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たった一人の異次元戦争

作者: はやまなつお

目を覚ますと岩場だった。

昨夜は自宅で眠ったが。


夢の中?いや、意識は明確に覚めてる。


寒い。温度は6度くらいか。

私はジャージ姿。靴下は履いている。


息が苦しい。高所だろうか?


まばらに背の低い樹々。

山地の登り口のような場所。


風はまったく無い。

空は曇っている・・・いや、横は灰色の壁。

正確には透明な壁の向こうが、深い霧で灰色に見えている。

上空も灰色の壁があるような。


うっすらと明るい。日の出の直前の状態。


小中学校のグランドがドームに覆われていて、内部にいるような感じ。

壁沿いに少し歩いてから中央へ向かっていると。


「我は代表者を選んだ」テレパシー通信。


「今から君たちには決闘をしてもらう。

勝った種族は存続を許され、

負けたほうは全滅してもらう」


私は思わず抗議した。

「ちょっと待ってくれ、そんな無茶な」


「待たない。状況を知りたくないなら君には話をしない。

敵だけが現状把握をするが構わないだろうか?」


「・・・説明を聞く」


「UFOは次元ジャンプの乗り物だ。パラレルワールドの地球から来た。

君のイメージで言うと、幻想生物の世界から。

幻想生物社会の1種族が次元移動機を発明した。


君たちの世界の人類と、彼らは理解不可能、戦争になる。

当初は次元ジャンプできる向こうが圧倒する。

しかし地球人類は故障したUFOを手に入れて同じものを作り、反撃。

核兵器を遠慮なく使って幻想世界を破壊する。

幻想世界種族の全部が敵となって、地球人類世界も全滅する。

99、9%の確率で共倒れだ。


現在は、どちらも野蛮な原始生物レベルだが、はるかな未来においては

我々レベルに至る、かも知れない。

だからどちらか一方は残す。

それを代表者の決闘で決める。


条件は対等だ。どちらも呼吸が不自由な環境。

24時間以内に決着するだろう。

どちらかの死を持って終了とする。

質問はあるかね?」


「私は57歳。運動は得意じゃない。

軍人か警官、警備員とか、戦闘要員を」


「単純なパワーバトルではない。

対等な勝負になるよう条件が課されている。

文句は受け付けない。会話は終了とする」


「ちょっと・・・」


私はグラウンドの中央辺りにいた。


向こうの岩場に背を低くして隠れていた敵が身を起こした。


身長は約3メートル。全身毛むくじゃらの熊。腕は4本。

手はシャベルのような形状の爪。

目は昆虫の複眼。頭部に3本の触角。


バルスームの大白猿ぐらいのモンスター。

戦闘用の合成生物に見えるんだが・・・。


叫び声を上げ、身を伏せて6本の手足で這うように進んでくる。


どこが対等? これはいくら何でも。

大山倍達でもアントニオ猪木でも対応できない。

平成仮面ライダーとかスーパーマンぐらいの攻撃力、防御力がないと。


こちらは走って逃げる。

壁際に追い詰められたら危険だとわかってはいるが。


殺気に満ちた怪物が咆哮を上げて突進してくる。


グラウンドの中央で何かにぶつかったように急停止、

怒り狂って透明な壁を大爪で叩く。


こちらには来れないらしい。


これはフレデリック・ブラウンの「闘技場」の状況。


私は逃げるのをやめて観察する。


怪物が足で蹴った土は、こちら側に通過する。

無機物は通れて、有機物、生きているものは通れないらしい。


怪物は怒り狂って暴れている。すると。

「ギャア!」叫び声をあげて頭部を押さえて倒れ、苦しみ出す。


しばらくすると怯えた様子で立ち上がる。

こちらを見て「グルウウウ・・・」と犬のように唸る。


シャベル手で石を持ってこちらに投げるが飛距離、勢いとも無い。

形状的に投げるのに向いていない。

こちらは投げ返さずに様子を見た。


頭部に銀色の輪っかが鉢巻のように締まっている。


怪物は透明壁に接した地面を掘り始める。

シャベルの4本手で掘りやすい。

掘り出した土はこちら側にも入ってくる。

1メートルほどの小山ができる。

