懸念的中
これに対して、護衛艦隊の055級駆逐艦4隻、052D級駆逐艦3隻が対応した。
052D級駆逐艦ははもう1隻あったが、2隻の054級フリゲートと共に後方の補給艦を護衛している。
ステルスミサイルであるLRASAMを、中国艦隊がレーダーで探知したのは、艦隊まで80キロを切るところまで接近されてからだ。
7隻ものエリア防空艦から、LRASAM1発あたり2発、合計48発のHHQ-9A対空ミサイルが2回斉射される。
合計96発もの対空ミサイルは24発のLRASAMのうち、16発を撃墜した。
さらにLRASAM自体の不具合と、054級フリゲートも加わった、中射程のHHQ-16対空ミサイルによる迎撃とで5発が撃墜。
だが、残り3発は近接防空火器の迎撃や、チャフやフレア、妨害電波にもかかわらず、次々と中国艦隊に命中した。
055型と052D型に1発ずつのLRASAMが命中。ダメージコントロール能力が十分で無い両艦は、被弾による破壊と火災だけでなく、消火活動に手間取ったことで被害を拡大した。
さらに消火活動に伴う浸水で傾斜し、大幅な速度低下を起こして艦隊から脱落する。
残り1発は「遼寧」に命中。もともと老朽化していたところに、構造にそもそも問題があったため、水線下付近に命中した1発により、思いの他大量の浸水被害が生じてしまう。
沈没の心配は無かったものの、傾斜と速度低下により、艦載機の発着艦が不可能になってしまった。
機動艦隊司令部は、航空隊の大損害はともかく、一応攻撃は行った事実をもって希望的観測を交えた状況報告を本国に繰り返し伝達した。
米軍側の電波妨害により、届いているかどうか分からなかったが。
司令長官は以下のように考えていた。
(攻撃隊は殆ど全滅に等しい被害を受けていたが、給油役に回ったJ15と併せると、「遼寧」が使えなくなった現状でもまだ30機のJ15を出せる。
ここで戦闘を中止したら、下手をするとこちらの損害が敵より多いかもしれない。
敵にも損害は当然生じているだろうから、米艦隊により確実に打撃を加えるべきだ。
でなければ、我が機動部隊、海軍の面子にかかわる。戦後の批判は回避しなければならない。)
攻撃隊からの正確な戦果、被害報告は飛行隊長が全員未帰還なこともあり、時間がかかるようだった。司令長官は決断した。残存するJ15に速やかに燃料と弾薬を補給。
艦隊前面に空中待機させて盾の役割をさせ、敵の攻撃を迎撃すると共に、艦隊から水上打撃グループを分派して全速で敵艦隊に接近。艦対艦ミサイル攻撃で米艦隊に止めを刺す。
中国機動部隊司令部は、米軍の戦闘機隊もまた、大損害を受けていると判断していたのだ。
だが、司令部の期待とは裏腹に、米軍の艦載機は要修理の被弾機も含めても、10機も失われていなかったのだ。
現状で艦載機の数は既に「ニミッツ」CSGの半数に低下しており、圧倒的に不利だったのが現実だ。
だが、例え戦況を正しく判断し、「山東」「福建」だけでも撤退させる判断を行っていたとしても、それが功を奏したかは難しいところだった。
海面下から新たな脅威が迫っていたからだ。
中国潜水艦隊は機動艦隊の直衛として、3隻の095級原潜を付けていた。さらに、それとは別に6隻の093級原潜を艦隊の前方に展開させて、索敵と「ニミッツ」CSGに対する待ち伏せを試みていた。
(中国海軍は、台湾と沖縄周辺の潜水艦作戦には通常動力艦を。グアム方面については原子力潜水艦を投入していた)
その、黄海や南沙諸島に潜む戦略原潜の護衛任務から外された、中国海軍最強の攻撃型原潜部隊によるピケットライン。それを難なく突破した、米海軍の虎の子シーウルフ級原子力潜水艦2隻が、艦隊の起こすウェーキに紛れて高速で後方から接近していたのだ。
彼等は、中国艦隊が行った対空戦闘により生じた音響により、その位置を完全に掴んでいた。
秦艦長の懸念は現実のものとなりつつあった。