再編成と攻撃中断
中央軍事委員会が長征作戦統合司令部に不満を持ったことは、段々と中国側の作戦運用に響くことになる。
それはともかく、韓国への弾道弾攻撃が不可能な以上、次回の攻撃でも斉州島を起点とする、米軍のステルス機の妨害を覚悟しなければいけない。何か対策が必要だった。
そこで彼らは、残る150機のJ20を防空に専念させることにした。
これを2分して、1グループはローテーションを組んで、斉州島前面に警戒線を張り、在韓米軍のステルス機の侵入阻止を狙う。
もう1グループはやはりローテーションで、上陸船団の上空を援護するエアカバー任務にあてるのだ。
150機もJ20が有るのに、ローテーションを維持しようとすると、4~6個大隊を滞空させるのがやっとで、攻撃隊の直掩が付けられない。
全ては空中給油機がやられた影響だった。
そうなると、まだJ11を中心に300機あるとはいえ、沖縄への攻撃は第4世代機のみで行うことになる。
だが、沖縄の敵空軍基地を沈黙させ、日本本土の空軍基地も北朝鮮の弾道弾で損害を与えている。今なら斉州等からの攻撃さえ押さえることができれば、攻撃自体は成功するはずだった。
他戦区からの増援は間に合わない。
北部戦区は第4世代機を250機保有していたが、彼等は黄海沿岸の海軍基地に対する防空や、米軍のステルス機が黄海や北朝鮮の上空を通過して、中国本土に侵入してくることを警戒しており、増援の調整が難航していた。
中国空軍は、北朝鮮の防空能力を大して評価していなかった。ゆえに北部戦区は、米軍がその気になれば、北朝鮮国境地帯からステルス機が易々と突破してくると考えていたのだ。
中部戦区も200機を保持していたが、それこそ北京上空を守るため、予備戦力扱いにもかかわらず戦力を長征作戦に中々回そうとしない。
しかも、自分達の頭上を守る戦力から、増援を出せという長征作戦司令部の要請には、他ならぬ中央軍事委員会が難色を示したのだ。早速胡がやらかした藪蛇の影響が現れていた。
西部戦区は既に第3世代機と交換で、彼等の保有していた第4世代機の大半を長征作戦や、他戦区に差し出していた。
その状態で、インドの動きを警戒していたのだ。そこへ、ディエゴガルシアにB21(試作段階のはずなのに)とB2が進出したという、未確認情報が舞い込んだものだから、これ以上戦力を長征作戦に回す余裕は無い。
要するに、各戦区の空軍司令部は、万一、米軍が中国本土に対する攻撃を解禁した場合。その責任に直面していたのだった。
長征作戦の重要性は理解しているが、中央軍事委員会からの直接命令でも無ければ、彼らの立場ではそう簡単に、これ以上の戦力を長征作戦に割くわけにはいかないのだ。
もっとはっきり言えば、最初に本土への爆撃を許した空軍司令部になるのはまっぴら御免、というわけだった。
ちなみに米軍爆撃機の未確認情報とやらは、突き詰めればただのフェイクニュースだった。
在米のOSINT活動家気取りの、程度の低いミリタリーマニアがSNSに投稿した、まことしやかな妄想記事でしかなかったのだ。
胡とその司令部が、各戦区との戦力融通の調整、その結果を待っての戦力再編。さらには給油機の壊滅を受けた作戦変更を終えて、本格的な航空作戦を再開したのは、3日の早朝。
あまりに時間をかけすぎていた。
この間、沖縄に対して行われたのは、H6爆撃機とロケット軍による散発的なドローンと巡航ミサイル攻撃でしかない。
張は台湾の作戦に集中しており、どちらかと言えば助攻扱いの沖縄の航空作戦は、胡に委任する部分が大きかった。
だが、想定外の損害が生じたとはいえ、「損害にかまわず攻撃を反復」という作戦方針が守られていないので、張は胡に攻撃の続行を促している(明確な命令としてではない)。
「航空戦には私は素人だが、どの道湾岸戦争の米軍のように勝てるわけはないのだから、とっとと攻撃を再開した方が得策じゃないか?台湾ではそうしてる。なぜ沖縄でもそうしない?損害に構うな。」
「そんなことは分かっている。
貴官が今言った通り、航空作戦は私の専門だ。任せておいてもらいたいな。
沖縄は台湾とは戦況が異なる。今攻撃を無理に行えば、明日以降の作戦継続に影響が出るレベルの損害が出るのは必至だ。
増援を得て、再編成を行った後で攻撃再開した方が、攻撃力を持続できる。
その程度のことも分からないのなら、空軍の作戦には自分で言った通りに口を出すな。」
お世辞にも両者の関係は良好とは言えなかった。