表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
上陸
141/221

閾値

(だが、それにしても・・・。)

ヘリの中で張は思う。

(日本の政治家は意外に早く、中国本土への攻撃を決断してきたな。

もっとためらうものだと予想していたが。

自分ですら意外だったのだから、日本の政治家を舐め切っている中央軍事員会のお歴々にとっては、いじめられっ子に殴られたような不快感だろうな。

日本の政治家は「話し合い」を求めることも、いつものように「慎重に事態を見極める」こともしなかった。自分が北京に呼び出されて、八つ当たりされるわけだ。)


張は戦争のエスカレートを招きかねない、米軍による中国本土の航空基地への攻撃が、あっさりと実行されたことについて考えていた。

それに対する中国側の報復攻撃の対象は当然、今は抑制している沖縄以外の日本本土ということになる。

それ故、米軍といえど、さすがに日本に対して何の相談も無く攻撃を実行すれば、日米関係に悪影響が生じるはずだ。

だが、だからと言って米側が相談したところで、日本政府はいつものように迅速な決断ができないか、慎重な態度を示して時間を無駄にする。・・・そのはずだった。


だが、実際には即座に実行された敵の中国本土への反撃によって、中国側の航空作戦が大きく狂わされる展開になっている。

日本自身の「反撃能力」の整備は未だ途上にあったものの、米軍による中国本土の軍事施設に対する反撃に、日本政府はあっさりと同意したらしかった。

つまり、弱腰のはずの日本政府は、日本本土への更なる報復攻撃への覚悟をも固めていたことになる。


張は知らなかったが、彼の疑問に対する回答は、実は1週間前には出ていた。


自衛隊に対する緊急展開が決定された時、中国の侵攻が現実になった場合の日本と世界経済および、

国民生活に及ぶ影響についてのレポートが、国家安全保障会議メンバーに提出されていた。

経済産業省が主導して作成したものだった。


そのレポートによれば、戦争の規模、期間、展開のケースによって、影響の度合いは様々だった。

共通しているのは、事態が長期化すればするほど、当然ながら世界規模のサプライチェーン、日本の輸出入への影響も長期かつ、深刻化するという結論が出ていたことだった。

当然ながら事態の長期化に比例して、日本の経済活動と国民生活に対する影響も、長期かつ深刻なものになっていくだろうと予測されていた。


レポートの概略と数字を眺めた出席者達は青ざめた。そしてその内容は、与党の重鎮達にも伝わったのだ。

事態の抑止、平和的解決に失敗した時点で、首相の引責辞任、内閣総辞職という事態は避けられないだろう。

だが彼等は、さらにこのレポートの、最悪パターンのシナリオが現実となった場合を想像したのだ。(その後での総選挙で果たして我々は勝てるだろうか?)


口に出しはしなかったが与党の政治家達は、要は自分の議席の心配をしていたのだ。

首相の巻き添えは御免こうむる。

そのためには、本当に戦争になった場合には、一刻も早く国民が納得する形で終わらせる必要がある。

しかし、初動で中途半端な対応をしてしまえば、早期解決の可能性は遠のいていくだろう。

つまり一言で言うなら、自衛隊と米軍に「自分の議席を守るため、さっさと勝ってくれ」ということだった。


このため、米軍が「ダークイーグル」や各種トマホークを持ち込んで、日本本土から中国本土への反撃案の説明と同意を求めてきた時、日本の側の主な政治家の回答は既に決まっていたのだ。

彼らの決断が万一裏目に出て、被害が拡大した場合の責任は、首相と防衛大臣に押し付ければ良い。


上海の司令部に戻った張は、指揮所のモニター見回した。

モニターの一部が、CNNのニュースを映している。アメリカは衛星を利用したサービスから中国を次々と締め出していたが、ニュースの視聴は放置していた。

中国側にとっては都合の悪い情報だらけで、人民の視聴は厳禁になっていたが、軍もその内容をモニターしている。

ちょうど沖縄に入っていたクルーが撮影した映像を流していた。


一瞬だけ、張はその内容に目をやる。

破壊されたマンションと、民間人も混じっての救助活動。誤爆されたシェルターと、路上に並べられた犠牲者。悲嘆にくれる遺族。

それで充分だった。


(まずいな。報道が速い。こんなものをこの調子で流されては本当にまずい。

これを見た日本人は、事態を「他人事」とは考えなくなってしまうだろう。連中の意識が閾値を超えて、結束と戦意が生まれてしまうじゃないか。

一度連中の戦意に火が付くと厄介だ。

かつて米軍がやったように、無差別攻撃と飢餓作戦を遠慮なく行いでもしない限り、屈服させられない。そしてそんな方法は・・わが国には核兵器の使用しか無い。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