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他人を癒せる言葉を吐けるほどの語彙力はない。

 マジで引くわぁ……。

 もう本当にやめてほしい。


 私に握らせたナイフで幼馴染み(仮)が目の前で自殺。

 究極のバカタレ。私がどんな気持ちになるとかは一切考えてない。

 顔が良くてもアレではモテないわ!!


 いや、だって完全にトラウマでしょう? 何十年もメンタルケアに通ってそれでもまだ立ち直れないパターンのヤツでしょう。

 何回も夢でうなされて、冷や汗かきながら飛び起きて「夢……か……」とかになる類いのヤツ!


 ホント何なの!? 

 命をもっと大事にしろ!

 一回死んだ私が言うんだから間違いない。死ぬのは辛くて苦しくて悲しい。負の要素が究極に全部つまってる。


「タクト…………………………マジでクソ……」


 あんなの見るくらいなら大人しく勇者御一行の仲間に入れば良かっ────!!



 ベシッと頭に強めの衝撃が走り、え? え? と、中々完全に開かない寝起きの目を、瞬かせながら開けた。


「随分な夢見てたみたいだな」

「────タクト!! 生きてたの!?」

「生き返ったんだよ。オカゲサマデ」


 顔の横で平然と両手をヒラヒラと振るタクトにどうしようもないイライラが募る。のんきな顔してコノヤロー。

 目の奥がじわっと熱くなって鼻がツーンとしてきた。こんなヤツのために泣いてたまるか。泣き顔を見せてたまるかと寝たまま上を向き、腕を目の上でクロスする。


「────」

「────」


 静かな部屋に、ククッと笑い声が響く。


「笑わないでよタクト! え、あれ?」


 枕でも投げてやろうかと、体を起こそうとするけど力が入らない。肘を体の下に入れて横向きで起きようとしたら、タクトが私の肩に手を当ててベッドへと押し戻した。


「いや、悪い。あまりにも反応がフィオナとは違くて本当に別人なんだなと思ったら笑えた。

 ユイは今、魔力切れにプラスして魔力を受け入れるキャパがいきなり増えたから、体が対応できないはずだ。寝てろ」

「キャパが増える?」

「俺を殺したろう?」

「っ殺してない! あれは自殺!! そうだ、なんであんなことしたの!」


 タクトは引き続きニヤニヤしながら出窓の下の2人掛け程度のソファーに腰を下ろした。


 そこで初めて私は周りを見た。

 

 ここは……どこなんだろう。壁は石垣のように灰色の大きな石が積まれていて壁紙はない。

 床は深い紫色の絨毯敷き。確実にフィオナの家でもタクトの家でもない。

 窓の外は厚い雲がかかり、遠くでは稲妻が走っている。


「ここどこなの?」

「ステータス出せるか?」

「は? 無視か」

「出せないのか? 身分証だよ。指をこう」


 タクトが人差し指を一本立てたので仕方なく真似する。

 流されやすいとまたケラケラ笑われた。

 くっそムカつく。


「ステータスって言いながら指を下げる」


 スマホ画面をスクロールするみたいな手つき。


 ムカつきながらもやってみると15センチ四方くらいの薄くて透けてる板のようなものが出てきた。

 中央にはパソコンで待つとき出てくる、丸くてクルクル回るヤツがある……読み込み中的な?


 突然出てきた前世っぽい表記にちょっと嬉しくなって、板に触ろうとしたけど、むなしく通過した。ホログラム? 


「カッコいい」

「右にめくると現在地が出る」

 タクトはまた左右にスクロールする仕草をした。


「あ、まった。レベルどこまで上がってる?」

「ちょっとまってよ、今読み込み中そこまででてな……でた」




滝田結衣 [フィオナ・コックス] 16 [15]

転生者 [宿屋の娘・ヒーラー]


