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一話 セントロール氏

 シェイフは小さな街の弁護士だった。

 頭がよく、舌もよく回る彼の評判は各地に広がり、何人もの富豪や政治家が頼りにするほどであった。

 そんな彼が全盛期を迎えたのは、とある魔法使いにその腕を買われ、相談役に上り詰めたときだ。

 魔法使いの名は、『セントロール』。由緒正しい魔法使いの一族の家長で、ラルミア魔法軍第一特殊任務部隊隊長という、輝かしい肩書を持っていた。


「私は差別などしない。ぜひ、力を貸してほしい」


「はぁ。でも、僕の存在を快く思わない人もいますよ」


「私が黙らせるさ」


 多くの魔法使いは魔法を使えない一般人を劣等種だと見下している。

 古より両者には深い溝があり、それが多くの戦争を生んでいた。


 しかしシェイフは、セントロールの約束通り魔法使いたちに囲まれながらも対人ストレスのない日々を送ることができた。

 それはまさに、セントロールという人間のカリスマ性と人望がなせる技である。


 誠実で、優しく、たとえ戦争でも無益な殺生など決してしない。そんな彼にシェイフは惹かれ、他の魔法軍や、非魔法使いたちとの戦争では、相手との交渉に辣腕を振るった。


「君がいてくれてよかったよ。ぜひ友と呼ばせてくれ」


「あはは、なんか照れますね〜」


 シェイフはまさに人生の絶好調であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 半年が経ったころ、世界を揺るがす事件が起きた。

 封印されていた魔王が目覚めたのである。

 実際に目撃した者はいない。しかし、魔王から生まれるとされている魔族が世界各地に出現しては、人を襲いだしたのだ。

 同時期、シェイフとセントロールのもとに客人がやってきた。

 ラルミア魔法軍総司令官、ネリスであった。


 幼い少女の外見をしているが、齢は400を超えていて、この世で最も魔法を極めた最強の魔法使いである。


「久しぶりじゃのおセントロール。悪いが訳あってしばらくお主の基地を本部の拠点にしたい」


「構いませんが、本部の人間がこんな遠方に根を下ろすとは、驚きです」


「出不精のつもりはなかったんじゃがのう。……相手は前代未聞の怪物じゃ。我軍も臨機応変に対応せんといかんじゃろ?」


 言葉通り、魔王との戦争に備えラルミア魔法軍の改革が始まった。

 無駄に資金を食らう部署や、権力を振りかざし私腹を肥やすだけの無能は容赦なく切り捨て、逆に優秀な人材ならどんどん引き入れ、魔法使いたちの戦力増強に力を入れ始めた。

 

 その時期から、シェイフはセントロールがやけに自分に対してよそよそしいことに違和感を覚えていた。

 というより、意図的に他人と距離をとっているようなのだ。

 しばらく様子を見て、頭のいいシェイフは気づいた。


 セントロールは、魔法が使えなくなっているのだ。


 なにも珍しい話ではない。むしろ、魔法使いはみなそうなる定めである。

 老衰するかのように、魔力の寿命が突如切れるのである。

 魔法が使えなくなるタイミングは、人によって違う。

 幼少期の人もいれば、天寿を全うする直前の者もいる。

 魔法が使えなくなれば、ただの人となる。そうなった魔法使いの大半は、悲惨である。


 見下していた存在へと成り下がるだけでなく、魔法使いたちからも故障品扱いされるのだ。


 シェイフは察する。セントロールは、魔法が使えなくなった事実を隠そうとしていると。

 案外俗人なんだなとシェイフは失望した。


 その後、意外にもセントロールは積極的に活動するようになった。

 功績を上げ続け非魔法使いになった事実を怪しまれないようにするためである。


 同じ頃、魔法使いを滅ぼすために魔族に協力している人間がいるという噂が流れ始め、セントロールは疑わしい人間たちを処分していった。


「シェイフ、知恵を貸せ」


「はい?」


「裏切り者共を殺すたび、風当たりが強くなる」


「そりゃあ、証拠もなにもないわけですから」


「しかし!! もし本当に罪人であったならどうする? 何かあってからじゃ遅いのだぞ!!」


 魔力消失の判明がバレる恐怖に取り憑かれ、冷静な判断ができなくなっているようである。

 シェイフは見捨てることもできず、知恵をだした。


「まあ単純な話、殺さなきゃいいんですよ」

 

 相手に呪いをかける魔法は禁術とされている。

 セントロールは部下に、対象を醜い獣にする禁術を使用させた。

 処罰はする。でも殺さない。これなら文句はないだろう?

 セントロールはそう判断したのだが、とうぜん、世間的に大バッシングを受け、魔法軍からも謹慎処分を受けた。

 法廷で裁かれるのも時間の問題である。


 そのとき、セントロールはようやく気づく。

 いま、人望もカリスマ性も失った現在、もし魔法が使えないとバレてしまったら、もっと誹謗中傷を受けるのではないか。


 その不安が、セントロールを壊した。

 留置所から脱走し、逃げた。誇り高き魔法軍の隊長に返り咲くため、自分を快く思わない軍内部の人間を殺しだしたのだ。

 だが、しょせんは一般人の暴走。魔法使いたちの前には呆気なく捕まり、すべてが明るみになった。


 数日後、彼に処罰が下された。

 死刑では生ぬるい。苦しんで生きてもらわなくては。

 セントロールは、禁術で獣となってしまったのである。

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