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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
機体をコントロールするのにスティックは握りしめるな。生卵をそっと包み込むように。
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インストラクターパイロット

その時、相手のF15が今度は急にシザースを打ち切って、水平飛行に戻った。

潘は面食らった。シザース機動はまだ1旋転目が終わったばかりで、相手には機動を続ける体力が、1分間相当は残っているはずだったからだ。

相手は潘のJ11Bの前に飛び出す。再びHMDでのロックオンを躱されたものの、潘もまたシザースから立ち直ると、今度こそ後方から完璧にロックオンを決める。


相手は水平飛行に戻ると、今度は左の垂直旋回に入っていた。

(苦しまぎれか?もう逃げられないぞ)

潘はF15のパイロットの意図を図りかねたが、ロックオンをかける。だがすぐに気付く。

「罠だ!」

次の瞬間、J11Bの右翼が吹き飛んだ。

潘は一瞬もためらわず、フェイスカーテンハンドルを思いきり引っ張って、体を小さくし、コクピットから緊急脱出する。

直後に2発目のAAM5が、藩のJ11Bを打ち砕いた。

(失敗だった。敵の僚機が考えていたより遥かに早くカバーしてきた。あのしぶといF15のパイロットは、そこまで読んでいたのか?)


田辺2等空尉は、柳瀬3等佐の僚機=ウイングマンを務めていた。まだ飛行時間は1000時間にもならなかったが、201飛行隊でインストラクターパイロットを務める柳瀬3佐に鍛えられて、急速に技術を伸ばしていた。

航空自衛隊の戦術戦闘飛行隊では、技量に優れたパイロットがインストラクターパイロットとして、若手を指導する。

普段の訓練からして柳瀬3佐と組んでのフライトが多かったが、今日の実戦でも彼の2番機に入った。


F2と交戦中のJ11編隊を奇襲することに201飛行隊が成功した時、柳瀬3佐は自身のフライトを分離した。

柳瀬は田辺だけを率いて、1機で孤立していたJ11Bの攻撃に入ったが、何故か田辺に自機との間隔を広げるように指示した。


その直後に、田辺は柳瀬機がAAM5を発射するのを目撃したが、次の瞬間に信じられないものを目撃する。


J11Bはスピンもどきの機動、日本のパイロットが昔から「捻りこみ」と呼んできた機動に近い動きで、あり得ない程の急速な方向転換を行うと、AAM5を躱してしまったのだ。

サイドスラスターで高機動を行うAAM5は、回避不可能なはずなのに。


それでだけでなく、柳瀬機は相手の前に飛び出しかけている。

間隔を広げていたおかげで、田辺からは状況が見えていたが、柳瀬からはJ11Bが消えたように見えたはずだった。

(危険だ!中国にもあの機動を出来るパイロットが存在するとは!)


田辺はプレストークボタンを押して無線を作動させ、柳瀬に緊急回避を促す「ブレイク」を叫ぼうとする。だが、彼はさらに信じられないものを見る。


柳瀬はまるでそうなることが分かっていたかのように、即座にバレルロールを行って相手の前に飛び出す事態を回避したのだ。

だが、彼等のF15はHMDを装備していないため、AAM5の能力を完全に発揮できない。

J11BがHMDを装備しているタイプだったら、このままだと柳瀬は撃墜されてしまう。

その時柳瀬から、他人事のような落ち着いた声で無線が入る。

「キャノ。ロックしとけ。まだ撃つなよ。」


柳瀬のF15とJ11Bは、お互いバレルロールを打ち合い、ローリングシザースにもつれつつあった。

間隔を開けていたので、田辺機はシザースに入っていない。

スロットルを絞って2機の前に出ないようにしつつ、簡単に田辺機のAAM5はJ11Bを捉えた。

だが、このまま発射すると、柳瀬機を誤射するか、命中の爆発に巻き込む可能性がある。だから柳瀬はまだ撃つなと言ってきたのだ。

「ロックオン!」


すると柳瀬はシザースを切り上げ、J11Bの前にあえて飛び出して間隔を空ける。

さらに急旋回を行って、田辺機の射線から退避。ほんの一瞬だけ柳瀬機を巻き込む心配が無くなった。


すかさず柳瀬が「やれ」と言ってきた。

「エメット3・2、フォックス・ツー、フォックス・ツー!」

田辺がAAM5の発射を無線でコールし、リリースボタンを押し込むと、翼下のレールランチャーからAAM5が飛び出す。一瞬間を置いてもう1発。


間一髪、J11Bが攻撃を開始する前に、田辺が放ったAAM5が相手の右主翼を吹き飛ばす。

さらに驚いたことに、相手のパイロットは瞬時の判断でベイルアウトを行って、2発目のAAM5が直撃する寸前に脱出した。

「なんて奴だ。」

田辺はJ11Bのパイロットの瞬間的な判断力に舌を巻く。


薄氷の勝利だった。

一瞬のチャンスを逃したら、次の瞬間には柳瀬が撃墜されていた所だった。

そうなってしまえば、田辺一人では勝ち目が無かったはずだ。

いくら背後をとっていても、AAM5を躱し、劣位から柳瀬と互角以上に戦った上に、あれだけ反射神経の良いパイロットだ。


性能の劣るF15では、AAM5で攻撃する前に切り返されて、正面からの打ち合いに持ち込まれていたかもしれない。

そうなった場合、HMDを相手が装備していたなら、今度は田辺が一方的に攻撃されていたはずだった。腕が違いすぎる。

離脱しても良かったが、簡単に逃がしてくれそうな相手でもなかった。


「サンキュー、「キャノ」。助かったぜ。」

間一髪だったのに、柳瀬の声はパチンコ代を貸した時に礼を言われた時と、大して変わらなかった。

(「キャノ」が田辺のTACネームだった。配属されて間もない頃に、腕時計をF15のキャノピーぶつけて傷をつけてしまうという失敗をした時に、柳瀬がつけた)


怖かった。性能の劣るF15でも、J11Bと互角に戦える技術を磨き上げてきた柳瀬が居なければ、殺されていたと思うとゾッとする。時間にすれば一瞬で終わった格闘戦だったが、様々なものが詰まっていたと田辺は感じていた。


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