IRST VS EO-DAS&EOTS
「山東」飛行隊の第2大隊、第3大隊は、第1大隊が攻撃を受けるのを確認すると、アフターバーナーを全機点火。第1大隊が逃げを打っている相手との距離を急速に詰めていく。
距離30キロでIRSTに反応があった。2個大隊のJ15はレーダーを切ったままだ。IRSTの反応は、第1大隊を追いかけて、第2大隊の前方を横切っていく。
第2大隊長は絶好のチャンスに興奮した。「もらった!」
彼は大隊を率いて、左に旋回。その背後に回りこむ。第3大隊も続く。
全速のJ15は、またたくまに赤外線誘導方式のミサイルである、PL10の射程に近づいた。
第1大隊は先制を浴び、回避行動を取った後も追撃を受けて、次々撃墜されているようだ。
早くしないと第1大隊が全滅してしまう。だが、作戦通りだ。もうすぐF35Cを撃墜できる。
第2、第3大隊は気づいていなかった。
彼等は左旋回の結果、第1大隊が最初に微かに探知した目標に対して、自分達の右側面をさらしていたのだ。
第1大隊が最初に探知した目標と、攻撃してきた目標は、同一だと思いこんでいた。
J15のデータリンクはレーダー情報のみで、逆探知やIRSTの情報を統合した上での戦況情報までは、共有出来ていないのだ。
実際には増援を受けたF35Cは3個飛行隊、30機が出撃していた。
中国軍は半ば無意識に、米軍の空母は平時には固定翼機と回転翼機合計で、70機程度しか搭載していないが、その気になれば90機程度まで搭載できる、という事実を無視していたのだ。
いや、「ニミッツ」がハワイを出航する時、ヒッカム統合基地を離陸して母艦に乗り込んでいった艦載機部隊は、通常の編成であることを在ハワイの工作員が確認して報告してはいた。
だが、中国の偵察衛星が上空を通過するタイミングを測りつつ、岩国から硫黄島を経由して、母艦「ジョージ・ワシントン」がドック入り中の第5空母航空団から、F35C1個飛行隊が「ニミッツ」に増援として着艦していたのだ。
さらに「ニミッツ」を追いかける形で、アメリカ西海岸から全速航行中だった、新鋭空母「ケネディ」からもF35C1個飛行隊が長躯「ニミッツ」に飛来。
つまり「ニミッツ」はF35Cの増援20機を得ていたのだった。
中国側は「ニミッツ」の戦闘機が約50機に対して、自軍はJ15約100機で、2倍の優位と見積もっていた。
だが、実際には相手は70機になっていたのだ。うち、30機がF35Cであることを勘案すれば、数の優位は相殺されていると言って良い。
これが「ニミッツ」が3隻の中国空母に対して、自らは1隻だけにもかかわらず、強気で突っ込んで来た理由だった。
第1大隊が最初に捉えつつあったF35C編隊は、難なく第2、3大隊に接近。
F35Cの編隊はその、光学、赤外線センサーであるEO-DASとEOTSを駆使して、射撃直前までレーダーを使用しないまま、中国軍機を次々と捕捉することに成功し、なおかつ情報を編隊間で共有していたのだ。
結果、第2、3大隊は、AIM120Dの必中距離20キロから、側面をさらす形でまともに攻撃を受けることになった。
警告音が鳴るとほぼ同時に、命中が生じた。
別のF35部隊に奇襲を受けたことを、二人の大隊長は直ぐに理解した。しかし、彼等に出来たのは部下に緊急回避を命じることだけだった。直後に2機の隊長機は、相次いで撃墜されてしまったのだ。
3人の大隊長が3人とも撃墜された結果、残存機は回避を続けるのに精いっぱいとなる。
さらに戦死した各大隊長の指揮継承が遅れた結果、制空任務が事実上失敗したこと、予想を超えた数のF35Cが存在する事実を友軍に報告する者がいなかった。
F35Cの3つの飛行隊のうち、2個は殆どミサイルを撃ち尽くしたが、残弾を余している機体は空域に留まった。
そのうち何機かはレーダーで中国側の早期警戒機KJ600を見つけ出してその攻撃に向かい、残りは母艦に帰投した。
最後の1個飛行隊は、制空任務のJ15部隊が潰走と言って良い状態にあるのを、センサーフュージョンで確認すると、戦闘中に発見した新たな目標の追尾に移った。
その目標は、空中戦の空域から100キロ離れた低空を米艦隊に向かっている。