」
それを聞いた二人の消防隊員は苦笑したが、「無理だ」とは言わなかった。
君には消防に来て欲しかったけどな、と言いつつ、自衛隊協力連絡部という窓口の存在を教えてくれた。
2025年4月3日 08:50 築城基地
潘に辛くも勝利した柳瀬のフライトは、空中集合してから築城基地に帰投した。
帰投中も基本的に無線を封止している。
田辺は着陸後、機体を駐機させる。すると、例えようも無い程の安堵感に包まれた。同時に出撃前は殆ど無かった食欲が猛烈に復活してくる。
だが、食欲より知識欲が勝る。田辺は先ほどの戦闘について、柳瀬に聞きたいことが山ほどあったのだ。
機付長と降機チェックを終え、点検表にサインしてF15を機付長に「返却」すると、柳瀬に彼のTACネームを呼びながら駆け寄った。
「「ジョージ」さん!」
「おう!「キャノ」!さっきはありがとう!助かったよ!1機撃墜!よくやったな。おめでとう!それにしてもアイツ、滅茶苦茶強かったな!やばかったぜ。俺まだ足が震えてるよ。」
「聞きたいことが一杯あります。」
「歩きながらな。お前も聞きたいだろうが、司令部も知りたいだろう。デブリーフィングは長くなるぜ。」
「なんで、あの時すぐにシザースに持ち込めたんです?ヤツがAAM5を避けるって、分かってたんですか?」
「ああ、アレか。俺の中でもまだ整理できてないんだ。なんつーかな、激熱の保留なのに、外れてしまう時とか、確率変動に入ったと思ったらすぐ終わっちまう時と同じ、嫌な予感がしたんだよ。」
柳瀬は田辺の疑問に半ば茶化して、パチンコをやらない人間には分からない例えをしてきた。田辺は不満そうに口を歪める。
「冗談だよ。そんな顔するなって。」
柳瀬はいたずらっぽくウインクする。
「中国さんは、俺たちが後ろから仕掛けた時には、かなりエアスピードを失っていた。
機動で打てる手は限られているにしても、奴の旋回は綺麗過ぎるように見えたんだ。
本気で逃げるなら、もう少しジタバタしてると思ったんだよな。27や11の方が、こっちよりも足は速いわけだし。」
「我々を誘い込んでいるように見えた、ということですか?」
「そう。上手く言えないけどそうなるな。「カンだった」っていうのは答えにならない。」
田辺はうなずく。
「ほんで、奴は単機なのに反撃を狙ってきた。
やるなら「コブラ」とか高AOA系の技で、こっちをオーバーシュートさせるかもしれない、とは思ったけど、一瞬だけ異常姿勢に入るアレをかますとは思わなかったよ。
あの瞬間は、完全に奴をロストした。
だから念のために「キャノ」とのセパレーションを広げておいて正解だったわけだ。
ただ、もし、あそこで他の奴に邪魔されたら、俺たちが離れ離れになるとこだったけどな。でも、あのままシザースを続ける方が遥かに危険だった。」
そこへ、柳瀬のフライトの2名と、整備隊員達が田辺の初戦果を祝福しに加わった。水バケツこそ無かったが、田辺はもみくちゃにされ、柳瀬との振り返りは中断された。
2025年4月3日 09:50 築城基地
潘少佐とF2の3人のパイロットを救助したUH60は、築城基地に帰投した。
潘はエプロンに居並ぶF2やF15を見つめる。
(無防備な・・・。今、ロケット軍が攻撃してくれれば、まとめて吹き飛ばせるのに。)
驚異的な視力を持つ潘は、先ほど死闘を演じたF15の機首に記入してあった、3桁の番号を覚えていた。
駐機しているF15の中に、その番号の機体がいないか無意識に探している。