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たった2文字の情報量が莫大すぎてフリーズする。

 お兄さんの出す瘴気に対して私の強制浄化は完全ではなく、薄くはできるけど消すことは出来ない。

 そのせいで、エリーに触れてはいるけれどベッドが仕事を始め、部屋が煌々と明るくなった。

 顎を上げて冷たい目で私を見つめるタクトと、面白い余興が始まったとばかりにどこか楽しそうな顔をしたお兄さんがはっきり見える。


 どうやって障壁を壊したのかなんてのは、お兄さんが居る時点で愚問だろう。


「タ、タクト、今のどこから聞いて……」


 表情からして、最後の(くだり)を聞いたんだろうけど、話の内容がアレなだけに問わずにはいられなかった。


「そこから降りてこい」

「え。あ」


 そうか。タクトはベッドが作動してるときはここに乗れない。今一番安全な場所かもしれない。

 降りたくない。っていうかタクトの顔と圧が怖すぎて立てない。マゴマゴしているとエリーが私の服を後ろから引き、小声で耳打ちをしてきた。


「ユイさん、想いを告げるかどうかは置いておいて、きちんとお話した方がよろしいかと思います」

「で、でも」

「キ、キスがどうのというのは(わたくし)にはわかりかねますが、タクトさんのことは大事に思っているのでしょう? 誤解されたままで良いのですか?」


 良くはない。好き同士とわかっててすれ違いは嫌だ。

 好きだと一言タクトに言えば収拾がつくんだろうか。


 キッと隠しボスと化した想い人を睨む。

 いくぞ。いくぞ!!


「す、すすす……」


 “好き”という、たった2文字が巨大な壁のように立ちはだかる。


 すげぇよ。タクトよくあんなペロッと言えたな。


「……来ないなら俺が行く」

「は──ちょっ!!」


 何の迷いもなくタクトはベッドに足を進め、キラキラと光魔法輝く中の私に向かい右手を伸ばしてきた。

 バチッと弾ける音がしてタクトの手が一気に(ただ)れ、タクトの顔が痛みで歪み、エリーが悲鳴をあげる。


 何てグロいものを見せるんだコイツ!


「っヒーリング!!!」


 慌てて立ち上り、治癒魔法を展開しながら勢いよくタクトの両肩を突き飛ばした。


「ぅわぁ!!」


 瞬間、足がもつれてタクトに覆い被さるようにベッドから転がり落ちた。

 慌てて身を起こし、ヒーリングの輝きの中、タクトの右手を確認すると爛れが綺麗に治っていくのが見えて、ホッと胸を撫で下ろした。


「重い。退け」

「そんな言い方は酷いでしょ」


 いつもの暴言なのに、冷たい目が加わってズキリと胸が痛む。


「酷い? どう思うか聞かれて褒めたのに奇声あげて逃げた奴が言うことか?」

「そ、れは……ごめん。まさかタクトがあんな甘口に仕上げてくるなんて思わなくて恥ずかしかった」


「俺がMP不足で壊せないとわかってるような障壁までご丁寧に張ったな」

「それ、も……ごめん。追いかけてこられて更にあんなこと言われたら恥ずか死ぬと思って」


「しかも逃げた先で人を扱き下ろすとか。酷いのはどっちだ」

「扱き下ろ……したつもりは無かった。ごめん」

 

 こう並べられると私、タクトに結構ゲスいことしてる。

 タクトに吐かれた暴言よりも自分がついさっきタクトにやったことがズキズキと刺さる。

 物理的には私がタクトのマウントを取ってるが、精神的に追い込まれてるのは確実に私だ。


「ごめんなさい」


 タクトの上から降りて床に正座すると、タクトはトラウザーズをパンパンと叩きながら起き上がり、溜め息をつく。


 情けない。

 アビスさんならきっと、あの程度の賛辞は“当たり前よ”とか言いながら当然のように受け入れたんだろう。

 エリーだったのなら赤くなりながらもお礼を言うのだろう。


 ……無いわ。私には可愛いげの欠片もない。どんな顔してタクトが好きだなんて言えばいいの?


