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レアであるのは自覚している。【タクトside】

タクト視点です。

若干いつもより長いです。

 魔族は気まぐれに人間に化けて人間との性交を楽しむ。その場合、人間は瘴気に当てられて大抵が死ぬか狂うか。正常な状態で居られるのは稀。


 魔族の子どもを宿した女性は、十月十日のうちに腹の子からの瘴気で体が弱る。混血だと放たれる瘴気も薄まるのだけど、体の内からダイレクトに伝わるソレは母を狂わせるには十分で子共々死んでしまう場合が多い。生まれるのは稀。


 人間との子を宿した魔族の女性が、わざわざ生まれた子を人間界に託すのも稀。

 もし託したとしても人間が魔族の血が入る子どもを育てるというのもまた稀。


 稀。稀。稀。稀。俺みたいに生き残るのは本当に極少数だ。


 俺の場合は、子が無かった今の両親の元に先代の魔王が扮した女性が現れて、自分の正体と俺の出生について話し消えたそうだ。

 子を切望していた両親は、どこからどう見ても可愛らしい赤子の俺を抱き、これ幸いと引き取り、道具屋の息子としてぬくぬくと何不自由なく育ててくれた。




 そのレアな存在故か、殺せばレベルがアホみたいに上がるから、混血がバレると冒険者など力を必要とする奴等に狙われる。一昔前は売れば死ぬまで働かなくても良い額を手にすることができたらしい。


 人間界では、力のない人間のように振る舞うように幼い頃から散々言い聞かされてきた。


 特に光魔法の保持者である、同い年のフィオナには近付くなと口を酸っぱく言われてきた。

 魔族には光魔法は毒になるからだ。


 フィオナの家への配達は行かせて貰えなかったし、俺はフィオナと接触のあるかもしれないカウンターにはほぼ立たず、商品作りや物資を集める裏方として道具屋の手伝いをしていた。


 しかし、散々どれだけ言われてきても友達付き合いというものがある。


 フィオナは背中まである栗毛色のストレートヘア、暗い紺色の大きな目。小さな口に、通った鼻筋。白い肌。

 正直言って可愛い。


 4才で芋の皮を大人顔負けの速度で剥き、6才で宿の食事メニューを次々に一新していく。

 そして大人でも解くことの出来ないような計算をスラスラと解き、神童の名を欲しいままにし、いつか魔王を倒すであろう勇者の為に光魔法の練習をしていた。


 宿屋の出来すぎた看板娘。6才のガキでも男数人が集まれば見に行こうという話は自然に出た。あわよくば友達になりたいという下心も当然あり、幼い俺達が仲良くなるのに時間はかからなかった。


