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一人で生きて行ける奴に並ぶには【タクトside】

タクト視点です。少し前の時間軸から始まります。

 ユイとは攻撃防御の魔法のタイプが似ている。

 勇者や兄さんのような武器を使う接近戦ではなく遠隔戦。

 素早さなどのステータスも似たようなものなんだろう。


 ロブスター争奪戦はほぼ互角で結構楽しめた。


 だから……といっては言い訳になるが、騎士団の気配に気付くのが遅れた。

 蜘蛛の子を散らすようにはけていくギャラリー。

 飛んでくる捕縛魔法の鎖。


 今まで争奪戦をしていた速さでなら、余裕で避けることができるレベルの捕縛だが、『トルネアス商会で働くタクト』には避けられるレベルではない。


 舌打ちをしながら、考え無しに争奪戦の流れで捕縛の鎖を避けようとしているユイを抑え込み、2人で仲良く御用になった。



☆☆☆



 ……思ったよりも説教が長い。


 町を警備するのは第四騎士団。制服の胸元の星の数からこの説教が長い男はその団の中で2番手に位置することがわかる。

 下手に逆らわない方がいい。


 そんなことより気になるのは、その後ろに居る長髪の男。さっきまで俺の顔をジロジロと見ていたが、今度はユイを眺め始めた。

 それと同じように、さっきまでそいつの顔を興味津々でジロジロと見ていたユイが、頑として前を見なくなった。


 ……知り合い? いや、ユイは人間界に知り合いなんていない筈だ。

 フィオナだとバレたというのも考えにくい。新聞には名前は載ったが姿絵等は載っていない。こんな離れた場所の騎士団がフィオナ捜索に関わるなんて無いだろう。


 そんなことを考えていると説教男がユイの異変に気づき、名前を聞いてきた。

 戦闘時のアドリブは神がかっているのに、こういう時のユイは本当に目も当てられない。

 フォローを出して時間を稼ぐと、俺を(あが)めるような顔で見てきた。

 何でこいつはこんなアホなんだろう……。そんなことすら可愛いく見える俺も相当頭がイっている。


 名前を聞かれずに済んだかと思ったが、長髪男がユイの名を聞いていないと指摘してきた。

 かなり考える時間はあった筈だが、ユイは考えて居なかったんだろう。「ヤベェ」と顔にハッキリ書いてある。


「……ルートヴィヒ・ヴァン・……ベートーヴェン……」


 絞り出すような声で発した名前は、意外にもまともなものだった。

 ルートヴィヒといえばこの国ではなく、隣の大陸の国でよくある名前だ。身元も追いにくいし、珍しく良いところを突いてきた。


 騎士団員が居なくなり、踞るユイを「ルーイ」と愛称で呼べば、恨めしそうな顔で睨まれた。まぁ、それは受け入れよう。元々俺がユイのロブスターを狙ったことから始まった騒動だ。


 屈んで目線を合わせ、自分で言うのも何だが似合わないような優しい言葉をかけると、ユイは思ってもみないことを言ってきた。


「さっきの長髪の騎士団員、勇者のパーティーに入る筈の人だった」


 俺は主に勇者の行動に関することをまとめる仕事をしているが、トマス・ティンバーレイクなんて聞いたことのない奴だった。


 歩きながらユイに詳しく聞けば、フィオナが切っ掛けで魔族の敵になる人物だとわかった。

 ユイは濁していたが、きっとフィオナに惚れたかなんだかする感じなんだろう。


 昔からフィオナに惚れる奴は一目惚れから入る。そして外見通りの中身を知って更にハマっていく。

 だが今、フィオナの中身はユイだ。この外見に惹き付けられて中身を知ればかなりの確率で引くだろう。


 どちらかといえば、既に変化しているユイからの情報よりも、現在進行でユイが親しげに呼ぶ「トマス」という呼び方が気に入らない。

 ついでに、ずっと俺達の後をつけてくる気配も気に入らない。


 このまま買い物を続ける指示を出した。

 街のインフォメーションで女性向けの土産物が買える店を教えてもらい、着いた場所はあまりにもファンシーな店だった。


 ユイが女の格好をしているならまだマシだった。可愛い系の男装だがどう見ても男2人だ。

 俺だって人目を引く外見をしていることは自覚している。周りの……視線がキツい。


 だが誰かに尾行されているとわかっている今、ユイの側から離れるわけにはいかない。なんせコイツは目を離すとなにかしら巻き込まれる。


 溜め息をつき、田舎者のように目をキラキラさせて周囲を見渡しているユイを眺める。


「デート……だもんな」

「え?」

「いや、何買うんだ?」


 曲がりなりにも初デート。その点からも離れるわけにはいかない。

 しばらくユイと広い店内を回ると、店内に入って何度か見た女からの視線に気付き、頬がピクリと引きつった。



 尾行はお前か……アビス。



 魔族の姿とは違い、色気を押さえて人間に馴染む姿になっているアビスが、ニヤリと薄い桃色の口を歪ませ小さく手を振ってくる。

 ユイは買い物に夢中で気づかない。

 

