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ハイパーお嬢様が平民の私を全力で落としに来る件について。  作者: 蒼風
1.ハイパーお嬢様─観音寺薊─
15/15

14.見なかったことにするのがお互いのためかもしれない。

 ひょんなことから誰かの恥ずかしい秘密を握ってしまったらどうするのが適切だろうか。


 それこそ成人向けの漫画なんかだったら「秘密をばらされたくなかったら俺の言うことを聞け」みたいな展開があるのかもしれないけれど、それはあくまでフィクションだ。


 今、ここにあるのは、「うっかりとんでもないシーンを目撃してしまったけど、それに触れていいのかよく分からないまま、部屋に招き入れられた私」と、「招き入れた後は一切口を開かないメイドさん」の二人がベッドの端に並んで座っているという状況だけだ。


 ちなみに、そのベッドは当たり前だけど、さっきまで「人に見られたら自殺ものの行為」がなされていた、それだ。うう……どうしてこんなことに。


 状況が状況だから、最初はあまり気にしていなかったけど、部屋の内装もまあまあ異常だった。なんで壁一面にびっちりと(あざみ)の写真が貼ってるんだろう。


 怖い。怖いよ。この内装とさっきの行為を組み合わせると、とんでもない事実が導き出されちゃう気がするんだよ。そんなことは無いと、


「……私、お嬢様が好きなんですよ」


「あー……」


 思いたかったなぁ……。もっと普通の反応が出来る理由であってほしかった。まあ、この内装に「普通の理由」がフィットするのかは分かんないけどね。


 メイドさんは続けて、


「だけど……それは……それだけは駄目なんです」


「駄目……ってどういうこと?」


「それ……は……」


 口ごもる。きっとそこから先は彼女にとっては言いづらいことなんだろう。


 考える。メイドさんと薊の仲を分かつ要素として考えられるものはなんだろう。


 通常なら一番上に「薊がノンケで、好きな男がいるから」とかそういうものが上がってくるはずなんだけど、それに関しては既に否定されている。なんせ私に愛の告白をしてきたからね。そんな奴が「女同士はちょっと……」とか言い出したら、流石の私でも助走をつけてシャイニングウィザードをかましかねない。


 けど、そうなると理由が分からない。


 女性との恋愛にも興味があって、仲も悪くない。立場の違いはあるかもしれないけれど、多分薊の方がそれを気にしないだろうから、メイドさんが気にしているのなら「気にしすぎ」と言っていいと思う。


 メイドさんはぽつりと、


「私……は、薊お嬢様へのスパイとして送られているんです」


「す、スパイ……?」


 突然の告白に理解が追い付かない。メイドさんは続ける。


「観音寺家の経営する企業が、基本的に一族経営なのは知っていますね?」


「あ、うん」


 漸く思考が追い付く。そうか。そういうことか。


「もしかして、なんだけど。メイドさんって、その親族経営に反対する側……だったり?」


 メイドさんの目が見開かれ、


「どうしてそれを……」


 すぐに元の調子に戻って、


「いえ……考えるまでもありませんね。薊お嬢様から聞いたんですね?」


「うん……さっき、ね」


 そう。


 薊の話では一族経営が揺らぎかけているという話だった。


 そして、その唯一の世継ぎとなるのが、薊なのだというのだ。


 もし、その一族経営に反対する“敵”がいるのであれば、何らかのアクションを起こしていてもおかしくはない。その一翼を担っているのがメイドさん、なんだろう。


「私は元々反観音寺家派から送られた、いわばスパイのようなものです。薊お嬢様の動向を逐一報告するという使命を帯びてここに来ているんです」


「な、なるほど…………あれ?」


「どうしました?」


「え、いや……」


 私は部屋の内装を指さして、


「だったら、これは……?」


 メイドさんは「ああ」と納得し、


「これは……元々資料として頂いた写真を貼っていたものです」


「資料?」


「ええ。晩餐会や、その他冠婚葬祭の場で撮られた、余所行きの薊お嬢様の写真。それを貰っていたのです」


「へぇ~……え、でもそれを貼る必要は無くない?」


「……はじめは、戒め。だったんです」


「戒め?」


「はい。ここに来てから、私はずっとお嬢様のメイドとして、そしてスパイとしての責務を全うしていました。最初のうちは薊お嬢様はあくまで敵なのだと認識していましたし、そう接するようにしていました。だけど、そんな私に対して薊お嬢様はあくまで優しく、友達のように接してくださったのです」


 想像に難くないな、と思った。


 昔の薊ならもしかしたら、その距離を縮めるのには時間を要したかもしれない。


 しかし、今の薊ならどうだろうか。


 きっと初日からガンガン距離を詰めたに違いない。あくまで、あのキャラのまま。


 しかし、


「そんなわけで私は薊お嬢様のメイドにして、スパイという状態を続けていたのですが、ある日、問われたのです。スパイなのか、と」


「え……」

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