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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
機体をコントロールするのにスティックは握りしめるな。生卵をそっと包み込むように。
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シザース

次の瞬間、潘は思わず感心した。

前に飛び出したと思ったF15は、もたもたと潘を探して直進することなく、直ちに大きな楕円を描くバレルロールと呼ばれる機動に入ったのだ。

そのまま直進していれば、難なく潘に撃墜されたであろうF15のパイロットは、瞬時に状況を理解していた。


潘のJ11Bが見えていないにもかかわらず、その周囲をまとわりつくような機動を行うことで、潘の真正面に飛び出し、まともに背後からの攻撃を受ける状況を回避する。


それを見た潘もまた即座にバレルロール機動に入った。そのままだと、今度は潘の方が相手の眼前に飛び出してしまうからだ。


お互いが、相手の前に飛び出すまいと、バレルロール機動を行う状況は、ローリングシザースと呼ばれる。それ自体は珍しい状況では無い。

だが、こうまで唐突にローリングシザースに入ることは、通常の訓練ではなかなかあり得なかった。


そもそもAIM120やAAM4B、そしてPL12、15といった長射程のレーダー誘導方式かつ、撃ちっぱなし機能を実装する、高性能な空対空ミサイルが普及した現在の空中戦では、目視視程内(人間の目で見える範囲)での格闘戦に陥ることは殆どあり得ないとすら言われてきたのだ。


ひと昔前の格闘戦訓練であれば、一度ローリンググシザースに入ると、お互いのパイロットにすさまじいGがかかるため、体力勝負となってなかなか決着がつかないことが多かった。

我慢比べの果てに、そのままドローになるか、体力が持たなくなった方が先にシザースを中止してしまい、相手の前に飛び出して撃墜されてしまうかのどちらかだ。


だが、今はヘルメット・マウント・ディスプレイ=HMDに対応した高機動の短距離空対空ミサイルが存在する。

かつては、一度背後につかれても、シザースにさえ持ち込めばミサイルを撃ち込まれることなく、体力勝負に持ち込み、相手を息切れさせることでドローに持ち込むことが出来た。


だが、今やシザースを行っていてもGに耐えて、HMDで視線を送ることさえ出来れば、PL10が赤外線シーカーの首を大きく振って、目標を捉えてくれる。

そして発射後は信じがたい程の進路変更を行い、真横でバレルロールを行うF15を撃墜することが出来るのだ。


潘は相手の僚機を確認できていないことを理解していた。

空中戦の定石では相手の援護機を確認できずに、しかも自分の僚機がはぐれている状態で交戦を続けるのは極めて危険だった。

シザース機動を数十秒も続けてしまえば、相手を撃墜したところで、自分の体力も、自機の運動エネルギーも残されておらず、次の瞬間には自分が敵の僚機によってたやすく撃墜される。

そもそもの話として、相手の僚機に挟み撃ちにされてしまう。

余力がある内に、シザースを切り上げて離脱するべきだった。


だが、潘は相手の近代化改修がされていないF15にはHMDが無く、自分にだけHMDが有ることを理解している。

こうなれば、ローリングシザースに入ったところで、潘の方が圧倒的に優位だった。

(敵の僚機はまだ状況を把握できていないはずだ。援護位置に入られるまでの、わずかな時間で決着をつけてやる!)


相手を見上げる形で潘はF15を目視し続けている。

今や相手の形をはっきりと確認できた。

実戦で宿敵である日本軍のF15、その上面をはっきりと見つめている。

F15のパイロットもまた潘と同じ姿勢でこちらを見ていた。

激しいGに、コクピットの底に体をおしつけられ、腹に力をこめて呼吸をする。相手をはっきり見ていると言っても、今のところ、視界の角で捉えている程度だ。


相手のパイロットはバレルロールも素直に行っていない。

ラダー(方向舵)を僅かに入れることで、横方向の滑りを加えていた。

潘が教科書通りのバレルロールで対応していると、いつの間にか相手の前にのめり出てしまうところだ。

だが、潘は相手の機体と、舵の動きを非常に良く観察しており、惑わされることなく自らもラダーを使って動きを合わせる。

(コイツ、やるな・・。)


潘は恐怖を覚えると同時に、戦闘機乗りを志した昔から憧れていた、F15相手のドッグファイトが現実になっていることに興奮を覚えていた。体内をアドレナリンが駆け巡り、時間がゆっくり経過するように感じる。


(この腕のいいパイロット相手に、やはりこのままシザースを続けるのは危険だ。

だが、敢えて離脱はしない。あと5秒以内で奴を墜とす。その後で敵の僚機もやる。

そうでもしなければ、数的に圧倒的不利なこの状況を打開して船団を守ることができない。)


J11BとF15は、お互いに螺旋を描き続けた。

潘少佐はGに抗って、首を徐々に上に向け続け、頭上の背面状態のF15をついにHMDのサークルにとらえようとする。

だが、PL10ミサイルのシーカーがF15を捉える直前に、相手はフレアを多数放出した。

一瞬だがシーカーがフレアを追いかけて後逸し、再びF15を追いかける。

(しぶとい奴だな。)


即座にシザースに持ち込んだ判断といい、敵のパイロットはこちらの考えを読んで、素早く手を打ってくる。手強い。だが、もう打てる手は残っていないはずだった。


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