 仲が良いらしいから呼んでも良いが……どうなんだそれ。2人に並ばれると、俺がとても居づらくなる。

 アビスに外に出るよう視線で指示を出す。


「ユイ」

「ん?」

「居心地が悪いから入り口で待ってる。のんびり買い物してろ」


 心得た! とばかりに敬礼を返すユイから離れて外に出た。


 日も傾いてきて段々と光線がオレンジになる中に、ニヤニヤと笑みを浮かべたアビスが居た。

 いつものブロンドはブラウンの緩く波がかった髪になっていて、瞳は紫ではなくどこにでも居そうな茶だ。

 変わらず美人だが、どことなく地味だ。

 今日のアビスの仕事先はこの町だったか……。



「ハァイ、タクト! 偶然ね!」

「尾行してたくせによく言う……」

「あら、偶然なのは本当よ? あの帽子の男の子とお弁当の取り合いしてたでしょ」


 帽子の男……俺にはもうユイにしか見えない変装だが、変装としてはかなり有効な代物らしい。

 あれはユイだと種明かしをすれば、アビスは目を丸くした。


「……結構な美少年になるものね」

「手ぇ出すなよ。お前は見境無いからな」


 楽しければそれでいいとを信条とするアビスの恋愛対象は老若男女、種族を問わない。雑食過ぎてついていけん。


「残念ながらタイプからは外れてるの。私は可愛い系よりキレイ系が好き」


 そう言いながらアビスは俺の頬を撫でるように触れてきた。


「お前な……」

「冗談。もうタクトは飽きちゃった」


 ケラケラと揶揄う様に腹パンをかましてしてくるアビスの腕を払いのける。


「あぁ、そうだ。監視対象を一人増やして欲しいのと、そいつの今までの情報が欲しい」

「──急に仕事の話? なぁに?」


 アビスの目付きが変わる。ふざけた奴でも諜報部のエースだ。仕事に関してはキッチリと分けている。


「トマス・ティンバーレイクという、第4騎士団に居る男だ」

「トマス……あぁ、知ってる。最近こっちにきた奴ね、キレイな顔よね」

「……手ぇ出して殺すなよ?」


 ティンバーレイクの好みのタイプがフィオナならアビスのハニートラップには掛かりそうもないが一応釘を指すと、アビスは「わかってるわよ」と俺の二の腕を撫でた。


「今わかってる情報だと、彼が来たのはほんの数日前。前にいたのは」

「俺の町の隣か?」

「知ってるの? この町での騎士団の配属枠に空きが出て名乗り出たと聞いたわよ」


 誰から聞いたんだよ……確実に騎士団内に漏洩に荷担している奴がいる。アビスの情報網は敵に回したくないレベルだ。


「確かな筋か?」

「えぇ……あら」

「何だ?」


 アビスは店の出入り口へ顔を向けた。


「……タクト、確かユイはベージュでチェックのキャスケットを被ってたわね?」

「あぁ、ユイが来たのか?」


 俺もそれにつられるように同じ方を向くがそれらしい奴は居ない。


「今そこに居たんだけど……居なくなったわ」

「──っ!」


 ユイの気配を追うが隠匿魔法のせいでなにもひっかからない。

 アビスの手を借りて、店内を探すもユイの姿はなかった。


 知り合いもいない人間界、1人でどこかに行ったってのも考えづらい。


「アビス、俺達を尾行してたのはお前だけか?」

「えぇ。そんなのが居ればわかるもの」

「そう、だな」


 アビスはその道のプロだ。それは確かだろう。


「トマス……ティンバーレイクについて至急調べてくれ」

「わかったわ」


 ポンポンと俺の腕を叩きアビスは消えた。


 確証なんてない。けどアイツは最後までユイをしつこく見ていた。嫌な予感がする。



☆☆☆



 夕日が沈み、暗くなるのを待つ頃、アビスから情報が入った。


 “ティンバーレイクはフィオナを助ける為にタクトの事を調べていた節がある”


 商会や町長にまで何度か俺の経歴について訪ねてきていたらしい。産みの親という設定のスミス夫妻のことを信じたらしく、俺を内通者か何かだと思っているとのことだった。


 俺の方もティンバーレイクとユイ。2人を目撃した人はかなりの数が居て、すぐに情報を得ることができた。

 大通りを移動し、かなり目立っていた連行の様子から、たまたま1人でいたユイを衝動的に連れていった可能性が強く、俺のことについて聞くためにユイが連れていかれたと推測される。

 フィオナだとはバレていないと思うが。


 捜索の人数を増やして裏の道は得意な奴等に探させているが、見つかったとの情報はまだない。

 聞き込みを続け、大分丘の上の方まで来てしまった。この先は展望台とちょっとした店くらいだ。


 ユイが光魔法を使ってくれれば隠匿魔法が解除され──


「!」


 丘の上で確かに光魔法の気配がした。

 この先にユイがいるという安心感と、魔法を使わなければいけない事が起こっているという焦燥感で、気持ちがぐちゃぐちゃになったまま、ゆるい傾斜の広い階段を駆け上る。


 光魔法の気配は展望台を通り抜けた先、広場の片隅にある小さな喫茶店だった。

 勢いよくドアを空けて店内に入る。


「っえ、タクト!? なんで!」


 聞きたかった声に反応して、顔を向けると帽子を取ったユイがいた。


「やっと見つけ──お前それ……」


 首の中程で切り揃えられたユイの髪。


 帽子を取れと言われて追い詰められたユイの苦肉の策だということは直ぐにわかった。



 間に合わなかった。



 脳裏に浮かぶのは、ダミアンさんに求婚された後の呆然としたユイの姿、母さんとの戦いで雷に打たれ地面に崩れるユイの姿。



 また、俺は間に合わなかった。


 自分の情けなさに反吐が出る。

 

 “ユイに恥じないほどの力が欲しい”エレノアの言葉が心に黒い染みとして広がっていった。

読んで頂きありがとうございました。

誤字脱字見付け次第修正します。

誤字報告ありがとうございました!


また読みに来て頂ければ嬉しいです。

評価、ブックマークありがとうございます!



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