ステルスVSステルス
沖縄本島に向かう攻撃部隊こそ陣容に変更は無かったが、先島方面の攻撃部隊は250機の予定が、半減どころではなく100機まで減少していた。
さらに同時に離陸する予定だった、KJ500Hも離陸できなくなっていたため、早期警戒と指揮管制も得ることが出来ない。
空襲の後、上陸船団からドローンによる爆撃も始まる予定だったが、それでも攻撃力はかなり低下してしまう。
ドローンによる攻撃は、前提条件として空軍の爆撃により、自衛隊の防空能力が大幅に低下した後でなければ効果を発揮できないからだ。
巡航ミサイル攻撃任務のH6K爆撃機約50機が加わるとは言え、攻撃力はそれでも不足していた。その目標は沖縄本島の固定目標だったからだ。
攻撃隊の護衛と、船団護衛の戦力にも不安があった。
胡中将は攻撃を成功させるため、可能な限りの戦闘機を投入しようとしたが、政治委員の横槍が入ったのだ。
政治委員は、ミサイル攻撃が中国本土に行われたことで、米軍ステルス機による本土爆撃の可能性を懸念していた。
特にディエゴガルシアや、グアムからB21、2爆撃機が飛来し、自分達の居る地下指揮所に対して、地中貫通弾攻撃でもしてきたら、一体どうなるか?
その場合、作戦全般に対する指揮機能が一挙に失われ、事実上長征作戦が失敗してしまうだろう。
これは長征作戦における複雑な航空作戦や、上陸作戦を統一指揮するために、上海の司令部で一元管理を行っていたためだ。
米軍流の指揮統制制度を中国軍は模倣しようとしてはいたが、組織文化がそもそもトップダウン型であって、指揮中枢が一度破壊されてしまえば、下部組織が自分の判断で作戦を継続することは難しいのだ。
このため、長征作戦の政治委員である劉中将は、上海上空のCAPの強化を強く指示した。
離陸可能な貴重なJ20は、優先的にCAPに投入されることになった。
胡は歯噛みした。指揮機能云々には同意できることもあった。
しかし結局のところは、政治委員が自分自身の安全確保を最優先にしただけのことだろう、と思っている。
戦況が有利な内は、おとなしくしていた政治委員の劉中将だったが、作戦がつまずきだした途端にこれだった。
人民解放軍は共産党の軍隊であって、あらゆる部隊と艦に政治委員が存在し、彼等の意思は指揮官のそれより優先されるのだ。
(張は遅かれ早かれこうなると達観しいていたが)
2025年4月3日 05:50 斉州島
斉州島前面でCAPについていたJ20は、蘇州基地から発進した93旅団に所属する3個中隊12機だった。
その大隊長は歯がゆかった。すぐに攻撃できる位置に敵の空中給油機や、AWACSが存在するのに、手を出すことは厳禁とされていたからだ。
彼等は上海からの連絡で、基地が攻撃された上に後続機が発進できなくなったことを知った。
それでも命令に変更はなかった。弾道弾、巡行ミサイルによる攻撃に合わせて、敵の攻撃があるかもしれず、大隊長は各中隊の警戒を厳重にさせる。
それに正面のAWACSと、空中給油機群にはレーダーで確認する限り、護衛が存在しない。
しかし、そんなことはあり得ない。米軍は必ず、最低1個飛行隊は護衛を付けているはずだ。
レーダー上で護衛が見えないということは、その護衛はステルス機に違いない。
彼の判断は間違っていなかった。彼らの正面には群山を発進したF35Aが20機、BARCAPとHAVCAPを実施していたのだ。
F35Aは、正面に存在するJ20をレーダーで探知することは出来なかった。
それは彼等が護衛するE3でも同じだ。
だが、F35の機首下面に装備された赤外線センサーEOTSは、30キロ先に存在する未確認機を発見している。