 光魔法の保持者といっても混血がバレることはそうそうない。

 物心ついたときには勝手に出てくる瘴気の抑え方もマスターしていたし、光魔法を浴びるようなヘマさえしなければフィオナ自体は無害で何も気にする事はなかった。

 初めは良い顔をしなかった親も何も言わなくなっていた。


 12歳になる頃、フィオナは光魔法の攻撃の練習もしたいと、道具屋で使う素材収集に付いてくるようになった。

 ギルドに頼んだ護衛と3人で森へ行き、フィオナは護衛に習いながら少しずつレベルを上げていった。


 1年も経つとフィオナを護衛として森に2人で入ることもたまにあった。


 そしてあの日、初めて同時に3体の魔獣に出くわした。そんなときに限ってギルドの護衛は居ない。

 フィオナの戦いは押されていた。

 最後の一体と相討ちになる。体は動いた。


 フィオナを突飛ばし、俺は背中を大きく負傷した。


 流れる血から溢れ出る瘴気。それは魔王の血を引くもの。

 魔族にとって上質なソレは、森に住むようなレベルの低すぎる魔獣にとっては過度なもので、俺を襲った魔獣は一目散に逃げていった。


 フィオナは、俺の制止を無視して泣きながら俺の背中に治癒魔法のヒーリングを掛けた。

 背中は逆に焼けただれ、「どうして!?」というフィオナの悲痛な叫びを聞きながら意識を失った。


 目覚めたら魔界、魔王城にいた。

 背中の痛みは消え、目の前には見知らぬ女とその人に似た男の人。

 彼女は魔王だと名乗った。

 母さんなのかと問えば、俺の頭を撫でて優しく微笑んだ。


 そして魔界の往来の仕方を教えてくれ、俺は人間界へ戻った。混血だということがバレていたら居場所は完全に無くなる。魔族に繋がる子を育てた親も迫害される可能性まである。


