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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
老嬢、最後の煌めき
114/221

コールドゲーム

2025年4月2日 12:03 グアム沖


「ニミッツ」攻撃隊第3波。その出撃は取りやめになった。


ハワイから6000キロを飛来してきたB1B爆撃機6機が、60発のLRASMを発射してきたからだ。

もはや中国艦隊に打つ手は無いに等しく、「福建」「遼寧」にはそれぞれ約10発ものLRASAMが命中。機関が破壊され、格納庫と飛行甲板に大火災が生じた。


「福建」の秦艦長は、何とか艦の航行能力を維持しようと努めたが、機関は完全停止。復旧の目途は立たない。

残存艦に「福建」を曳航させることは現実的では無かった。

最後に生き残った052D級「麗水」と、被弾しながらも航行だけは可能な護衛艦は、生存者の救助で手一杯だ。「福建」を曳航しながら低速で航行していては、とても中国本土へ辿り着けない。

後方の補給艦隊にも損害が生じているから、残存艦は生存者を救助した後、全速で中国へ撤退するのが正解だった。



総員退艦を命じた彼は、思いに耽る。

1995年の屈辱以来、30年かけて育て上げられて来た、中国海軍機動部隊はたった1日で壊滅だ。

「山東」は沈み、「遼寧」「福建」は炎上して停止している。護衛艦の大半も同様に沈没するか燃えながら浮いている。

(何より・・・。)

秦艦長自身も加わって、手塩にかけて育て上げた空母航空隊が全滅だった。

艦載機の大半は撃墜され、母艦に帰った機も、これから2隻の空母と共に沈むだろう。

生き残った機体も母艦に着艦が不可能なため、「麗水」周辺でパイロット達は機を捨てて脱出していた。


米軍に一矢を報いた高少佐と周中尉も、緊急脱出後に「麗水」のZ9Cヘリコプターに辛くも救助された。

1日に2回も長距離低空飛行と米軍相手の死闘を行い、最後は緊急脱出と海上漂流を強いられた二人は、「麗水」士官室で着替えと「気付け」としての白酒を貰うと、泥のように眠り込んだ。


秦の教え子であり、後輩であるパイロット達は、呉を始めとした3人の飛行隊長を含めて、大半が未帰還だった。救難ヘリも母艦もろとも大半が失われ、殆ど飛ばせなくなったため、その救助は絶望的だ。

米軍が人道的配慮に基づき、救助してくれることを祈るしかなかった。


この15年の苦労と、空母機動部隊にかけた情熱の日々が秦の脳裏を駆け抜ける。

だが、彼は艦長だった。それ以上の感傷を自らに許さず、生存者の退艦の指揮を執る。

米軍の攻撃は止まっていた。どうやら、補給艦隊と合流しての救助活動と撤退は見逃してくれるらしい。


翌日。沈没した「福建」から救助された彼は、戦闘支援艦「呼倫湖」に滞在していた。

後方には「ニミッツ」が進攻して来ているはずだが、追撃は無い。

LRASAMも3年前にCSISからの提言を受けて、増産が始まったばかりだから、空母を失った艦隊に無駄弾を撃っている余裕は無いのだろう。

米原潜も魚雷の補給には、最も近くてグアムまで戻る必要があるから、やはり無駄弾を撃つ気は無いらしい。

(つまり我々は、もはや殺す価値も無いということか・・。)


「遼寧」は夜中に沈んだらしい。「福建」は夜明けと共に「ニミッツ」によって止めを刺された。護衛艦も無く、もはやLRASAMを使うまでもない。米軍は旧式のハープーンミサイルを使用している。

艦齢50年、退役を先延ばしした老朽艦「ニミッツ」に、世界のスーパーキャリアーで最も若い「ケネディ」と並んで新しい「福建」が撃沈された。

来年には今度こそ退役するであろう「ニミッツ」に中国の空母3隻共同撃沈という、最高の花道をプレゼントしたのだ。


本土に近づいたとき通信が可能になり、中国側のニュースを見ることが出来た。

自分達の受けた大損害は曖昧に表現されていた。

逆に「福建」攻撃隊と潜水艦隊の上げた、未確認の戦果はかなり誇張されている。

それによれば、数隻の米艦を撃沈し、「ニミッツ」は今にも沈みそうな状態で米本土に引き返しつつあるらしい。ご丁寧にフェイク動画付きだ。

他の戦況についても報道されていたが、秦はそれ以上見ようとはしなかった。


(バカバカしい。やはり自分は艦長や司令官には向いていないらしい。)

それだけ思うと、彼は生き残ったパイロット達が待機している部屋に向かった。


「麗水」から補給艦「呼倫湖」に高少佐は移送されていた。

秦は彼に母艦を守れなかったことを詫び、過酷な戦闘経験を労った。

高はわずか1日で10歳は老け込んだように見えたが、目の輝きはむしろ増している。

彼は上官に復讐を誓った。

「米軍は強かったです。ですが、奴らは致命的なミスを犯しました。」

「ミス?なんだ?」

「決まってます。私を生きて還したことです。

奴らの戦い方は分かりました。次の戦いまでにはJ35も実用化されているでしょう。次は3倍はやり返してやりますよ。」

秦は感心した。高は根っからの戦闘機乗りだ。

これほどの敗北の中にあっても、意気消沈することなく、生きている限りは戦い続けようとする。


高はグアム沖での敗北の中にあって、米軍に一矢報いた存在として、中国への帰還後に英雄扱いされることになる。

彼の戦果は戦後に誇張されて、米軍も認めた3機撃墜は7機に肥大化していった。

そして中国海軍初の「エース」として、「福建」級2番艦「広州」の飛行隊長となる運命だった。

秦も高の上官となり、「広州」を中核とする新たな機動艦隊の司令長官として、その再建に携わっていくが、それはまた別の物語となる。


「ニミッツ」CSGが、開戦と同時に、殆ど単独で中国機動部隊を撃滅したという報告は、日米台側に歓びを持って迎えられた。だが、あまりに出来すぎた戦果に横田の日米司令部は、要確認という判断だった。

だが、これで米本土からの海上輸送と、ハワイ方面からの爆撃の障害を排除することが出来た。勿論「ニミッツ」CSGと「ケネディ」CSGは全速で西進しつつある。


中国側の構想は初日から大きな綻びを見せていた。

海軍の至宝とも言うべき空母機動部隊が、1日も持ち堪えられず壊滅してしまったのだ。

長征作戦司令部の海軍スタッフ達は、明るい材料を探そうと必死だった。だが、途切れがちな「麗水」からの報告は彼等の希望的観測を打ち砕く。

彼等海軍スタッフもまた、長征作戦司令部に「適切な時期が来るまで」機動艦隊の損害を秘匿しようとした。だが、適切な時期がいつになるのかは、彼等にも分からない。


海軍からの曖昧な報告を受けても、張は平然としていた。だが胡の方はそれでは困る。

グアム方面からの米軍の戦力投射は、当初は海軍機動部隊が相当に押さえてくれる計算だったからだ。

それが有ると無いとでは、防空に割くリソースが全く違ってくる。

胡は海軍に損害を正直に白状しろとせまったが、その点については彼も褒められたものではない。



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