 私は逃げてばかりだ。


「とりあえず立て。下の廊下に落ちてる雷を回収しに行くぞ。放置できないって持ってきたのに何で放置すんだよお前は」

「ごめん」


 二の腕をタクトに引かれて立ち上がる。


「ユイさん!」

「っ」


 エリーが心配そうに祈りのポーズで座っている。こんな状態で告白するのは無理そうだと苦笑いを見せると、泣きそうな顔をされた。

 情けない。

 お兄さんは壁に持たれて詰まらなそうに欠伸をした。


 グイと腕を引かれて寝室を出る。寝室から漏れるベッドの光のせいで書斎の窓にはタクトと大分情けない顔の私か映っていた。


 え……?


「──わた、し」


「ユイ?」


「わたしだ」


「おい、どうしたユイ」


 いつから……いつからだ。


()()()だ」


 ガラスから目が離せない。

 自分の境界線が歪む。

 いつからこの顔を私だと認識していた?


「ユイ!」


 両肩を強く揺さぶられる。


「タク、ト、私、フィオナだ」

「っ」

「フィオナ、は──わた──」


 外で大きな雷鳴が轟き、頭に感電したようなビリッとした感覚が走った。


「っあ、あ……ぁ」

「ユイ!」


 膝の力が抜け、天井が見えた。


「ユ──」






 小さな女の子達の声がする。


『フィオナちゃん、タクトくんにあったことないの?』

『え、2人ともあるの?』


 木の壁に薄ピンクのカーペット……小さいときの私の部屋だ。

 窓からオレンジの太陽光が差し込む。

 目の前のテーブルにはお母さんの手作りクッキーとココア。そしてミアとジェシカ。いつも一緒にいた幼なじみだ。


道具屋(お店)におつかいにいっても、いっつもいないよ?』

『このまえ、ジャンとテディと5人であそんだの。フィオナは宿屋(いえ)のてつだいしてて、これなかったとき』

『おみせには、まだ立たせてもらえないっていってたよね』

『え~いいなぁ。フィオナ、1かいしかみたことないの。すっごいカッコいいよねタクトくん』


 タクトと友達になる前なら5才くらいかな。

 お父さんが過保護すぎて男子とは遊べなかった頃だ。


『きれいすぎてちょっとパスかな』

『フィオナちゃんのタイプはタクトくんか~』

『ちがっ! フィオナは、ゆうしゃさまがすきなの!』

『またそれか~“まおう”はいるけど、“ゆうしゃさま”なんていないよ?』

『フィオナがおっきくなったら! ぜったいあらわれるもん! ゆうしゃさま! フィオナとおんなじ、ひかりまほうもっててね! まぞくをたおしてくれるんだよ!』


 手をグーにして力説する私。自分でも呆れるほどの勇者信仰は、この頃から既に始まっていた。



 グニャリと場面が歪む。



 手に持ってるのはシーツが入った篭。場所は……家の裏庭だな。


 低く刈られた植木の向こう。先端が三角に尖った白い板が並ぶ木の塀の、そのまた向こうにはジャンプしながら裏庭を覗く頭が3つあった。


『なにしてるの? えーと、ジャンくんとテディくん──っタクトくん!?』

『……こんにちは。あそばない?』


 少し頬を赤らめてニッコリ笑ったタクト。初めてタクトを見かけてから1年。本当に全く会えなくて避けられているだろうなということは、薄々感じていた矢先だった。


『す、すぐいく! あ、まって! 洗濯物(これ)ほしてから!』

『てつだおうか? ぼくの方が、せが高いし』

『へっ、へいきよ!』

『かお、あか……ちぇっフィオナちゃんのタイプはタクトか』

『めんくいだなフィオナちゃん』

『っ~~~ちがう! わたしはゆうしゃさまがすきなの!』


 タクトは他の男子とは少し違った。猪突猛進、怪我上等の男子とは違い、控えめでストイックな雰囲気の王子様タイプ。

 勇者様への憧れは消えないけれど、なぜだかタクトが気になっていた。

 目が行く。他の子と違う。ドキドキする。


 光と闇は対になる。


 タクトに反応したのは、今思えば闇魔法保持者ってのもあったからなんだろうけど、タクトを知って『好きなのかな』と思うのに時間はかからなかった。


読んでいただきありがとうございます。

今日は3話更新予定です(’-’*)

お付き合い頂ければ幸いです。


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