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1+1=を小難しく考え続けて、結局答えが2だったときの脱力感ったらない。

本日投稿2本目です。

 視界が歪む。



 太陽はまだ真上、薄暗い森、血のにおい、逃げていく魔獣。

 目の前には血まみれの背中で倒れるタクトがいた。

 ボロボロと涙が落ちる。


『どうして!? なんでヒーリングが効かないの!? タクト!! やだよ!!』


 治癒魔法以外の治癒なんて知らない。自分の無力さ小ささに絶望した。

 タクトの手を握りひたすら呼び掛ける。


『誰かタクトが死んじゃ』

『退け小娘』


 タクトの体の向こうに血のように赤いハイヒールが見えた。

 顔を上げれば恐ろしく美しい女性がいた……女性は真っ直ぐタクトを見下ろし、手を伸ばしてきた。


 身体中に寒気が走り、咄嗟にタクトに覆い被さった。


『タクトをどうするつもりですか!』

『退けと言っているのがわからないのか!!』

『っきゃあ!!』


 女性が叫ぶと稲妻が私を弾き飛ばし、ゴロゴロと地面を転がる。痛みの中、倒れながらなんとか目を開けて2人を見る。

 女性はタクトに何か薬を飲ませ、タクトの口の前に手を当てると、安心したように頬笑んだ。


『タクト、は……』


 女の人は私を一瞥し立ち上がった。


『私たちに関わるな』


 私“たち”それは安易に私が部外者であること告げていた。

 女の人とタクトを囲むように魔方陣が現れ、黒い帯が2人を巻いていく。


 どこかにタクトを連れていく気だ。そう思ったときにはもう魔方陣は消えていた。


『タクト……?』


『タクト』


『タクト!!』


 呼んでも返事はもちろんなくて、ただボロボロと涙だけが出てきた。


 頭が冷静になってくると、あの人は誰なのか。

 ヒーリングで怪我が悪化したタクトは何者なのかを考えるようになった。


 痛む体にヒーリングを掛けて、子どもの頃によく使った抜け穴から町に入り、誰にも見られないようにタクトの家に向かった。

 血がついた服で現れた私に、おじさんとおばさんは驚き、駆け寄ってきた。


『タクトは魔族なんですね』


 そう問えば、知られる様な何かが起きたと察した2人は顔を青くした。

 それはそうだ。魔族を育てるなんて死罪にもなる重罪だ。


 保身のために他人には言わないで欲しいと乞われるかと思ったのに、おばさんから出た言葉はタクトは無事なのかと、心配する言葉だった。

 それに私が何かしたと思ったんだろう。おばさんは私の両腕を掴み、睨み付けた。


 それは子どもを心配するただの親の顔だった。


『魔獣3体に襲われて、タクトが庇ってくれたんです……タクトは背中に怪我を負いましたが、女性が現れて何か薬を飲ませて……その、どこかへ連れていってしまって……』


 2人は顔を見合わせて『あの人』と口にした。その顔にはさっきの女性と同じ安堵の笑みが浮かび、タクトはきっと無事なのだと察することができた。


 家には戻らず、図書館で魔族について調べた。


 タクトが魔族だと誰かに言うべきか。でも、タクトは悪いことは何もしていない。それどころか私を助けた。

 魔族が一概に悪だとはもう言えず、魔族についての情報が欲しかった。


 タクトはどうやら混血という部類に入るらしい。

 魔族と人間の間に生まれた子どもは魔界では暮らすことが出来ず、人間界に人間として暮らす。

 混血を殺せばレベルが跳ね上がり、一昔前、力を欲する者はこぞって混血を殺したと堂々と明記してあった。


 タクトが魔族だと知られたら100%殺される。

 どこかの誰かのレベルがあがり、幸運だったと笑うのだろう。



 吐き気がする。

 ページを捲る手に自然と力が入り、紙にシワが寄った。いっそ破り捨ててやりたかった。



 図書館を出て、タクトのおじさんとおばさんに協力を仰ぐためにタクトの家に戻った。店は閉まっていて2人は泣きはらした目をして私を出迎えた。


『タクトの事は誰にも言いません。その代わり、私とタクトを一緒に居させてください』


 困惑する2人を見て苦笑いした。

 私が強くなってタクトをあらゆる災厄から守るなんて事は無理だ。今回の事で実証されている。

 タクトが死なないためにはレベルをあげて自身が強くなるのが一番だ。


 タクトは十中八九、闇魔法保持者。

 闇魔法は魔族の魔法。人間界ではタクトのレベル上げは無理。そうなると魔族に助けてもらうしかない。


 タクトが倒れてすぐにあの女性が現れたことから、タクトは監視対象になっているということは何となくわかった。

 基本的に魔族が魔族を助けることはないとされる。あの対処は異例。タクトは少なくともあの女性にとって、死なせてはいけない人物だと予想がついた。


 タクトが死なせてはいけない人物ならば、きっと私に抵抗するだけの力をつけてくれる筈だ。

 おじさんとおばさんには危険だと止められたけれど、魔王を倒すために勇者様が現れれば私はどっちみち危険な目に遭うんだと、説き伏せた。



 その日の夕方、タクトは怪我など無かったかのように戻ってきた。

 どこか嬉しそうな声で『フィオナ!』と名前を呼ばれ、これからタクトに酷いことを言うというのに、心が跳ねた。



『勇者様が来るまで、タクトに逃げられたら困るの』



 きっとタクトは怒る。せっかく助けてやったのに恩を仇で返されたと。

 身構える私にタクトは仕方がないという諦めの表情を向けた。


 心臓がギュウギュウと絞まる。

 皮肉にもこの時、淡かったタクトへの恋をきちんと自覚した。


 それから2年、思惑通りタクトはたまに姿を消した。

 魔界に行って頑張っているんだろう。闇魔法の気配は濃くなっていった。


 私への魔族の刺客は全くと言っていいほど来なかった。タクトが抑えてくれているんだろうということは何となくわかった。


 タクトは優しい。でも私に笑い掛けることはもうなくなり、その瞳には常に諦めの『無』が浮かぶ。

 この恋が叶うことはないと突き付けられる毎日だった。


 恋を諦めたくても、側にいる。それは想像以上に辛かった。


 そして、エレノア姫が魔王に拐われ、勇者様が選出されたと報じられた。

 タクトはもう自分の身を守れるほどに強くなっている。私が側にいなくても誰かに殺されることはないだろう。


 あとは勇者様が来てくれればこの日々から逃げられる。そう思うようになっていた。


 そしてあの日、勇者様が現れた。


 幼い頃から憧れ続けた勇者様。現状を変えてくれる勇者様。

 沸き上がる歓喜。


 でもそれは一瞬だった。

 憧れ続けた勇者様よりも、彼を真っ直ぐ睨み付けるタクトの瞳に捕まった。

 その瞳に宿るのは怯えと覚悟。勇者様へ対抗するようなものではない。


 息が出来なくなった。


 タクトは優しい。どんなに強くなろうと自分が生き残るために人を殺すなんて出来る筈がなかった。

 この2年は何のための2年だったのか。ただタクトを苦しめただけだ。


 いたたまれない気持ちのまま勇者様に目を向けた。瞬間溢れだす記憶。


 記憶の中の私も叶わない恋に目を背けていた。


 同じね。


 私はあなたなんだわ。




読んでいただきありがとうございます。

今日はあと一本投稿します(’-’*)

お付き合い頂ければ幸いです。


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