でもやっぱり百聞した上で一見するのが一番勉強になると思うんですよ。
お久しぶりです。覚えてる方いらっしゃるでしょうか。遅くなりましてすみません。
イチャこいてるところを謎の爆発に邪魔された続きです。
誰かが突然現れた謎の光属性の主と戦闘しているんだろう、窓から城下を見れば青い光が激しいフラッシュのようにバッ!バッ!とキラキラのエフェクトを輝かせながら辺りを照らしている。
他所様の光魔法を改めて見て、派手な魔法だなと若干引きながらタクトと共にお兄さんの執務室へ急ぐ。
この非常事態で、横に並ぶタクトからはドス黒いオーラが滲み出ている。
話しかけるのも恐ろしい程だが確認しとくべきだろう。
「勇者が来たの?」
「そんな筈はない。動向は全て把握しているし、コチラに来られるようなレベルじゃない──誰か来たにしろ俺の邪魔をしたんだタダじゃおかない」
邪魔?
「何の?」
「……何だろうなぁ」
ニヤリと笑うタクト。
「?──っ!」
そうだ、さっきまで……!
一連の流れを思い出し、タクトの笑みがセクハラオヤジのソレに変換され、頬が引き攣った。
誰だか知らないけどあのタイミングで攻めてきてくれて正直助かった。うっかりタクトの手管に流されてしまうところだった。
火照りだした頬を強めに擦った。
「兄さん、タクトです」
執務室の前まで来ると、タクトはドンドンとドアを叩き、返事も待たずにノブを引く。
中には大きな机に凭れて腕を組み、楽しそうな笑みを浮かべているお兄さんと、涼しい顔のダミアンさん、眉間にシワのガジリスさんが居た。
光魔法保持者が乗り込んできたから、もっと見たことのないような重役が沢山揃ってると思ったんだけど、雰囲気はいつもとあまり変わらない。
「タクト、ユイまで来たか」
「兄さん、何があったんですか」
「聖竜が現れた」
「「!?」」
私の肩がビクッと揺れ、タクトは真顔で固まった。
そりゃあそうだ。私の首には聖竜の角の欠片があり、隣のこの男は聖竜を殴って負傷させている。
まさか……同一竜?
「今はガヤが応戦している」
「え、1人で?」
大丈夫なのだろうか。
タクトの後ろから、そう声を出すと、問題ないと言うようにダミアンさんが微笑んだ。
あ、そうか。
ゲームで勇者は聖剣に聖竜の加護をもらって魔界戦に臨んでいた。
勇者の力+聖竜の力でも、魔界に入ってすぐのガヤ戦には苦労したから、ガヤさんが聖竜単体に負けるとは思えない。
聖竜はHPよりもMPが豊富で魔法攻撃メインだった。防御力も高くてHP化け物のガヤさんなら、MP切れに持ち込めるだろう。
けど……同一竜ならば、攻めてきた原因は十中八九ネックレスだ。ガヤさんに何かあった場合、寝覚めが悪過ぎる。
「あ、あの、ガヤさんは回避率が低いから私がサポートに入ってきます」
何もしないでドーンと居られるほど面の皮は厚くない。戦いに巻き込まれなさそうな所で、ちゃちゃっとヒーリング飛ばしてやれば怖くないだろ──
「ひぃっ!」
小さく手を上げながらそう言った私に振り向いたタクトは鬼であり般若だった。予想はしていたが予想以上だ。
だが負けてられない。元はと言えばタクトが原因じゃないか!
