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甘味を引き立てるにはやっぱり塩の存在も大切だと思うんです。

活動報告に小話を1つアップしました。読んでいただければ嬉しいです(’-’*)♪

 ──魔王城 西塔5階 食堂──


 食堂は教室を2つぶち抜いたくらいの広さに、黒と紫で何かの植物が描かれた絨毯が敷かれていて、焦げ茶とシルバーと黒で構成された家具や小物、暖炉のある部屋だ。

 2度目にお兄さんと夕食を一緒に食べた時から、タクトと私の食事は東塔3階から出前が取れるようになっていて、今回も届けてもらった。有り難い。



 10人は優に座れる長いテーブルが中央にあり、そのお誕生日席で、食事をいち早く終えたお兄さんは、機嫌良さげにワインを傾けている。


 お兄さんの右手側、私の正面にはタクトが座り、食後のコーヒーを飲んでいるが、私にたまに向けられる視線はねっとりと甘い。……精製したら結構上等な砂糖が出来るんじゃないだろうか。


 半目でお兄さんから横流しされたガトーショコラを一口食べる。……甘い。全てが甘ったるくて胸焼けしそうだ。


「タクト」

「なんだ」

「食べづらい」

「食べさせてやろうか」

「……そういう意味じゃない」


 こういう甘い感じはテーブルに頭を打ち付けたくなるくらい苦手なのだけど、盲目的な恋愛思考フィオナでもある心は、それが嬉しい思う気持ちも確かにあって、「こっち見んな」とは言えず、無言で大きめの二口目を頬張った。


 ユイ()を思い出さないまま、万一タクトとフィオナが付き合っていたら、目も当てられない見事なバカップルが出来上がっていたことだろう。


 タクトと恋人になってまだ1時間。

 雷棒とお土産を回収して8階へ戻ろうとしたところ、お兄さんが下りてきて、「腹が減った」と食堂へ連行された。

 エリーはどうしたのかと問えば、説明の間、ずっと「ハイ」を繰り返し「解ったか」と聞くと真っ赤な顔のまま無言でひたすら頷いていて、若干の狂気を感じたそうだ。「アレはどこか病気か?」と聞かれたが何も言えなかった。


 今夜は反省会と励ます会になりそうな気がする。


 タクトからの砂糖を吐く程の監視の中、最後の一口を食べると、お兄さんが空のワイングラスをテーブルに置いた。


「それでその雷棒はなんだ? 光魔法で固めてあるようだが」


 入り口の横にあるアンティーク調サイドボードの上に置いておいた雷棒を眺めなから、新たに注がれたワインに口をつける。


 本当に水のようにワインを飲んでいる。酔っぱらいに相談しても大丈夫なんだろうか。

 立ち上がり、サイドボードから雷棒を持って再度座った。


「これをお兄さんが炎を剣に変えるみたいに、矢の形に変える方法を教えて欲しいんです」

「矢?」


 意味がわからないという顔をしながら、お兄さんはグラスをテーブルに起き、その手のひらを上に向けて小さい炎を出した。

 その手を握る瞬間、炎は真横に広がり、握られた手の中には私の雷棒の炎版があった。


「ここまでは出来る。ということでいいな?」

「で、出来ないかもしれません」

「……どうやって作った」

「ひ、必死で」

「精神論は聞いていない。お前は本当に不可解の塊だな」


 お兄さんが楽しそうに笑い、タクトはいつもの呆れ顔だ。

 砂糖はもう尽きたらしい。結構底は浅かった。


「形無いものに形を持たせるにはイメージ通りに魔力を練り上げる事が出来なければ無理だ」

「練り上げる……」

「外側に魔力で型を作ると考えろ。棒状が基本型、他の形はその応用だ」

「じゃあこれを意識下で出来るようになるのがまず目標ということですか」


 お兄さんは手の中から炎の棒をフッと消すと、ワイングラスを持ち直し口に含んだ。


「そういうことだ。それに1度作ればあとは魔力は使わないが、矢のような消耗品だと数が必要になるから実戦にはあまり向かんな」

「実戦をするつもりはないんですが……」


 お皿が下げられ、コーヒーカップだけが置いてあるテーブルに雷棒を置き、「どうしたものか」と、手持無沙汰にコロコロと転がしていると、カチャと小さく食器が当たる音が聞こえて顔を上げた。


