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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
上陸
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単体の悪意が結合した日

そして、堀部をはじめ、一部の子供達は「シン・YOU・愛」関係者の望むレベルを超えて、「日本」という国と、そこで幸せそうに生きる人々を、自分達の境遇を見て見ぬふりをする大人達を、心の底から憎むようになっていく。


「シン・YOU・愛」は、単に減る一方の某政党支持者の岩盤支持層を増やすことと、活動家の後継者を育成している「だけ」のつもりだった。

だが、彼等の思惑を超えた、怪物が施設では育ちつつあったのだ。

これにあと少しだけ不幸な出会いが加われば、「シン・YOU・愛」を巣立った子供達はいとも簡単にテロリストや、日本にとっての「敵」になろうとするだろう。

堀部はその典型だった。


彼は自分に夢も希望も無いことを自覚していた。幸せだったはずの幼少期や家族の記憶すら曖昧になっていた。

荒んだ施設生活の中では、子供同士の虐め、チクリあい、無益なヒエラルキー争いばかりだった。

その中で、他人を陥れること、自分よりも不幸な人間を見ることが、徐々に生き甲斐となっていったのだ。


堀部は「シン・YOU・愛」を憎んでいた。それ以上に、こんな連中に認可を与え続け、野放しにしている日本という国そのものを憎んでいた。

何も知らずに幸せに生きているだけで、彼にとっては「敵」だったのだ。


堀部は18歳になり、養護施設を出た。そして社会に出るのではなく、そのまま「シン・YOU・愛」のスタッフになることを選択する。

学校に居場所を見つけられなかったのと同様に、一般社会に居場所を見つけるのも難しいだろうと思っていたのだ。

そう仕向けられてきたのも理由の一つだったが、彼なりの理由があった。


スタッフになれば、遠方で発生した災害等の支援ボランティア活動に「シン・YOU・愛」の金と支援を受けて従事出来るからだ。

そこで悲嘆にくれる人々と、粉々になった他人の幸福な日常の残骸を直接見るのが、彼にはたまらなく愉しい。TVでしか見ることの出来ない悲劇の現場を、自分の目で見て回りたいと以前から願っていたのだ。


さらに、そこで家族を失った子供がいれば、善意を装って接近し、「シン・YOU・愛」の施設に送りこんでしまった。

勿論そうなってしまえば、自分同様にその子達がロクな目に合わないことは知っている。

さらにそういった子供達に、施設内の事情を知らない振りをして、定期的に会いに行っていた。

光の消えた生気の無い目をし、言いたいことを我慢している子供の顔を見ると、悪趣味な笑いが洩れそうになるのを堪えるのに苦労した。


堀部が20代になってしばらくしてから、「シン・YOU・愛」は沖縄に進出した。

沖縄は米軍基地負担と引き換えに、莫大な振興予算を与えられている。

おかげで他の自治体と比較しても、福祉サービスの予算は潤沢だった。おまけに某政党の勢力は最も強い地域でもある。

今まで「シン・YOU・愛」が進出していなかったのが不思議なくらい、彼等にとっての好適地だったのだ。


「シン・YOU・愛」が沖縄に進出することを決めた時、オープニングスタッフの募集に堀部は応じて、沖縄本島に引っ越した。


そして沖縄に「シン・YOU・愛」の施設が出来た時、前田が見学に訪れ、彼はその隠された実態にあっさり気付き、心底感動し、共感し、感心したのだ。

(素晴らしい。これは使える。今手駒に使っている間抜けな学生や、NPO連中とは訳が違う。

本当に日本を憎み抜いている「日本人」がゴロゴロしているじゃないか。しかも若いときた。)


そして施設の案内役だった堀部の本性にもまた、あっさりと気付いた。


堀部もまた、前田の本性に気付いた。

彼は施設生活の中で、職員の顔色を伺い、他人の内心を推し測る習慣が染みついていたのだ。

お互いに、曖昧なカマの掛け合いで正体を確認しあうと、悪党同士の笑みを交わし、連絡先を交換した。


こうして最悪の出会いは成立したのだった。


前田との短い電話を切った堀部は、前田から継承することになる中国諜報機関とのプロトコルについて考えていた。

それを使用して、「シン・YOU・愛」を隠れ蓑に、日本の敵を組織することを思い浮かべ、ゾクゾクとする。ようやく生きる目的が見つかったと思う。


誰も見ていないのにもかかわらず、内心を押し殺すように心にもない独り言を口にした。

「下地里奈ちゃんか。ものごこころついて早々、家族を全て失うとは気の毒に。ウチで引き取ることになったのが、不幸中の幸いか・・・。」

(文句なく自分より不幸だ。記憶が形成され出す年齢で、「シン・YOU・愛」暮らしとは、最悪の人生だ。遠慮なく手塩にかけ、中国の手先に仕立てあげてやるか。)


内心と正反対の独り言を口にした堀部は、次の瞬間にはハイエナのような笑い声を立てていた。


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