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【第1話】舞うは群青、始まりの空

竜の渓谷、と呼ばれる場所がある。

周囲に広がる草原の中に突然現れる、巨大な大地の割れ目だ。

その名の通り、そこには幾千もの竜達が住んでいるのだ。

大きな翼を広げて大空を舞うその姿は空の王者と言えるだろう。

人々はそんな彼らを畏れた。

竜は気まぐれ一つで町を、国を無かった事にしてしまえるだけの力──魔力と、それを操る魔法を使うからだ。


“竜に関わる事無かれ”


それがこの(セカイ)での常識だった。

──この時までは。


***


「……ぅ…………?ここ、どこ……?」

幼い声に釣られ、ふと意識が浮上した。

どうやら幼子(おさなご)は、起き上がって薄暗い洞窟を見渡しているらしい。

驚かせてしまわないよう、ゆっくりと長い首を上げる。

『目が覚めたか』

「ひぅっ!?」

……なるべく優しく話しかけたのだが、どうやら失敗したようだな。

『すまぬ、驚かせるつもりは無かったのだが……ふむ。人の子は闇を恐れるのだったか』


──魔法とは、言の葉に魔力を乗せて発動させるものである。


『《光よ、集え》』


ふわり、と柔らかい光が洞窟を照らした。

「ふぇ!?り、りりり、竜!?!?!?」

……また、失敗したようだ。

『はぁ……落ち着け。取って食ったりはせぬ…………む?』

顔を上げると、幼子がキラキラとした大きな瞳を向けていたのだ。

「……すごい!すごいすごい!!竜だ!本物の竜だ!!!」

『………………それだけ元気があるなら、怪我は無事に治ったようだな』

「え、怪我……?」

『覚えていないのか?』

こくり、と幼子は首を縦に振った。


***


この時期特有の強い雨が降っていた。

黒い雲が空を覆い、雷があちこちに落ちる。

ふと、聞き慣れない音が渓谷に響いた。

『……何事だ』

我が洞窟から首を覗かせると、増水した川に木片が浮かんでいた。

それだけではない。

渓谷の上から声が降ってきた。

「オイ!攫って来たガキは無事か!?」

「お頭ァ、馬車ごと竜の渓谷に落ちたんだ、助かりっこ無いですよ!」

「それよか早く離れましょうぜ!此処も危ねぇ!!」

どうやら盗賊か何かの仕業らしい。

目線の端に何か写った瞬間、我は洞窟を飛び出した。

(おさ)!何処に行かれる!!』

『助けを求める声を放っては置けぬ』

荒れる水面すれすれを飛び、一瞬見えた空色をすくい上げる。

──まだ、灯火は消えていない。ならば。

翼を強く羽ばたき、(そら)高く舞い上がる。


『《生きよ、我が半身──》』


その日、群青の竜が空を舞った。

竜の咆哮は荒れ狂う雲を裂き、(そら)に虹が架かった。


虹は新しき始まりを予言していたのかもしれない。

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