光魔法 レベル55

HP 34624/34624

MP 00150/75854



 突っ込みどころは多々あるが、とりあえずレベルを2度見した。

「5……5……ごっ55!?」

「へぇ、結構上がったな」


 タクトはソファーから立ちあがり、私のステータスを覗き込むためにベッド脇の床に中腰で座り、腕をベッドにのせて手の上に顔をおいた。

 そこそこ広いベッドなのでなんてことないが、少し傾けた顔とその可愛らしいポーズにキュンとかしてしまったのは内緒だ。悔しすぎる。


「何が起きたらこんなレベル5がこんなことになるのよ」

「俺を殺したろ」

「殺してない! あれは自──え? どういうこと?」


 レベルは敵キャラを倒すと経験値が溜まって上がっていくけど……。


「タクト、敵キャラなの?」

 ポカーンとアホ面を晒す私を愉しそうにタクトは眺めている。

「敵に見えるか?」

「……だよねぇ。道具屋だよね」


 同意した瞬間、ブハッと声がして、タクトがベッドに顔を突っ伏して震えていた。

 何がそんなに面白いんだ。だってタクトはただの道具屋だ。性格は悪いけどむしろ味方だ。


「ちょっと……」

 不機嫌を隠さずタクトを声でたしなめると、タクトは笑いすぎた涙目でこちらを見た。

 私の事情を話してからタクトはよく笑うようになった。全てバカにしたような笑いだけど。


「悪い悪い。本当に素直だなと思っただけだ。

 確かに俺の職業は道具屋だけど、体はただの人間じゃない」


 そう言うとタクトの瞳はまた深い緑へと変わっていく。倒れる前のような体への圧迫感は無くて、今は普通にその不思議な現象を見ていられる。


「今度はレベルも上がったし大丈夫そうだな。じゃないとココには来れないからな」


 どういうことだと問い詰めようと寝返りを打つとステータスに手が触れて、次のページがスクロールされた。


「あ」


 ゲームで見たことある地図がパッと出てきて、赤い三角が点滅している。この赤いのは現在地点。私がいる場所。


「えっ!?」



──現在地 魔界 魔王城 西の塔7階──


「魔王城……て」

「ここ」


 タクトは真面目な顔をして下を指差した。ふざけてる様子は一切ない。


「俺は魔族と人間の子だから、闇魔法が使えて魔界には自由に行き来できる」

「は、はぁ~?」


 そんなこと攻略本には一言も書いてなかった。

 突然何を言っているんだタクト。



「で、でも! フィオナに護衛を頼んでるって言ってたのは何だったの!?」

「人間にはバレないように暮らしてるからな。どういうわけか俺みたいな純血じゃないのを倒すとレベルが通常より上がりやすいから人間に狙われやすいんだよ……わりと常識なんだが」

「知らないよそんな裏設定!! そんな危ないんなら魔界に住めばいいんじゃないの?」

「魔界は半端者には瘴気が強すぎて長居できない」


 そう言うタクトが少し寂しそうに見えた。


「どこにも居場所ないね」

「もっと遠回しな表現は無いのかよ。胸にグッとくるとか心に染みる感じの気の利いたのとかさ」

「だって私も居場所ないし。他人癒してる場合じゃないし。こんな異世界でどうしろってのよ」

「……それな」


 タクトは苦笑いを浮かべたあと、私の隣に横になった。

 セミダブル程のサイズのベッドは1人だと広いけれど2人だと少し狭い。


「ちょっ!! 近い!」

「何もしねぇよバカ、期待すんな欲求不満か」


 は? 期待って──


「期待なんてしてない!! むしろ迷惑!」

「はっどうだか顔真っ赤。魔界は瘴気が多いから光魔法がほぼ魔王レベルのユイの側だと中和される。ちょっと寝かせろ……襲うなよ?」

「~~~~っ勝手にしろ!」


 そういうとタクトは目を閉じた。

 ……機嫌はすこぶる良いみたいだけど、確かに少し顔色が悪い気がする。


「手、寄越せ」

「は?」

 返答を待つでもなく、タクトは私の左手をとった。

「体調悪いの?」

「──」


 どこまでも愛想がない。仕方がなく私は手を解く事なく思考を巡らせた。


 つまり、タクトがあんなことをしたのは私のレベルを上げて魔界に連れてくるためだったと。

 なぜ魔界……あ、私が勇者から逃げたかったからか。

 確かに国を上げての魔王討伐から逃げ出したなんてバレたらどこの街にも居場所無かっただろうしな。



 でもなんで魔王城? 魔王城ってそんな簡単に入れないよね? しかも7階。

 西の塔っていったら最上階(8階)に囚われた姫の部屋があったり、結構重要な塔の筈だ。

 なんでこんな部屋で私寝かせて貰ってるの?

 

「タクトが魔王なんてことは……」


 いやいや、そんなわけない。顔だって全然違う。


「──あんな考えなしのアホと一緒にすんな。アレ倒してもレベル25くらいにしかなんねぇよ」


 寝たかと思ったのに起きてたらしい。目は閉じたままだ。


 完全な一人言に返事がくるとちょっとビビる。


 それにしても魔王をアホ呼ばわり……って気にかけるのはそこじゃない。


「まるで魔王と会ったことあるみたいな言い方」

「あるもなにもアレは異父兄だ」

「い ふけい……」


 タクトの長いまつげが持ち上がり、緑の綺麗な瞳にみつめられると、キュっと心臓が締めつけられた。


「アホみたいな発音すんなよ。異 父 兄。俺の母親は先代魔王」

「はへ?」


 まるで心を現してるかのように、外でズカーンと雷鳴が轟いた。

 

 幼なじみのキャラ設定が濃すぎる。

読んで頂きありがとうございました。

誤字脱字見つけ次第修正します!


亀ペースですが頑張りますのでまたお付き合い頂けると嬉しいです。

評価、ブックマークありがとうございます!嬉しいです!

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