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スプラッタ系は勘弁してください。

終盤に血が出る表現があります。


 タクトは私を真っ直ぐ見つめて、誤魔化しとかは通用しない雰囲気だ。


「とりあえず逃げないから手を離して。痛い」

「あ、悪い」


 手はすんなり離してもらえたけど、かなりの強さで握られたからジンジンと痛みが残った。



 それにしても……何から話したら良いんだろ。

 転生前の事を話しちゃダメとかそんなの無いだろうし、誤魔化す必要もないんだけど、こんなこと話したら完全に頭おかしい人だよねぇ。

 いくら全部信じるって言ったって限度があるだろうし。


「えっと……私の名前は滝田結衣で……に、この世界とは違う世界で、学生だったの」


 恐る恐るタクトの顔をチラチラと確かめながらボソボソと話す。


「ガクセイって何の職業だ? タキタユイ」

「えっ、そこから!?」


 “学生”ってどう説明すればいいのかな。

 それに滝田結衣全部が名前になってる。


「えっと、学生っていうのは色んな事を勉強をするための学校っていう施設があって、そこに通う人のこと。

 あと、私の名前は結衣 滝田。結衣が名前で滝田は苗字」


「ユイ、だな。わかった」


 マ、マジで信じてくれるのかタクト~!

 日本で敬太に私の名前はフィオナです~なんて言ったら絶対生暖かい目で見られるわ。

 薄情者だなんて言ってごめんよ。


「日本で私は死んじゃって、気がついたらフィオナになってて、タクト(勇者も含む)と森にいたの。

 フィオナに生まれ変わって、勇者を見た瞬間に記憶が戻ったんだと思うんだけど、フィオナだった頃の記憶は一切無くて、タクトと話が合わないのはそのせい」


「生まれ変わり……か。ユイ、その学校って所は計算や料理などは習うのか?」

「習うよ。その道をちゃんと勉強して認められた人が教えてくれるの」


「フィオナからニホンの話は聞いたことがないが、あいつは見たことのないような複雑な計算をしてみたり、奇怪な創作料理をよく作っていた。

 スポンジケーキに茶の粉末を溶かした物をぶっかけた時は気が触れたかと思ったが、チーズとクリームを重ねて茶の粉末をかけたものは宿の看板デザートになってる」


「ティラミス! しかも抹茶ティラミス!!」


 私の一番好きな食べ物を聞いて、思わず身を乗り出すと同じ分だけタクトは下がった。ちょっと失礼でしょ。



 ゲームでは宿の看板デザートとか無かった。制作側がそこまで表現しなかっただけかもだけど、フィオナは前世の記憶あったのかな。それとも部分的な記憶だけ……とか?

 若干チートな感じだったことは確実かなぁ。



「何も知らないようで、色んなことを知っているのはなんでだ? フィオナの頃を忘れているならよく家に帰れたな」


「それは……この世界が日本にいたときのゲームの世界と同じ、だから……」


 ゲーム。つまりプログラムなわけで、目の前で生きて動いているタクトの感情や存在を否定するような気がして、話す言葉が自然と尻すぼみになっていく。



「ゲーム? チェスとかのあのゲームか?」


「えと、ボードゲームとは違くて、ちょっと説明が難しいんだけど、そのゲームの中には架空の世界が作られていて、ゲームで遊ぶ人はそこの世界に住む勇者を動かして遊ぶの」


 私はそこら辺に落ちてた棒を拾い、絵にかいて説明するけど余計にわからない顔をされてしまった。

 タクトの眉間のシワがどんどん深くなる。


「まるで神にでもなったかのような遊びだな」

「神……うーん。攻略本っていって、その世界の全てが書いてある本があれば神みたいなものかも」


 攻略本……と、さらに困惑するタクトを見て、私は苦笑いを浮かべた。

 説明が下手くそでごめん。

 

「勇者を動かす上で基本となるストーリーがあって、魔王を倒して拐われた姫を助けるっていう内容なの」

「まんまだな」

「うん。勇者が魔王を倒すために旅に出た先で色々出会いとか別れがあって、その中の一人がフィオナなの」

「ふぅん」


「……タクト、本当に私の話信じてる?」


 あまりに何も否定的な言葉が出てこないから逆に不安になる。

 

「嘘なのか?」

「嘘じゃない」

「信じるって言っただろ」


 ニッコリと爽やかに笑うタクト。なんだろう。何かその笑顔がウソくさい。逆に私は彼を信じていいんだろうか。

 そういうバカみたいに全てを信じるキャラは勇者だったはずだ。


「ユイはこれから起きる未来のことを知ってるってことだろう?」

「先……と言われると、フィオナはこんなふうに逃げなかったしもう知ってる話とは違うから何とも言えないけど、フィオナがすんなり勇者のパーティーに入ってからのことならわかるよ」


「魔王は討伐されるのか?」


 今度はタクトが身を乗り出した。

 鼻先30センチ。

 突然詰められた間合いに私は勢いよく下がった。

 近い近い!


