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気持ちのこもったプレゼント、嬉しいかどうかは気持ちの内容による。


 それまでの優しかった雰囲気が一瞬変わり、タクトはお粥の器をサービスワゴンに戻して、ため息を吐き出す。


「……誰から聞いた」

「ダミアンさん。本当の事なんだね?」


 こちらに向き直ったときには、まるで興味が無さそうな顔を張り付けていた。


「断ったから言わなかった。他意はない」


 他意はないならなぜそんな顔をするのか。

 ユイを思い出す前、人間界で散々感じてきた諦めの空気。


 タクトは私をいつも見てると言ったけど、いつも見ているのは自分だけだと思うな馬鹿野郎。

 タクトが『商会で働きたくない』なんてことあるわけがないじゃないか。


「通いでは働けないの?」

「無理だな。商会の会頭が混血だということは知ってるか?」

「うん」

「混血が同じ場所に長期間滞在するのは避けたい。商会で働くのなら、より経験の積める王都の支社で人間の下に就くことになると言われた。転移陣用の隠し部屋は本店しかないし、そう簡単には戻ってはこれないと思う」


 そりゃそうか。一人で混血を複数人殺めた場合のレベルの跳ね上がりは恐ろしいことになる。未然に防げるならその方がいい。

 特にタクトはそもそものレベルが高いから貰える経験値も異常。注意が必要になる。


「じゃあ働くとしたら住み込みになるの?」

「あぁ。見習いとなると実質休みなんて無いだろうからな」


 う~ん、と腕を組んで考え俯くと、タクトはベッドに片足を乗せて腰を下ろした。


「……まさか行ってほしいとか思ってないよな」

「へ?」


 顔を上げればタクトは責めるように猫目を細くしていた。

 威圧を含んだ口調、昏くなる瞳に、グッと息を飲み、たじろいだ。


 私、私はそりゃもちろん行って欲しくない。

 この2日ちょいの短い期間でもタクトがいないのは寂しくて、さっき『断った』と本人から聞いて安心した。


 だけど安心したことに罪悪感を感じた。タクトに好きなことをして欲しいと思う気持ちも同時にあった。


 相反するこの自分の思いを天秤にかけても、結果なんて見えてこないことは目に見えてる。


「行って欲しいとは、思ってない」


「……ならこの話はおしまいだ」


 私の思考を切るようにタクトは話を終わらせて、一旦置いたお粥の器をまた手にして私に持たせた。


「お、おしまいって、結構大事なことだと思うんだけど! タクトが商会の仕事興味ないとか有り得ないでしょ!?」


「俺はユイの側から離れない」


「っ」


 頑固者め。

 あまりにも頑ななその態度に、ついイラっと……あー。いや、嬉しいと思う面もある。もちろん。

 6対4くらいで嬉しいが勝ってる。


 勝ってるんだけど……口では言い表せないモヤモヤが止まらないが、何と言っていいかわからない上に、頑固モードのタクトに気持ちを上手く説明できるとも思えない。


 複雑な気持ちのまま、病人とは思えない大口で八つ当たりのようにお粥にかぶり付いた。


「あぁ、そうだ忘れてた……ユイは食って待ってろ」

「え?」


 私の頭をポンポンと叩き、タクトはベッドの足元を通り、続き部屋に入って行った。


 開けっぱなしの扉からは、人間界から届いたと思われる、鞄や袋などが荷ほどきされないまま置いてあった。


 ガサガサと音がした後、再び現れたタクトが持ってきたのは、ペンが2本位しか入らないサイズのペンケースみたいな、長細い箱だった。


「お土産?」

「開けてみろ」


 薄い水色でベルベットのような手触り。蝶番のついた蓋を促された通りカパッと開けると──


「っ、え、可愛い!」


 水色、白、水色のカスミ草のような小花型の石が3連になったネックレス。

 少し大人っぽいデザインのそれと、タクトを交互に見やる。


「土産っつうか、誕生日プレゼント」


「あ、えぇ??」


 嬉しい。

 嬉しいが、誕生日は少し先だ。なぜ今。


 返答に困り、また交互に見るとタクトはネックレスを箱からとり、前から腕を回して着けてくれた。


 突然の抱き締められるような体勢にドキドキし、華奢な飾りが胸元で動く度に揺れる度にソワソワする。


「うん。似合うな」

「あ、ありがとう」


 照れながらお礼を言えば、タクトは私の何倍もニコニコと嬉しそうだ。

 あれか。早く渡したくて待てなかったヤツか!