地面の下も透明壁、バリヤがあるらしく、こちらには来れない。

悔しげな声がする。


壁の前に来た。

シャベル手にカマキリのような昆虫を捕まえている。

こちらに見えるように足をむしり取り始めた。

「ゲッゲッゲッ」嫌な声であざ笑う。


こいつは知能は高くない。4歳児かチンパンジー並。

そして珍しくもないが残虐な性格。

人間でも多い。

他人を理由もなく基本的に殺したい、

汚したいということに命をかけている変質者。

こいつは殺したほうがいいゴキブリだ。


頭が冷えた。

カマキリの手足をすべて取って動かなくなったそれを

こちらに投げた。


こちらの足元に着地。バリア壁を通過。


喚き声を出して威嚇するチンピラ獣を無視して、

こちらも作業を開始。ここはマスターキートンの出番だ。



2時間後。

準備をして透明壁に近づく。


小山はさらに大きくなっていた。

約3メートルの高さ。てっぺんで草のようなものが動いたと思ったら。

「バリバリッ!」電撃が走ってこちらを直撃!

体が痺れて倒れた。


チンピラ獣が小山の影から出てきた。

頭部の上、3本の触手が電気を発している。

そして集めておいたらしい大石を4本のシャベル手で持ち上げ、

こちらに投げてくる!


動きにくい体を必死で動かしてよける。すぐ横に着弾。


そして手製の弓を射る。

10メートルの距離。

獣の胸に刺さる!

2つ目の大石を投げようと動きを止めていた所。


「グガウ!」強引に石を投げる。

避けたつもりだったが左足に当たる。


2本目の矢を打ち込む。

効いていないのか剛毛に遮られて防がれているのか、

矢にはかまわずに3本目の石を持ち上げる。


こちらはもうろくに動けない。左足は骨折したらしい。

3本目の矢を打ち込む。

向こうは勝ちを確信したのか嫌な声であざ笑う。

石を投げようとして。「グ?」取り落とす。


とがった石で樹木を加工して弓矢を作り、毒草の汁を矢に塗ってある。

強力な匂いから判断して、トリカブトのような効果があるはず。


4本目の矢を打つ。命中。

怪物は、ふらつきながら小山の影に隠れる。


しばらくして。

小山のてっぺんに現れた。

こちら側に背をもたれるようにしている。


そうきたか。

そのパターンなら向こうにツキがあるかも知れないが。


シャベル手を喉に突き立てた。

動脈を切ったのか、緑色の血が噴き出す。

痙攣して動かなくなり・・・・。


透明壁を越えて、こちら側に転げ落ちた。


死んだかどうかは不明、意識が無いだけかもしれない。


右足と両手で近づき、尖った石をナイフ代わりに、

チンピラ獣の喉傷を広げにかかる。首を落とす!

さらに緑の血が噴き出して。


額の銀の輪がほどけて、こっちの喉に噛み付いた!


寄生生物、憑依生物のような生き物。

チンピラ獣は、どうみても動物であり、UFOを操縦できる知性は持っていない。

人が馬を御するように、こいつにコントロールされていたらしい。


体が金縛りになっていた。まずい。

蛇の細い舌というか、神経節を打ち込んでこちらを御する気だ。

左足の激痛でかえって意識が保てる。


必死で引き剥がす。

喉の肉を噛み取られたらしく血が噴き出す。


時間との勝負。意識が遠のく。

石で、銀のロープだかフライングフィッシュだか、

とにかく蛇の頭部らしき部分を叩く。叩く。叩き続ける。


そしてどうやら蛇は動かなくなった。


喉の出血は止まらず私も意識を失った・・・・



気が付くと自宅の畳の上。

夢にしてはリアルすぎる。

記憶がはっきりしている。

傷は特にどこにも無い。


こっちが何とか勝ったはずだが。

正体不明で自分勝手な、あの審判は、

もしかしたら相打ち判定したかもしれない。


そうだとするとまた誰かが、あの決闘場に

連れて行かれて別の幻想生物と戦わされるかも。


そしてそれはあなたかも知れない・・・・



藤子不二雄の読み切り漫画「ひとりぼっちの宇宙戦争」、

フレデリック・ブラウンのショート小説「闘技場」のパロディ。


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