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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
機体をコントロールするのにスティックは握りしめるな。生卵をそっと包み込むように。
134/221

ウイグルの空と、九州沖の空と。

バックミラーを見た潘は、二つの黒点を見つける。背後を振り返る。シルエットからして敵はF15に間違い無かった。他に追尾してくる敵機はいない。

バックミラーで視認可能な距離、範囲にまで接近された。ということは短射程の空対空ミサイルであるAAM5を今にも撃ってくるだろう。

サイドスラスターを使用して激しく機動してくるAAM5は、撃たれたらまず、回避できない。


201飛行隊はAWACSからの誘導で、J11BがF2を追撃するのと同時に再度反転していた。

さらにレーダーを切って追尾。第2次大戦の空中戦さながらに目視だけで目標を認識すると、F2と交戦中の敵に対して、一気にAAM5の射程まで接近して格闘戦に入っていく。


F15を上回る機動性を誇るJ11Bだったが、F2との交戦でスピードと高度を消費した直後で、満足な回避機動を行えなかった。201飛行隊は性能面の不利を戦術で覆したのだ。


それでもあきらめずに回避機動を行う潘少佐は、J7を操縦していた頃、性能の劣る自機で日米台の第4世代戦闘機に勝つために、似たような囮戦法を考えていたことを思い出していた。

あの頃は、数的優位を生かして性能差を埋める手を、あれこれ必死で考えていた。

(いまや立場は逆転したはずなのに、こちらが追い詰められている)


さらに潘少佐はF2との交戦で、僚機と離れて孤立してしまっていて危険だった。

僚機を呼び出すが、応答が無い。撃墜されてしまったかもしれなかった。


だが、一つだけ良い点があった。僚機がついてくることが出来ない、難しい機動を遠慮なく実行できることだ。


潘少佐は驚異的な視力で、激しい機動中にバックミラーに移る黒点から、白煙がわずかに上がるのを見逃さなかった。敵機が空対空ミサイルを発射したのだ。

空対空ミサイルは高速な上、発射後は煙を殆ど引かないから、接近するミサイルを見つけるのは非常に困難だった。


だが、潘少佐は地上に居る時に、緻密な計算を行っていた。

その計算とは、様々な位置関係と相対速度で、敵からミサイルを発射された場合に、自機に命中するまでの時間をはじきだしたものだ。彼はそれを一覧表にして、しかも丸暗記していた。


緻密な作業どころか面倒にも程がある上、そもそも自分の計算が正解かは分からなかったから、他のパイロットにまで共有していない。

あくまで個人研究だったが、今まさに自分の研究と努力を試す瞬間が訪れたのだ。


攻撃された時、潘少佐は左へ急旋回を行っていた。

ミサイル発射を視認してから、自分の計算を当てはめてタイミングを計る。

そして、計算を信じて一気に操作に移った。

まず、フレアを放出すると、引き気味だった操縦桿を、さらに一杯まで引く。ほぼ同時に左のフットペダルも一瞬だけ、一杯に踏み込む。


潘少佐の操作により、それまで綺麗な左急旋回を行っていたJ11Bは、急に左に機首を振ったことで、気流に対するバランスを崩した。

同時に機首上げ操作を行い、加重が急激にかかったことで、下げ翼側である、左翼の気流が一瞬で剥離して失速する。


旋回中に左翼が失速し、右翼のみが揚力を保っていたことで、J11Bは通常の操作では止めることが出来ない、左方向への急横転に入る。

そのままスピンに入り操縦不能になりかけるが、潘の操作は完全なスピンとは微妙に異なっていた。


潘は引いていたスティックを今度は逆に突いて、右のフットペダルを踏み、スピンの回復操作を行う。すでに一杯にしていたスロットルも操作して、アフターバーナーを点火すると、左翼の失速を強引に回復した。


天地が一瞬でひっくりかえっていた。

潘少佐の頭上に鮮やかな九州沖の海が広がる。ウイグルの荒涼とした景色を見慣れた彼には、新鮮な眺めだったが、その感動はほんの一瞬だけ彼の脳裏の片隅を掠めたに過ぎない。

傍目からは、潘のJ11Bは何の変哲もない左急旋回から前触れなく、いきなり直角に降下を始めたように見えただろう。


潘のJ11Bはスピードを急速に取り戻しつつあり、さらに元の進行方向にジリジリと復帰しつつあった。

生きている事実をもって、彼はAAM5を躱したことを確信している。

実際、AAM5は潘が絶妙なタイミングかつ、一歩間違えば完全に操縦不能になる規格外の回避機動によって、2発撃たれていたものが、2発とも失中していた。


潘の行った操作は絶妙だった。失敗すれば今行ったような、急激な姿勢変化は生じない。

スパイラルダイブか、ターニングストールになるか、逆に完全なスピンになっていたはずだった。いずれの場合も、機体の速度と高度を徒に失うばかりで、AAM5を躱すことは出来なかっただろう。


潘はこの技を訓練でも滅多に使わない。

しかも、普段のウイグルと九州沖とでは、同じ高度でも空気の湿度、密度が異なるにも関わらず、わずかな時間を飛んだだけで、操舵の加減を感覚的に調整することにすら成功していた。

J11Bの操縦特性を、体に染み込ませている彼だけに可能な荒業だった。しかもほぼ反射的にこの操作を選択・実行してのけている。


潘の脳裏には、急激な機動によってAAM5を回避に成功しただけでなく、相手のF15が自分を見失ったであろう状況が描けていた。そして、読みが正しければ。


果たして彼の読んだ通り、目の前にF15が飛び出して来た。

F15のパイロットにとっては、必中のAAM5が外れたと思ったら、次の瞬間には、追いかけていたJ11Bが消えたように見えたはずだった。


F15を撃墜する絶好のチャンスだった。潘は会心の笑みを浮かべる。


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