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大事なものは大事。それは一緒。【タクトside】

タクト視点です。

 瞬きしたような一瞬の時間に感じた。


 喉に痛みはもうなくて、一度死んで甦ったという感覚も一切ない。

 目を開けるとフィオナ……いや、ユイの横顔が見えた。

 顔のあちこちに血が付着し、その目は俺とは反対にしっかりと閉じられている。


 無理もない。死人を生き返らせるような術を使えば魔力切れを起こす。

 ユイにのし掛かった記憶はある。その後、ユイが魔力切れを起こし、体重の重い俺が押し倒した形になったようだ。


 上体を起こして服の袖でユイの顔の血を拭き取る。乾いてもいないその様子から、さして時間は経っていない。


 座った状態だったからか、魔力切れ以外では怪我などもない。


 涙の跡もない。


 柄にもなくホッとした。


 ……違うか。泣く暇も無いくらい直ぐに蘇生魔法をかけてくれたのかもしれない。


 ユイが知らなかっただけかもしれないが、魔力切れだってただ倒れるだけじゃない。天地が返るような目眩や吐き気に襲われる。


 自分のためにそれをさせたと思うと何だかソワソワとした変な気分になり、グシャグシャとユイの髪を撫でたら、手にベッタリと血がついた。

 ユイは全身俺の血だらけで、何とかしてやりたいが俺には浄化系の魔法は使えないし、ユイが起きる気配はない。家には連れて帰れないよな……いやいやいや、連れ帰ったところで誰がユイを洗う。


 そんなこと考えていると複数人が走ってくる音が聞こえた。植木の隙間から覗けば、町長の秘書と町の連中がゲートキーパーと話している。

 耳に強化魔法をかけて話を聞く。


「こちらには来ていないぞ」

「じゃあまだ街の中にいるのか」

「全くどうしちまったんだフィオナは」

「とにかくしらみ潰しに捜すしかない」


 

 ここが見つかるのも時間の問題だ。急がないとな。


 赤く染まった手のひらを地に付け、魔力を流し込む。


「門番、タクトだ開けてくれ」


 地につけた手の下から、黒に近い紫色の染みが俺を囲むように地面に広がり、俺を中心とした円を作った。


『よう!』


 頭に直接響いてくる低いダミ声。魔界の門番のガヤだ。


『タクトお前、開門の呪文が違うぞ「魔界の門番に告ぐ。我、タクト・スミスが命じ──」』

「違くても開くだろうが。(なげ)ぇんだよそれ。カッコ悪いし」

『カッコ悪いとはなんだ。数年前はキラキラした目ぇしてノリノリで──』

「止めろ。掘り返すな」


 ゲラゲラと他にも笑い声が聞こえる。いつまでも人で遊びやがって。これだから魔族はタチが悪い。


「ガヤ、今日は俺だけじゃないんだ。2人分のゲートを開けてくれ」

『わかったわかった。何だ? 魔界デートか?』

「そんな確実に振られそうなデートはしたくないな」

『何だと? 雷鳴の丘の稲妻はそれはもう美しい代物だぞ。プロポーズにはもってこいだ。ビビビッてな!』

「プロポーズねぇ……この逃避行に愛はねぇよっ! と!」


 横たわっているユイを勢い良く肩に担ぐと、下に広がる円が大きくなる。


『逃避行だと? 後で詳しく』

「じゃあ頼む。転送してくれ」

『無視すんな』


 円の縁から幾つもの黒い帯のようなものが俺とユイに巻き付き、ズルズルと地面の円に引きずり込まれる。

 感覚的には泥に入っていくような気持ち悪さがあり、ここを通るときはいつも目を瞑ってやり過ごす。



 目を開ければ、魔界だ。

 どす黒いバラが巻き付く黒い鉄で出来た美しいゲート。そのすぐ横の門番待機所内に転送される。

 室内には、3メートルを超える大きさで棍棒が似合う筋肉ダルマの厳ついガヤと、ガヤと同じような風体の門番のメンバー2人がいた。3人は皆一様にユイを見つめて怪訝そうな表情を浮かべる。


