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沖縄・台湾侵攻2025 Easy Mode 完全版 Ver2.1  作者: しののめ八雲
少年は涙を流し、瓦礫を掴む
101/221

AIS

同時刻 東京 赤坂


貿易関連商社に勤める奥山は、Jアラートで叩き起こされたあと、マンションの地下に避難していた。その後、どうやら当面、身の危険は無さそうだと判断すると、律儀に会社に出社しようとする。


仕事熱心というのもあるが、前代未聞の事態に直面しても、それでもうまく仕事を切り回せるか、ということに純粋に面白みを感じていた。

戦争が始まり、余程安全に確信が持てるまでは、出社しない判断をする人間が多数派のようだった。

奥山の会社も、社員に対して本当に北からの攻撃があるようなら、まずは自身の安全を優先するように通達を出していた。

だが、それでも彼はいち早く出社することを決断する。彼は仕事が面白いのだ。


位置情報アプリは衛星のトラブルで、不具合だらけらしい。

通信そのものも混乱しているし、中国のサイバー攻撃で、あちこちのインフラもまた不具合を起こしている。

その影響で、様々なサービスが停止しているらしかった。

電車も止まって路線があり、同様に道路も信号が止まっている箇所があることが、(エラーを起こしまくっている)SNSにアップされているが、中にはデマもあるらしい。


電車も自家用車もタクシーも使わないのが無難だと判断した彼は、スーツにヘルメット、バックパックといういで立ちで、ロードバイクを漕いで赤坂の会社へと向かった。


道路では既に店舗に行列が出来ている。買い占めだろう。

試しにコンビニに立ち寄ると、既に水や保存の効く食料品は品薄になりつつあった。この分だと9時頃には品切れになるだろう。

ATMも動かないようだった。貼り紙で「故障中」とあったが、単なる故障ではなく、十中八九、サイバー攻撃によるものだろう。

奥山自身は日頃から災害に備えて、物資を2週間分準備していた。その中から水とカロリーメイトをいくつか持ち出してきている。


本当に信号が止まっている場所があり、急遽警察が交通整理を行っていた。

SNSでは今日は会社に出社しないか、そもそも急遽休みにした事業所が多いらしいことが見て取れた。

8時前に会社に到着する。

普段の彼は、満員電車が嫌いなのと、取引先から連絡が入り出す前に自分の仕事に集中するため、毎日4時起きで7時には会社に出てくる質だったから、普段より遅い。

既に同僚の数人は出社していた。


同僚に朝の挨拶をしつつ自分のPCを立ち上げると、ひとまず株式市場をチェックする。

2時間前にニューヨーク証券取引所は閉まっていたが、4時に戦争が始まってから、そのわずか2時間で、多数の銘柄が投げ売りされてストップ安に陥っていた。

世界経済1位と2位の国同士が戦争を始めたのだから当然だろう。

逆に兵器関連の銘柄はハネ上がっている。


東京証券取引所はもうすぐ開くが、酷いことになりそうだった。弾道弾攻撃の影響で、そもそも臨時休業を選択するかもしれないが。

東京だけではない、中国の上海、香港、深圳の株式市場も大荒れ必至。

TVは何度も各国の政治家の声明を流していたが、その内容は「型どおり」と言ったところだ。

奥山にとっては米国大統領が台湾と日本に対する全面的な支援を表明し、戦闘が激しくなりそうなことさえ分かれば良かった。

(となると・・・。)


奥山はPCでAIS=船舶自動位置識別システムをモニターする。

船舶による物流が止まれば、奥山達の会社には死活問題だった。いや、日本そのものにとって。


台湾、フィリピン周辺の船舶は、その場に留まるか、戦場から離れようとしている。

さらに奥山はAISモニターに連動するAIに、24時間後の動きを予想させた。

大規模災害や紛争の発生に備えて、海上交通への影響を予測するためのシステムで、奥山の商社の傘下にあるIT企業がPythonでコーディングした機能だった。


24時間後には、中東からのタンカーや貨物船は、明確に日本や台湾から離れていくと予想していた。

日本だけでない。中国船籍や、船員が中国人らしい船は中国に向かうが、外国船は危険を冒してまで中国へ向かう義理は無いから、やはり中国からも離れていく。

航路上でミサイルや魚雷、誘導爆弾が雨霰と飛び交っているのだから当然だろう。


もっとも酷い目にあいそうなのは、韓国だった。

日本はまだアメリカ大陸や、南太平洋からの航路には影響が少ない。

だが、韓国の場合、黄海側は戦場に蓋をされた形となって封鎖されてしまう上に、日本海側も北朝鮮がミサイルを撃ちまくった影響で(撃ち止めを宣言したものの)そちらも封鎖される形になってしまう。

紛争当事国でもないのに、完全な海上封鎖に陥りつつあった。


中東の支社からの情報だと、アラビア海では米国の艦隊が国連決議も待たずに、中国に向かう船舶を足止めにかかるつもりらしいが、まだはっきりしたことが分からない。


ざっと見ただけでも、海上交通は滅茶苦茶になりつつある。

「こりゃ早いとこケリつけてもらわんと、商売あがったりだ。中国さん、自分も酷い目にあうのに何考えてんだ?」


フロアに数人居る、沖縄出身の社員は気が気ではなく、TVやスマホをちらちら見ている。

(気の毒に・・・。)

中国支社とは連絡が全くとれなくなり、現地スタッフが身柄を中国側に拘束されたという話が出ているらしかった。

意気込んで会社に出て来たものの、戦争がどうなるか分からないうちは、奥山達も積極的に動きようが無い。とりあえずはひたすら情報を集めて、引き返していった船のフォローをどうするのか、検討する必要があった。


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