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お前は秘密を知りすぎたって言われる日が来るのに怯える。

 勇者のパーティーに入る?

 フィオナのいないパーティーに何故今更。


 今のトマスは、ゲーム内でフィオナに向けていた熱の籠った微笑みとは違い、どこか楽しげな少年の様な笑みで私を見下ろしている。


「タクトと私の事を見逃した上で勇者のパーティーに入るのは……なんというか、パーティーへの裏切りのようになりません? 気分的にも良い感じしないと言いますか」


「裏切りなどとは感じない。俺はお前が魔族に拐われたと思っていたから動いていただけで、魔族と勇者どちらの味方でもないからな」


 騎士にあるまじきその発言に苦笑いしてしまう。

 でもまぁ元々トマスは正義感に溢れるっていうよりも己の道を行くって感じだったしな。


「じゃあ何でパーティーになんか」

「それは……」


 気まずそうに視線を外したトマスは、口許に手を当てて少し恥ずかしそうに目を瞑った。


「お前が言ったんだろう」


 ん、何を??


「魔族と人間の話し合いは出来ないのかと。勇者のパーティーは魔王討伐という目的を持った奴の集まりだ。中立な者が内にいなければ話し合いなんぞに最初からならないからな」


「……パーティーに入るのは私の為、ということですか」


 お、重い。


 私の発言が原因でトマスが本来背負う必要の無かった危険を背負って旅に出ることを選んだのなら、トマスに何かあった場合の責任は私にあるんじゃないだろうか。


「だが1番の理由は、フィオナ、お前が変える魔界を見てみたい」


 待て待て待て。いつ誰が魔界を変えるなんて大層なことを言った。私がしようとしてるのは太陽出してエリーとお兄さんくっつけようとしてるくらいだ。

 エデンについては太陽出せばダミアンさんが勝手にやるだろうし。

 怖い。人様からの期待が怖い!!


「わた、私が言ったのは人間と魔族の関係性の事で魔界を変えるとかそういうのじゃ……」


 恐怖から尻すぼみになる。ヘタレな自分が嫌だ。


 どう見ても逃げ腰なのに、トマスは謙遜するなよという温かな目で見てくる。

 どうしたものかとタクトに視線で助けを求めれば、眉間のシワを深くして睨まれた。


 余計なこと言ってごめん! でも、だって! こうなるとは思わなかった!


「トマスさんに万一があった場合、私責任がとれませんが」

「本当なら既に無かった命だ、もう俺のモノではないと思っている」

「っいや、正真正銘トマスさんの物だから! 気を確かに!」


 じっと見つめられ背筋がゾッとした。かなりヘビーだトマス!

 フィオナごめん! トマスとくっつけば良いとか軽々しく思ってごめん。自分のために命張られるのは想像よりも大分怖い!


「勘違いするなよ、トマス・ティンバーレイク。こいつはそんな高尚な奴じゃない。あんたを助けたのは俺のついでだ。喫茶店で寝てるじいさんと扱いは一緒だ」


 タクトの援護に全力で顔を縦に振る。そのとおりだ。その程度の事で命預けられても困る!


「そうだとしても助けられたのは事実だろう。それに、その……何だ。ゆ、友人……の助けをしたいというのはそこまで悪いことでもないだろう」


 友人。え、誰と誰が──

 恥ずかしそうにチラッとこちらを見るトマス。いつの間に友人認定されたんだろう。

 唖然とし二の句が継げずにいると、タクトの舌打ちが聞こえた。


「あんたをこいつの友人だとは認めん」

「なぜお前に認めて貰う必要がある」

「ポッと出のくせに俺と同じポジションに立てると思うなよ?」

「なんだと?」


 そこで拗らせんのかタクト。

 タクトとトマスが戦闘モードに入りそうになったとき、ザワザワと遠くから声が聞こえた。


 展望台の石塀に手つき、身を乗り出して下を見ると、なだらかな階段を登って5、6人の男性がこちらに来るのが街灯に照らされて見えた。

 タクトが横に来て同じように身を乗り出す。


「あの制服、騎士団だな」

「何で」

「……お前、俺のフィールドどうやって壊した? 派手なの何か使ったか?」

「はっ! 雷を少々!」


 彼等は広場に落ちたと思って様子を見に来たのかもしれない。


「フィオナ、タクト・スミス。お前らは喫茶店に戻っていろ。何とかしておく」

「あ、ありがとうございます」

「行くぞ」


 タクトに手を引かれる。その感覚がなんだか久しぶりで少し恥ずかしくなった。


 喫茶店へ戻ると、おじいさんはまだカウンターに突っ伏していた。その顔に辛そうな感じはなくて、ただ寝ているだけのようで安心した。


「商会に戻るぞ。荷物忘れんなよ?」

「トマスさん待ってなくて良いの?」


 言われた通りお土産を持ち、処理に困った雷の棒を鞄に突っ込んだ。鞄燃えたりしないよね?


「待つはずねぇだろ、あんな面倒な奴」

「そりゃ……そうだけど」


 心を寄せてくれていただけに黙っていなくなるのは心苦しい。

 

 タクトが唇を噛んで血を出し、指で(ぬぐ)って焦げ茶色の床に見えない程度に擦り付けた。


 これダミアンさんがエデンでやってた魔界の門番と連絡をとるやつだ。

 急いでカウンターにあったナプキンを取り、おじいさんの横にあったペンをカウンターごしに取った。


「魔界の門番」

『ようタクト! デートはもう終わりか?』


 ガヤさんの声だ。急げ急げ!