「おいタクト、その子……」

「あぁ、光魔法の保持者だ。かなりのレベルだから魔石になりたくなかったら喧嘩売るなよ」

「また物騒なのを連れてきたな。王には?」

「これから知らせる」

「そうか。じゃあ中央塔、6階の転送部屋に飛ばす。4階から下にはアホが多いから絶対降りるなよ。仲間が減るのは嫌だからな」


 ガヤも他の人も真剣な顔をして俺とユイを眺めている。魔族だからって仲間意識や思いやりが無いわけではない。

 人間とそうかわらない。


「いや、西塔の7階にしてくれ。彼女は寝かせてやりたい」

「タクト……本当に愛の逃避行ではな──」

「早く飛ばせ」


 ガヤはなんでもかんでも愛だの恋だのに結びつけたがる。あんな見た目でそんなんだから結婚できないんだ。



 西塔は王族居住区だ。8階に兄の部屋があるんだが今は姫が捕えられている。

 ユイを肩に担いだまま西塔に転送してもらう。フロアにいたメイドにユイの湯浴みと着替えを頼んだ。



 高位の魔族はただ居るだけでも瘴気が体から溢れ出る。それと同じように、ユイの光魔法のレベルだと周囲の瘴気を勝手に浄化し続ける。

 人間が魔族から出る瘴気で死ぬように、浄化され続ければ魔族は死ぬ。本来ならユイに近付くだけでも苦痛な筈なんだが、やはりユイの光魔法は変異している様で、メイドは笑顔でユイを運んでいった。


 ……あのメイドが真性ドMなら話は別だが。



 自室のドアを開けると、最初に目に入るのは自宅で使っているものより少し大きなベッド。その向こうには紫色の曇天と稲妻が見える出窓。その下には黒の二人掛けソファーとサイドテーブル。必要最低限の物しかない。続き部屋もあるがそこには何も置いていない。

 そもそも体質上魔界には長居できないし部屋なんて要らないと言ったんだが、母に押しきられた。

 でもこうなると部屋をもらっておいて良かったと思う。ここがユイの部屋になる。


 瘴気が着々と体を蝕んでいる様で、ソファーに座るとズルズルと寝そべった。

 ユイを担いでいた時は何ともなかった。


「思ったより使えるかもしれないな」


 ユイの魔界での今後を考えているとドアがノックされ、入室を促すと、先程のメイドと、未だに眠る身綺麗にされたユイが従者に横抱きされて戻ってきた。

 フィオナの服は白とか水色とかが多かったから、黒い衣装を着せられたユイを見て、ゾクゾクと何とも言えない背徳感に襲われた。脳裏に浮かんだ変態の2文字を頭を振って打ち消す。




 ベッドに寝かされたユイに起きる気配はない。今のレベルはどれくらいなんだろうか。気になるがステータスは本人にしか出せない。

 ベッドに腰を下ろしてユイを見下ろしていると、ユイの眉間にギュッとシワが寄った。


「タクト……」


 ドッと心臓が跳ねた。何だこれ。寝言で呼ばれただけだろう! ガヤがおかしな事を言うから! あいつ後で殴る!


「マジでクソ……」


 先にユイの頭をスコーンと殴った。

 なんつぅ寝言だ。


 起きるタイミングだったのか、殴ったせいなのかはわからないがユイが驚きながら起きた。その瞬間の表情には喜びの色がハッキリと浮かぶ。


 もう少し見ていたいと思ったが、ユイは険しい顔をした後、腕をクロスさせて顔を隠した。


 俺が生き返ったのは良かったけど、あんなもん見せられて怒ってるが、生きてて良かったよこのやろう。絶対涙は見せないぞ的な感じだろうか。

 言葉がなくてもユイは全てが素直でわかりやすい。



 その後、俺の正体をバラしても俺への態度の変化は殆んど無かった。

 本当に俺に興味が無いらしい。

 そのあんまりな言いぐさに嫌われることを恐れていたのがバカらしくなった。


 ユイはどこまでも素だ。俺も素を出して何が悪い。



 手を繋いで無防備に眠る。



 呼吸をするのが楽になった。



 

 


 



 

読んでいただきありがとうございました。


次はユイ視点に戻ります。


また読みに来て頂けたら嬉しいです。

評価、ブックマークありがとうございます!嬉しくてソワソワします。

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