「可愛い」

「だろ」


 タクトがね。

 折角機嫌が良くなったので、あえて主語は口にしない。


「これを買いに人間界に行ってたの?」

「買ったんじゃない。採ってきた」

「採っ」


 頭の中で前世の攻略本をめくるが、こんなアイテム記憶に無い。


「レアアイテム……?」


 タクトはドヤァとニヤァを足した顔をした。


「今回の竜狩りは2ヶ所。一ヶ所めは人間界北部『氷竜の穴ぐら』だった」


 何か語りだした。

 長くなりそうだと、木のスプーンを食みながら聞く。


 氷竜の穴ぐら……氷竜は確か防御に優れていて複数の火魔法で一気に叩かないと、広範囲に大ダメージを与える一撃必殺の“フローズンブレス”で一網打尽にされる。数ある対竜戦でも高難易度戦闘だったはずだ。


「フローズンブレスを3回かわしてから竜を倒すと、フロストフラワーっていう、この水色の魔石を1個ドロップする」


「フロスト、フラワー」


 たくさんの光を跳ね返してキラキラと輝く花の石をマジマジとみる。


 私のために採ってきてくれたのか。


 ……待って。3連のネックレスで2つがフロストフラワーってことは氷竜2体も倒したの? フローズンブレス……6回も避けたの?


「怪我人は……」

「俺が居てそんなもん出ると思うか?」

「でもタクト、人間界では魔法使用をセーブしてるでしょ?」

「偽名での参加の上に全身鎧武装だったからな。自由にやらせてもらった」

「も、もう一ヶ所は?」

「エイス大神殿」


 エイス大神殿は確か古代の神殿で、勇者が聖剣をパワーアップさせるために聖竜を聖剣におろすイベントがある場所……。


「って聖竜倒したの!?」


「まさか。聖竜は人間界での信仰対象でもあるからな、一応その辺は気を使って夜中にソロで向かった。瘴気で神殿を汚して、怒って出てきたところを叩いて、角の欠片を貰ってきただけだ。直ぐ回復してたから大丈夫だろ」


 いや、大丈夫じゃねぇよ。


 感覚がおかしい。

 改めて裏ボスタクトの化け物度合いを実感して、頬がひきつった。


 タクトはレアアイテムの採取戦が相当楽しかったのか、どんな戦法で3体の竜を退けたのか、魔石を手に入れてから、このネックレスを作るための工程やデザイナーとのやり取り等、この2日半のことを身ぶり手ぶり話してくれる。


「よくこんな短時間にデザインから加工まで出来たね」


「あぁ、元々ユイの誕生日に贈ろうと考えてたからな。本当なら緑系の魔石を使った指輪を考えていたんだ」


 タクトはネックレスを指でツンとつつく。

 緑はタクトの瞳の色だ。独占欲の強いタクトならやりそうだと容易に考え付いて、少し顔が熱くなる。


「なんでこれになったの?」


 普段、水色や白の服を着ることが多いから合わせやすい。そこを気遣ってくれたんだろうか。さすがタク──


「寒冷対策にきまってんだろ」


「は?」


 タクトは真顔だ。


「使用者に寒さを感じさせず、HPを減らさないアイテムは防寒具以外だとフロストフラワーしかない。白い聖竜の角は言わずもがな光魔法の強化」


「寒、さ?」


 道具のカウンターの向こうにいる顔をしている。


「真冬に城の屋上に行くことを危惧してただろ? 緑系は風や地魔法の増幅や防衛に特化してるから意味がない。しかも指輪だと矢を射る邪魔になるかもしれないしな」


「邪魔……」


 一気に色気の無くなった胸元のネックレスに目線を送る。


 きっと最初は独占欲まみれだったことだろう。

 それが花火打ち上げの寒さ対策という別の目的を帯びたことで、あれよあれよと興が乗り、目的が擦り変わったのだろう。


 そしてタクトは目的が変わっていることに気付いていない。それでよく、私の側から離れないとか言えたもんだ。


「ねぇ」

「あ?」


 道具バカを見ていて、つい口許がゆるむ。



「魔界で道具屋をやろうよ」



 珍しくタクトはアホっぽい顔で固まった。

読んでいただきありがとうございました。


また読みに来ていただければ嬉しいです。

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