「何をするつもりなんだ?」


 タクトの視線が私のコロコロ動かす雷棒に合わせて上下する。ちょっと猫っぽくて可愛い。


 そういえば言ってなかったな。


「人間界でタクトのフィールドを壊したとき、ライトニングロッドを使ったの」

「ライトニング……母さんの技か」

「うん。出来るとは思わなかったんだけど、光魔法で電撃技もあるし、もしかしたらと思って使ってみたら出来たんだ。それで雷撃で壊したの」


 タクトだけじゃなくて、お兄さんもワインを飲む手を止めて私を見ている。でもその顔は驚いているタクトとは違って、怪訝そうに歪んでいる。


「ライトニングロッドを花火につければ、雷の矢を花火の中心に誘導できるんじゃないかって……無理そうかな」

「だが、それだと他の雷も誘導してしまわないか?」

「あ」


 他の雷の存在を全く考えてなかった。それじゃだめだ。


「本当に光魔法の雷撃をライトニングロッドに落としたのか?」

「え、あ。はい」

「どうしました? 兄さん」


 不思議そうにタクトが顔を向けると、お兄さんはクルクルとワインを回し、私の方に軽くグラスを傾けた。


「普通の雷撃は自然の力を操るんだが、光魔法の雷撃は保持者そのものが雷撃を生み出す。それは他の雷撃とは違ってライトニングロッドを無視して落ちる」

「え?」


 じゃあなんで私の雷撃は私の出したライトニングロッドに誘導されたんだ?


「ユイが出したライトニングロッドの色は何色だった」

「えっと、青い光でした」


 お兄さんの口許に愉快そうに笑みが乗る。


「造ったか。ユイ、お前は光魔法に特化した独創魔法の保持者だな」

「ユイが、ですか……」


 ど、くそう? 独走 独奏 毒草……?? なんだそれ。

 そしてタクト、「こんな奴が?」って顔で見るな。


「思い付きで物事を作り出す力。誰も新しい魔法を産み出そうとは思わないからな。保持者が見付かることは稀だ。俺も初めて会った」


 思い付き……響きがそこはかとなくアホっぽいが、希少だと言われるとちょっと嬉しい。

 雷棒をコロコロと転がす手も速まる。


「……じゃあユイのライトニングロッドは」

「あぁ。普通とは逆で光魔法の雷撃限定で誘導する力があるのかもしれん。ユイ、外の……そうだな。あの木にライトニングロッドを掛けてみろ。雷棒はしっかり掴んでおけ」


 お兄さんが指差したのは、食堂の大きな窓から見える高い針葉樹だった。窓からは10メートル程距離があり、今居る食堂より少し高いくらいの大きさだ。

 魔王城の敷地内にあり、稲妻が走るとそのシルエットがはっきり見える。


「この距離で万一普通の雷が落ちたら、城危なくないですか?」

「そんなもの俺が何とかする」

「は、はぁ」


 椅子から立ち上がり、言われた通り右手で雷棒をしっかり握り締めて胸元に当てた。

 左手の人差し指を高く上げる。

 お兄さんは座ったまま、タクトは窓の脇に立って木を見ている。


「ライトニングロッド!」


 そう叫ぶと、青く光る点が木の上に現れて線が空に伸びていく。


「わ、キレイ」


 前回も前々回も余裕が無かったから、こんな風になってたのかとマジマジと見──胸元に握り締めていた雷棒がピクピクと動いた。


「えっ──っ!! あっわっ」


 飛んでいく!


 そう思って慌てて抱えるように雷棒を抱き締めると、体がフワリと浮いた……と思ったら逆さまになりながら勢い良く窓に向かって私も飛んでいく!


「っサラマンダーバースト!」


 お兄さんの炎魔法がタクトの横を抜け、ガラスを突き破ってライトニングロッドに真っ直ぐ向かう。


「タクト避けて!!」

「避けるかバカ! 障壁を張れ! ぐっ」


 私は背中からタクトに突っ込み、タクトと共にガラスが無くなった窓の外に飛び出た。

 お兄さんの炎魔法がライトニングロッドを消すと、引力が無くなり、重力が働き始める。


「っ茨の障壁!」


 少し落下した所に地面に水平になるよう空中に障壁を張ると、私たちはその上を2人で転がった。


「──無事か」

「な、んとか」


 起き上がり、障壁で階段を作り食堂へ窓から戻ると、お兄さんが窓辺で待っていた。

 タクトが先にサッシに足をかけて室内に降り、手を貸してもらい私も降りる。


「掛けるタイミングを考えなければならないが、使えるだろう。使う魔法は障壁、長弓、ライトニングロッド、雷の矢か」

「矢ははじめから作っておくとして実質3つ同時ということですね」

「ユイのライトニングロッドの有効範囲内も検証が必要だな」


 ……3つ。今の私の限界は2つ。おまけに雷の矢も作らなければ。


「ユイ、大丈夫か?」


 振り向いたタクトが心配そうに伺ってくる。きっと私は難しい顔をしていたんだろう。思わず苦笑いがでた。


「タクトは出来るんだよね? 魔法3つ同時展開」

「まぁな」

「じゃあやるしかないじゃない。やってみせよう」


 隣に並んで劣るなんてまっぴらだ。


 右手を開いて掲げれば、タクトは「あっ」という顔をして勢い良く手のひらで私のそれを叩く。


 パンっと大きな音が響き、2人してニッと笑った。

読んで頂きありがとうございました。

誤字脱字見つけ次第修正します!


評価、ブックマーク、感想ありがとうございました(*^^*)

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