 だけど、町ではいつも通りの生活が待っていた。フィオナは誰にも言わなかった。

 喜び勇んでフィオナに会いに行ったとき、それは想像と違いすぎた。

 フィオナが俺へ向ける目は今までの友人に対するモノでは無く、敵を、魔獣を見るようものになっていた。


 俺は彼女を騙していた。

 仕方なかったんだ。


「勇者様が来るまで、タクトに逃げられたら困るの」


 それは暗に、勇者が来たら俺を殺すという事を意味していた。俺の存在は勇者のレベル上げ。


 代償はあまりにも大きかった。


 日常は呆気なく崩れた。いや、昨日と同じ日々は続いているがまるで違った。


 フィオナが怖かった。勇者が現れる事が怖かった。


 育ての親にはこんなこと言えない。俺は何度も魔界へ足を運び母に相談し、兄に闇魔法を習った。長居しすぎて体を壊すことも何度もあった。

 半分は人間だから力比べで兄に勝つことは無かったが、頭を使えば対等に戦えるまでのレベルになった。



 そして2年が過ぎた。

 その間に、魔王は母から兄へと継承され、兄が人間界の姫を拐ったことで討伐のために勇者が選出された。


 本当に余計なことをしてくれた。兄はかなり考え無しな所がある。思慮深くあれと母がいつも諭していたが、結局は遊びに出てうっかり俺を作った母の子という事なんだろう。


 数%の確率でここまで育ってきたこと自体奇跡に近い。

 闇魔法を覚えながらも、生きることは半分諦めていた。


 いつもの森での素材収集。

 俺が下らないことで死ぬことのないよう監視するように常にフィオナは行動を共にした。


 その日現れたのは狼型の魔獣6頭。群れで動く事のない魔獣にしては珍しいし、初級魔法しか使えないフィオナにはあまりにも不利だ。

 腰を抜かしたフィオナの前に庇うように膝立ちで座り、闇魔法を使おうとした瞬間、奴は現れた。


 勇者だ。


 ついに現れた。現れてしまった。


 二の腕に添えられたフィオナの手に力が入ったのがわかり、俺は更に緊張した。


 辿々しい剣捌きだけど、確実に魔獣を仕留めていく。

 最後の一太刀で、炎魔法を習得していた。



 炎が辺りを煌々と照らし、勇者が此方に振り向いた。


 心臓がギュウギュウと小さくなるように締まる。




 殺される。




 そう思ったとき、前の勇者と後ろのフィオナが同時に倒れた。


「へ?」


 慌ててフィオナを抱き起こし名前を呼ぶ。5、6分はそうしていただろうか。

 再び目を開けたフィオナはフィオナではなくなっていた。


 話し方、表情、態度。全て別人。でも確かにコレはフィオナ。


 俺は今までフィオナにバカだのアホだの言ったことはなかった。フィオナは隙のない完璧な女だったから。


 だが、どうだろう。


 目覚めた後のフィオナは……確実にアホになっていた。自然と男友達に話すような、その手の言葉が口から漏れる。


 俺の名前はわかるのに自分の名前はわからない。


 倒れている勇者を見落とす。それどころか町へ戻るときは、勇者へお荷物のような視線を向ける。


 変な歌を大声で歌い出す。


 どんなことになるかわかるはずなのに俺にヒーリングをかける始末。そのヒーリングですらおかしい。タダでは居られない筈なのに、俺の疲れは確実にとれていた。


 勇者をフィオナのおじさんに引き渡して、フィオナに別れの挨拶をしても、俺を殺すなどの話にはならない。


 おかしい。どう考えたっておかしい。


 でもまぁ、アホにはなったがフィオナが忘れていてくれるのなら俺にとって一番良い。下手に藪はつつきたくはない。

 久しぶりに揚々と家に帰ると、溜まっていた配達の仕事を頼まれた。3輪の台車に荷物を積んで出発した。


 その途中、勇者が滞在中だからなのかフィオナの家の前が騒がしかった。町長と目が合うと駆け寄ってきた。


「タクト! フィオナを知らないか!」

「──っえ? いなくなったんですか?」


 なんで……やっと勇者様が来たのに。


「タクトも知らんか。ギルドの受け付け嬢はフィオナが行きたくないと漏らしていたと言っていたが……いなくなられると大変困る。お前も探してくれ」


 配達が終わる頃には町中大騒ぎだった。


 確かに様子はおかしかった。元気でと言ったときも微妙な顔をしていた。


 が。


 なんで俺の命を狙っていた女のために動かなきゃならないのかとも思うが、一応足は動かす。

 これでも現魔王に何度か勝てるくらいには闇魔法のレベルは高い。相対する光魔法の保持者フィオナの居場所は大体わかる。



 フィオナの気配は町の反対側のゲート脇の植木の後ろからだった。

「フィオナ?」

 覗き込めばフィオナは鼻水垂らして泣いていた。以前の面影は未だにゼロで、少し可愛いと思ってしまい、つい顔が緩んだ。


 森からのことと、少し話を聞いたことを纏めると本当に中身は別人に感じる。

 フィオナはあのとき何て名乗った?


「タキタユイ、16歳、ガクセイ」

 

 そう言うと、ユイは俺が礼を言ったときのようにヘニャリと笑った。

 その笑みはやたらと保護欲を刺激する。赤子だった俺を見た両親もそう思ったんだろうか。


 詳しく話を聞けば、とても信じられる話では無かったけれど嘘をついている様子もない。フィオナ自身そんな嘘をつく奴じゃ無かった。


 それにユイが勇者と共に行けば魔王……兄があの勇者に倒されるとハッキリと言われてユイを戻すわけには行かなくなった。

 彼らには山ほどの恩がある。


 大捜索が行われている今、逃げられるところは魔界しかないが、ユイのレベルが低すぎて連れては行けない。


 あれだけ嫌がっていたのにこうなるのか。


 幸いユイは手探りでレベルを上げていくフィオナとは違い、光の上級魔法にやたらと詳しい。

 ユイが今頼れるのは俺だけだし、死んだ俺をそのままにしておく事はないだろう。

 俺も生き返れるし、母も兄も助けられるし、ついでにユイも助けられる。

 我ながらナイスアイディアだと、念のため生き返らせるように言ってから俺はユイの手を掴み自分の首を思いっきりかっ切った。



 う……わ……。


 後悔が押し寄せるけどもう遅い。

 想像以上に最悪に痛い。死ぬんだから当たり前だ。


 体の力が抜けてユイにのし掛かった。


 その時見たユイの表情は、動きを止めてあるから止めたときと何ら変わらない……なのに酷く傷ついたようなそんな感じがした。


 聞こえる筈のない声が頭に響く。



『どうして!?』



 俺がフィオナを庇って魔獣にやられたあの時の声。



 次、目を開けたとき俺はまたユイにも嫌われてしまうのだろうか。



 それがとても怖かった。

読んでいただきありがとうございました。


次もタクト視点です。次は穏やかな話になるかと……。


また読みに来て頂けたら嬉しいです。


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