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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
1年前 まだ日常と言えた頃
12/221

統合運用 

2024年4月3日 09:30 北京


張少将は部下から「長征計画」と命名された侵攻計画について、進捗報告を受けていた。

公式には解放軍内部でも、ごく限られた人間しか知らないことになっており、張と部下のレベルでは知り得ないはずだったが、二人とも気にする様子は無い。


「統合司令部の人事が中々決まらないようです。作戦計画そのものは、以前から検討されていたプランの中から選択されるでしょうが」

「まあ、そうだろうね。」

「陸海空軍の思惑に加え、ロケット軍と戦略支援部隊も出来るだけ絡もうとするものですから、特に統合部隊総司令官の人選が決まらない模様です。加えて、書記長閣下の思惑との調整も難しいとか。」

「国家主席の思惑?」

「従来の台湾進攻計画の規模、期間にそもそも不満がおありと。主席自ら外交努力をされることで奇襲的要素を高め、より短期で決着がつくように作戦計画の修正を迫られているとのことです。しかし、そもそも人事が固まっていませんから・・・。」

「軍事作戦以前に、国際政治環境が我が国に有利になるよう整える努力を行うのは、政治家の任務として当然じゃないのか?」

「そうなのですが、具体的な作戦計画にまで介入があるらしいのです。なんでも、助攻である沖縄方面の作戦を、従来より大規模にするように希望されたとか。はっきりした話ではないのですが。」


既にこの段階で主力の台湾侵攻を支援するための「助攻」が、沖縄に対して行われることは決定事項だった。そこに中国軍の都合以外の理由は無い。


「なるほどな。だが、国家主席はロシア大統領や、古くはヒトラーが軍事作戦に過度に介入したことを失敗例として研究されて、戒めとされているはずだ。それなのにか?」

「仰る通りです。しかし理屈ではご理解されていても、実際にご自分がその立場になってみると理屈通りには動けなかった、というところかもしれません。」

「ふむ。そんなところかもしれんな。よろしい。退室したまえ。」

「あー。あと1点だけ。未確認の情報ですが・・。」

「なんだ、まだあったのか。遠慮するな。報告してくれ。」

「孫閣下が解任されるとのことです。」

「はああ!?」


部下を退室させた張は、今のところ蚊帳の外に置かれている作戦計画立案作業の進捗について推測した。


連合参謀部長は米軍の統合参謀本部長に相当する、人民解放軍のトップの役職だ。

現職の孫上将は例の図上演習での態度が示す通り、比較的張に理解がある方だったというのに、その彼が解任されるらしい。


孫上将は人民解放軍の統合運用能力と情報通信能力は、まだ米軍に及ばないと考えていた。

航空及び海上兵力は近代的な作戦機や艦艇の数は揃ってきているが、当然それだけではまだ米軍には勝てないと考えていただろう。

それ故に、長征計画実施にあたって反対意見でも述べて、中央軍事委員会での立場が悪くなったのかもしれない。

後任には古典的な重装備の物量による短期決戦で勝てる、と考えるような人物にでもなるだろう。

孫上将は人民解放軍最高の頭脳だっただけに、惜しかった。

(上はいきなり混乱しているな・・・。)


この作戦には、特に海軍及び空軍主力の殆どを投入し、数万の陸軍部隊を台湾に送り込む必要があった。

そのために普段は北部、東部、南部、中部、西部の戦区に分かれて管理されている人民解放軍部隊から精鋭部隊を抽出して、東部戦区を中心とする部隊を編成した上で、陸海空に加えロケット軍と旧戦略支援部隊を統合して運用することになる。


つまり台湾への上陸作戦は、5つの軍の司令部間で大量の調整が必要な、複雑極まりない作戦となるのだ。

だが、各軍の連携は一般の人間が想像するよりはるかに難しい。

普段から予算の奪い合いの繰り返しで、各軍の仲が悪いものと相場が決まっていたからだ。

これは米軍だろうが、自衛隊だろうが程度の差こそあれ変わらない。


中国軍の場合特に極端だった。元々は陸軍から始まっただけあって、かつては陸軍の存在感と発言力が圧倒的だった。だが、それは陸軍の腐敗という問題を生み、国家主席による粛清の対象となっている。

それまで政治的に陸軍の影に隠れていた海軍と空軍は、装備の充実に伴い発言力を拡大していた。台湾進攻では自分達が主役になると信じて疑っていない。

陸軍は現国家主席に忠誠を誓うメンバーを中心に、失地回復を狙っている。


そういうわけで三つの軍は、お互いに統合司令官を自軍から輩出しようと譲らなかった。

この作戦で存在感を高めた軍が、戦後の政治的立ち位置を最も強固に出来ることは分かり切っていたから、確実に戦功を得るために統合司令部の人事を掌握しようと必死だった。

それができなければ損な役回りを押し付けられかねない。


陸海空軍の首脳部は、お互いに他の軍は自軍に割を食わせて功績を独占しようとするだろう、という疑心暗鬼に凝り固まっていた。これでは総司令部の人事が難航するのも無理はない。

こういった場合、政治が最終決定を下しそうなものだが、各軍は中央軍事委員会のメンバーにそれぞれのコネクションを使ってアプローチを試みている。このため中央軍事委員会の意見までがまとまりを見ないという有様だった。


このような事態を避けるためにも数年前から、各軍が連携した作戦を円滑に進められるよう、西側の軍で進んでいる「統合運用」が人民解放軍でも唱えられていた。だが、その成果が出る前に長征計画が始動したのだ。

統合運用とは極端な話、当たり前のように他の軍に手柄を譲ること、あるいは他の軍の手柄は自分の手柄と全軍種が思えることだが、人民解放軍の現状はそれとは程遠い。

下手をすると各軍の意思疎通の欠如、足の引っ張り合いが敗因の一つとなる可能性すらあった。

あの日本帝国の陸軍と海軍のように。

要するに、装備の面では著しい近代化を果たした人民解放軍だったが、組織文化の改革には至っていないのだった。


それに中央軍事委員会の問題もある。

おそらくメンバー達は国家主席も含め、軍人が手柄を上げすぎることを嫌っている。

仮に今回の計画成功の暁に、統合司令官が人民に「英雄」と祭り上げられるようなことになれば、彼が現国家主席の後継者と目されることになりかねない。

それは後継者の座を狙う、中央軍事員会のメンバー達にとっては迷惑な話のはずだ。


国家主席にとっても後継者人事には自身の思惑があるだろうから、やはり面白くはないだろう。

だからこそ、国家主席主導により外交レベルでの策謀を行うことで計画における政治の存在感を高め、同時に機密の多いハイブリッド戦の要素を高めることで、純粋な軍人が目立つ要素を減らそうとしているのかもしれない。


(つまり各軍と政治の思惑が絡んで長征計画はその具体化の段階で、いきなり混乱しているわけだ。

最後には国家主席が仲裁か収拾に乗り出されるだろうが。)


となると、統合司令官にふさわしいのは各軍とのしがらみが無く、権力志向の無い人間ということになるか?

果たしてそんな人間は、人民解放軍の将官に居たかな?

居るには居る。他ならぬ自分だ。

「さすがに、そんなことにはならんだろ。」

自らの結論に呆れた張少将は、思わず一人言をつぶやいた。


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