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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
上陸
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悪意を育む福祉

「シン・YOU・愛」は全国規模を自称していたが、実際にはそこまででは無かった。

進出する地域は前提として、某政党勢力が強い地域である必要があった。でなければ、頻繁に起きるトラブルが生じた際に、もみ消しが難しくなるからだ。


堀部と「シン・YOU・愛」の関係が生まれたのは、東北の地震の時だ。

「シン・YOU・愛」は被災地で新たな孤児を「獲得」するために、多数のボランティアスタッフを派遣していた。

ごく普通の10代になったばかりだった堀部少年の人生は、この災害であらぬ方向に向かい、「シン・YOU・愛」との出会いによって、決定的に狂ったものにされてしまったのだ。


あの日、押し寄せた津波によって、堀部は家族全員と親戚の大半、友人の多くを永久に冷たい海に押し流された。

彼は正直、今でもあの日の前後の記憶がはっきりしない。あまりに強烈な記憶で、頭が思い出すことを無意識に拒否している。

だから、堀部の中では東北の自宅で暮らしていたのが、いつの間にか「シン・YOU・愛」の児童養護施設で生活するようになっていた。その経緯を思い出そうとすると、吐き気を伴う酷いストレスに苛まれる。


「シン・YOU・愛」での生活は、それまでの生活とのギャップがありすぎた。

タチの悪いことに子供達にとっては、それが最初で最後の施設であり、他との比較のしようが無く、環境の異常さに自ら気付けるチャンスは殆どない。

堀部は、誘導尋問じみたスタッフとのやりとりの末「本人が辛い記憶の残る地元での生活を希望していないため」として、東北から「シン・YOU・愛」の地元、神戸の施設に引っ越していた。

だが、その実態は強制移住、拉致に近いものだ。


右も左も分からない子供を、縁もゆかりも無い土地に放り込み、施設関係者以外としか会話の生まれない状況を作り出すための常套手段だった。

実際、ただでさえ心の傷を抱えて心を閉ざし気味だというのに、見知らぬ土地で、部活もアルバイトも理由をつけて事実上禁止されていた堀部は、施設の人間以外と殆ど会話をしなかった。


だがそれでも堀部は、自分が地獄のような施設で生活していることに気付いていた。

まず自分自身の「尊厳」「主体性」といったものが無いのだ。

施設関係者以外との接触は、あれこれ理由をつけて制限される。インターネットもスマホもほぼ使えない。


食事の質も低かった。補助金や寄付金は施設利用者には殆ど回されず、抜かれてスタッフが某政党の政治活動に参加したり、某政党を支持する「市民」活動家達の生活費にするために充てられていたからだ。

施設内で少しでも良い目を見たければ、スタッフに絶対服従だった。逆らったり自分の考えを持とうとしたら「反省部屋」行きとなる。

わずかな小遣いを得るためには、徹底して施設職員に対して「良い子」として振る舞わなければならなかった。


自治体への監査でも告げ口は出来ない。

ただでさえ自分達の異常な環境に気付けない上に、彼らには他に行き場所が無いからだ。(施設側の言う通りしなければ、施設を追い出すと脅された。

施設を追い出されれば、身寄りも金も無い彼等は、野たれ死にするしか無いと思い込まされていたのだ。)

このような環境で子供達は酷いストレスに曝され、性格が歪んで行く。ストレスは、さらに子供同士の陰湿なイジメの温床ともなっていく。

もちろん「絶対者」として君臨する職員による、性的なものを含めた虐待も横行していた。


学校には行かせてもらえるが、まっとうな世界に生きる他の生徒や教師とは、どうしても超えられない心の壁があった。

彼らの送る日常と、堀部達の日常にはあまりにもギャップがありすぎ、自然とクラスメイトと距離を置いて一人で過ごすようになる。

「シン・YOU・愛」は事実上、不登校を奨励さえしていた。

一度は学校に行かせたという言い訳さえできれば、あとは自分達の意図通りに子供達を政治活動家へと「養成」したいからだ。


学校の教師に施設生活への疑問を相談するのは、無駄か逆効果だった。

施設から通うことの出来る学校は、某政党の政治活動を熱心にやるような教師に牛耳られている「提携先」だったからだ。


SNS時代になり、18歳になって施設を出てから「シン・YOU・愛」の実態を拡散させようと試みた者もいたが、すぐに某政党お抱え弁護士に「名誉棄損」で潰された。

裁判を戦うような資金が彼等にあるはずもなく、なす術が無かった。


「シン・YOU・愛」が作り上げたのは、家族を失った衝撃で混乱している子供を巧妙に洗脳して行き、施設側の言う通りに、最終的には成人してからも、某政党関係者の言う通りに動く人間を育てあげるシステムだった。

彼等に徹底的に教えこまれるのは、日本という国への「恨み」だった。周囲にいる大人達は、何かあるごとに「国が悪い」「与党が悪い」と口癖のように言っている人間ばかりだったからだ。


家族を失ったことも、学校で出会う幸せそうな他の子達と自分の生活がまるで異なるのも、全部日本という国が悪いのだ。「シン・YOU・愛」で生活するうちに、そこで過ごす少年少女はそう思わされていく。


「だから某政党を強固に支持しなければならない」という意識に誘導するのが、「シン・YOU・愛」の大人達の目的だった。

その自覚が無かったにせよ、未成年に洗脳じみた手法を用いて自由な思考を奪い、特定の政党を支持するように仕向けるなど、精神的な虐待以外の何物でも無い。

だが、当の子供達は異常な環境に自分で気づくことも、まして声を上げることも出来なかった。


沖縄で世間知らずの学生を親中派に取り込む活動よりも、遥かに悪質なやり方だった。


だが敏感で聡明な堀部は、僅かな機会を逃さず、少しずつ自分が生活している環境の異常さに気付いていったのだ。


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