「終盤だ。商会に飛ばしてくれ、挨拶してから戻る」

『了解』


 タクトの血から魔方陣が広がり、私とタクトは例の黒いのに絡まれて床に引きずり込まれる。


 テーブルにペンとナプキンを置いた。

 ナプキンには『Take care! (お元気で!)』の文字。

 スペルは間違ってないと思うけど……伝わるだろうか。タクトにチェックしてもらえば良かったと後悔しながら私は目を瞑り、黒に飲まれた。




 目を開けると、人間界に来たときと同じ部屋にいた。

 トルネアス商会の会長室に向かう廊下途中にある隠し部屋。


「誰もいないね」

「先触れを出さなかったらな」


 タクトは何でもない様子で本館へ続く廊下を歩き、手を引かれながら早足で私もそれ続く。迷路のようなその廊下は私には絶対記憶できない。

 最後の扉を開けて本館の廊下に出ると「タクト様! ユイさん! おかえりなさいませ!」と慌てたように会長と秘書の男性が走ってきた。

 きっと転移の魔方陣を使うとわかる仕掛けになってたんだろうな。


「人間界はお楽しみ頂け──」


 会長は私の髪を見て絶句した。やっぱりこの世界で女性は髪が長いものなのか。

 後悔はないけど、短くなってしまった髪のサイドがなんとなく恥ずかしくなり、引っ張ってみる。

「会長、すまないがユイの髪を整えられる人は誰かいないか」

「すぐに」


 会長が視線を送ると秘書の男性は一礼して離れていく。


「いえ! 魔界に戻ったら美容院行きますので大丈夫です!」


 そこまでの迷惑はかけられない。慌てて手を振るとニコリと微笑まれた。


「そのようなお姿で魔界へ戻られては商会の品位にも関わります。ご協力願えますでしょうか」


 その笑顔にあるのは強制力。蛇に睨まれた蛙のように是と言うしかない。黙って巻かれることにする。


「ユイ、土産買ってないのはあと誰だ」

「お兄さんとダミアンさんとガヤさん。あとお世話になってる人達に軽く配れるようなちょっとしたの」


 どうやら買っておいてくれるらしい。タクトは後ろ手を上げて廊下を曲がっていった。


「ユイさんはこちらへ」


 案内されたのは変装の着替えをした部屋。あれだけあった大量の変装道具は跡形もなく消え、応接室という名前が似合う姿になっていた。

 会長に促されてソファに腰を下ろすと「準備が出来るまで少しお話しましょうか」と、会長は私の向かいに座った。

 白髪混じりの髪を後ろに撫で付け、小柄ながらしっかりとした体つきのダンディーおじさん。60歳前後っていったところだろうか。


「大変な目に遭われたようですね」

「はい、でも無事に魔界に帰れそうで良かったです」

「魔界に帰る……ですか」


 会長はその笑みを深め、「昔話をしましょうか」と、懐かしむように目を伏せた。


「……タクト様の育ての親に道具屋の夫婦を推薦したのは私なのですよ」

「え」

「タクト様の父親は私の幼なじみでしてね。私が混血でなければ私の養子にしていたのですが残念です」


 情報過多。数秒思考が停止した。

 これ、聞いて良い話? 下手に首突っ込んで後戻りできなくなる前に逃げたい。


「昔から病気がちな男で何ヵ月も病院から出てこられないのもザラでした」

「は、はぁ」

「彼を見舞いに病院へ行くと、言ったんですよ“天使に会った”と。病院で天使になど会ってたまるかと笑ったのですが、後日私も病院で会いましてね」

「……まさか」

「はい。人間界に遊びに来ていた先代魔王様でした。瘴気を上手に抑えておられて私も最初は普通の人間かと思いましたが、何度かお会いしているうちに、お互いの正体に気付きましてね。あのときは平伏しました」


 クスクスと会長さんは楽しそうに笑う。

 そりゃそうだろう。身分を隠して市井に降りる徳川のあの方とかあの方と遭遇した町人。まんまそれだ。


「お兄さんのお父さんは……」

「現魔王様のお父上は既に亡くなられていましたし、魔族が人間を相手にすることも多々あることですから問題はありません」

「そう、ですか」


 人間を相手……というのはまぁそういうことなんだろうが、突然、大人な話題を平然と話す会長さんの様子に、動揺するのものも負けた気がして普通を装う。


「2人はそれはそれは純愛を貫いておりましたが、次第に友人は体調を崩すことが増え、医者からも余命宣告を受け、数日後にこちらが想像するよりも早くに帰らぬ人になりました。葬儀には身分を隠した先代魔王様も参列下さったのですよ」


 タクトのお父さんの最後を「穏やかな顔をしていた」と話す会長さんはどこか誇らしげで、タクトを優しい眼差しで見ていた理由がなんとなくわかった。


「じゃあその時もうタクトがお腹にいたんですね」

「そうです。その報告を受けたとき私が育ての親を探すと名乗り出まして、名誉なことにその権利を賜ったのです……こうして大きくなって頼ってくださるのが嬉しくて仕方がない」


 温かな空気が流れる中、トントントンと応接室のドアがノックされ、会長さんが入室を促すと秘書の男性と荷物を持った女性が入ってきて準備を始めた。


「ユイさん、貴女の魔界での活躍は耳にしています。タクト様をどうかよろしくお願いします」


 活躍は……していないけれど、それは言うべきじゃない気がした。何となく安心させてあげたい気持ちが上回り、私は頭を下げた。



読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字見付け次第修正します。


また読みに来て頂けると嬉しいです。

評価、ブックマークありがとうございます(^^)

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