胸をグッと張って睨み返すとお兄さんの笑い声がきこえた。
「良い心がけだユイ」
「ユイは病み上がりです」
「その割には元気そうだがな……そうだな、何かあればタクト、お前が守ってやれ」
「守……」
ポンッとお兄さんがタクトの肩を叩くと、悔しそうにお兄さんを見上げたが、その顔は満更でもない。
お兄さんは青少年の扱いが実にうまい。そしてタクトがチョロい。
「そうと決まれば、ダミアン」
溜息を付きながらダミアンさんが氷魔法を発動させてガジリスさんの手足首胴体を壁に拘束する。
「っダミアン様! 魔王様いけません!」
一体何──
「離して下さいダミアン様! 魔王様にはまだ仕事が」
「そろそろオレアンダー様に息抜きさせなければ、また突然居なくなりますよ」
ダミアンさんの一声に、ガジリスさんは真顔でスッと引いた。それを見てお兄さんがニヤリと微笑む。
私とタクト、お兄さんの足元に転移陣がスルスルと展開されていく。
「城内では転移陣勝手に出せないってガヤさん言ってましたけど」
「俺がルールだ」
最悪の権力者だ。
「何で兄さんまで」
「言い忘れていたがなタクト、聖竜はお前を出せと言っているらしい。保護者として一緒に行ってやろう」
「っ」
最近の保護者は危険地帯に保護対象を連れて行くらしい。完全に面白がっているお兄さんを半目で見つめながら、陣に飲み込まれた。
★☆★
招かれざる者が魔界に来た場合は魔界の門内側の待機所の陣ではなく、少し離れた森に転移してくる。獣道を歩いて来れば、森の中に薔薇が絡み付く黒いゴシック風の美しい魔界の門が現れる。
「これは殺し合いだ。戻るなら今だぞ」
タクトの忠告が恐怖心を煽る。
今、魔界の門周辺は竜とガヤさんの戦闘によって、瓦礫と焼けた倒木、黒煙が辺りを埋め尽くし、見るも無惨な姿になっていた。
竜には負けないと聞いていたから簡単に考えていたけど──
現状が私の安易な考えを一蹴した。ガヤさんは大丈夫なんだろうか。心臓がバクバクとうるさい。
「門も突破されていたか。流石にガヤでも聖竜となると一筋縄ではいかないな」
「ほ、他の竜とは違うの?」
「魔界に来れるくらいのレベルだと、その存在だけで瘴気を浄化する。近付いただけでも魔族は苦しいし、子どもやレベルの低い魔族だと死ぬこともある。本来の8割程しか力は出ないだろうな」
「そう、なんだ……」
その情報と少し離れて聞こえてくる戦闘音に膝が震えだす。
スキップでもしそうなくらい楽しげなお兄さんの後ろを俯き加減で付いて行くと、正面からブワリと突風が吹いてきた。
ガサガサと木々が激しく揺れる音、その風強さに思わず身構え、目を細める。
「上だ」
お兄さんの声に導かれる様に空を見れば、木々の隙間から青白く光る聖竜がこちらを向く姿がハッキリと見えた。
「お、おきい……」
聖竜は3階建ての建物くらいの高さを飛んでいるからイマイチ大きさがちゃんとはわからないが、10メートルくらいはあるんじゃないだろうか。
大きな翼を持つ西洋風の竜がそこにいた。
美しかったであろう鱗はボロボロに剥がれて痛々しく、あちらこちらから血が出ている。
「ユイ、こっちに来てろ」
「っ!」
タクトに腕を引かれ、お兄さんから少し離れた木の後ろに身を隠す。
「魔王様!」
森の中からガヤさんが焦ったように現れた。服が多少焦げ付いていて汚れてはいるけれど、動きから大きな怪我は無さそうなことがわかる。
「ガヤ、なぶり殺しが趣味だったのか?」
「面目ありません。思いの外回避が上手い奴でして」
「体を動かしたかった所だ。ちょうど良い。アイツも標的を変えたようだしな」
聖竜と相対する闇魔法保持者のお兄さんに竜はガッツリ反応したらしく、竜の体がより強く輝いたかと思えば、大きく開いた口の前に青白い球が現れた。
先手必勝とばかりに、竜はお兄さんに向けて青白い球から激しい光線を打ち出す。『聖』というから慈悲深いのかと思いきや喧嘩っ早いらしい。
「おにぃ──フグッ」
「静かにしてろバカ。気付かれたいのか」
タクトに背後から口を押さえつけられ、そのままズルズルと、より隠れられる茂みに引きずり込まれる。
お兄さんは感じ悪く笑いながら高く飛んで光線を軽く避け、竜はお兄さんに合わせて光線を出しながら首を動かし、辺りを破壊していく。
あの野郎完全に遊んでいる。
「お? タクトにユイじゃねぇか」
「ガヤ、怪我はないか?」
お兄さんにバトンを渡したガヤさんが、街で偶然見かけたような軽い感じで私達を発見した。
「無いが……何か甘い物持ってないか? 腹減っちまってな」
「無いな」
「だよなぁ。今街に買いに行ったら職務怠慢で怒られるだろうなぁ」
上空では怪獣大戦争が繰り広げられているのだが、魔族の面々には総じて緊張感がない。
「い、一応ヒールかけときます?」
「治癒じゃ腹は満たされんだろう。それにお前病み上がりなんだから他人心配してんなバカか」
グリグリと髪の毛を掻き回され、ガヤさんはいい笑顔を向けてくれた。
ガヤさんが無事で良かった。
ホッと安心したのも束の間、背筋が冷たくなるほどの闇魔法の気配を感じ、空へ視線を向ける。
お兄さんが右手を左から右に大きく動かすと、赤黒い炎の剣がその手に握られていた。刃の長さがいつもより3、4倍は長くて太い。
「兄さんが大剣とは珍しいな」
下唇を擦りながらタクトが呟く。
「聖竜の放つ技の威力は強いが単調だからな。単に飽きて──」
あの大剣の重さがどうなのかわからないけれど、それを感じさせず、まるでダンスを踊るように身を反転させながら光線を避け、聖竜の背後をとったお兄さん。
その口許は変わらずに弧を描く。
「──首を落とす気だろう」
ガヤさんの言葉とお兄さんの行動は同時だった。
読んでいただきありがとうございます。