「う、うん。旅の途中に選択があったり、どの道を通るかとか、仲間とどれくらい親しくなったかとかでもエンディングは変わるんだけど、たいていは魔王が倒れるまでやるから、どのルートでも勇者は勝つよ。

 私が遊んだときのラストは奪還した姫との結婚だったよ」


 そうか。と、タクトは悩む素振りを見せて俯いた。どうしたんだろう。


「ユイは勇者と旅をするのが嫌なんだよな?」

「うん」

「じゃあ俺と来い」


「────は?」


 タクトの顔を驚きながらマジマジと見れば、瞳の色が段々と黒に近い緑へと変わっていく。

 

 辺りの雰囲気……いや空気が少し重くなった気がする。

 体がそれを拒絶するように少し後ろへ下がった。


 何? 息苦しくなった感じがして、はっはっと呼吸が浅くなる。


「やっぱりダメか」

「え?」


 その声に合わせたように体は急に楽になった。


「魔王の城まで行ったんなら光の最上級魔法、蘇生の使い方はわかるか?」

「蘇生って死者を蘇らせるアレ?」

「あぁ」


 敵との対戦中は使えない。しかも使えるのは1度だけ。フィオナの魔力を全て使って発動する裏技。蘇生魔法。


「知ってるけど使ったことないよ。それに今の私はレベル5の初級なんでしょ? この世界がeasyモードなのかもわからない」


「easyモード?」


 ゲームの初期設定の中に難易度設定があって、その選択によって蘇生が使える場合と使えない場合がある。

 敵のレベルが変わるだけでストーリーに変化はないけど、normalモードやhardモードだと蘇生は使うことができない。


 easyモードのときだけフィオナのレベルが50以上なら魔法を選ぶ画面で選択肢に蘇生が増える。


 安全安心低リスクが好きな私は、もちろんeasyモードだったけど、過剰なセーブ魔だったし、後退して全回復ポイントまで戻る手間を惜しまなかったから、みんなレベルはかなり高かった。

 ヒーラーのフィオナが使えなくなるリスクがある蘇生魔法は使ったことがなかった。


 でも攻略本の情報から知識としては知っている。


「ちなみに魔王のレベルとかって……わかんないよねぇ」

「60だ」


 即答かい。

 魔王のレベルって公開されてるものなの?

 情報ザルすぎるでしょ魔界。


「じゃあeasyモードだと思うから、あとはレベルあげれば使えるよ」


 てか、easyモードにしか蘇生って出てこないから、タクトが蘇生魔法を知っているなら、この世界は確実にeasyモードなんだろう。


 そうか。と頷くと、タクトは腰に下がっている美容師が使うようなウエストポーチから折り畳みナイフを取り出した。


「フォーストストップ」

「──っ」


 タクトがボソッと何かを唱えると体が固まった。


 魔法──え? タクトが魔法を使えるなんて聞いたことがない!


 固まってるから表情なんて動かせないけど、驚きながらタクトを凝視する。

 タクトは鼻歌でも歌いそうな雰囲気でナイフをパチンと開いて私の右手に持たせ、自身の左手で私のナイフを持つ右手を開かないように握りしめ、そのままタクトの首……頸動脈に当てた。


「いいか? 俺が確実に死んでから蘇生魔法をかけろ」


 何……何をする気────



 私の顔にタクトの赤が飛ぶ。



 私に倒れかかるタクトから流れる生暖かいソレがじんわりと服に染みて肌に伝わる。


 ヒーリングをかけようとするけれどタクトの魔法で口が動かない。

 何秒……何分、永遠の時間に感じた。



 フッと体への付加がとれた瞬間、体の底から何かよくわからない熱いものが込み上げる。




──俺が確実に死んでから蘇生魔法をかけろ──




 「───っ! リサシテーション!!」


 

読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字、見つけ次第修正します!


また読みに来ていただけると嬉しいです。


ブックマークありがとうございます(’∨’*)

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