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嫉妬と羨望【タクトside】

引き続きタクト視点です。

本日は2本アップしています。

 翌日、昼前。


 篝火を焚いた屋上で花火打ち上げの練習の材料を並べていると時間より早くユイの気配がして、屋上へのぼる木蓋が開いた。


「良かったぁタクトか! 早いね」


 弾む声に安堵が混ざっていた。かなり緊張していたことが伺える。

 屈む俺の後ろから手元を覗き込み、模型を手に取って感嘆の声を上げるユイに自尊心がくすぐられる。

 手先が器用で本当に良かった。


 話しているうちに昼になったらしく城内が少し騒がしくなると、ユイは予約特典の服に着替えた。

 サテンのような艶があるおかしな形の服。

 おかしいと思うのに、その立ち姿は洗練されて、他の奴には見せたくないというモヤっとした気分になった。


 あぁ。でもガヤと兄さんと街に居たときこの格好だったな。

 ……街、か。鬼ごっこをして遊んだと兄さんが大層ご満悦だったのを思い出す。

 ダミアンさんもユイをエデンやティーサロンに連れていったり、かなり好き勝手にしている。


 おかしい。


 俺、ユイと仕事に絡むことしかしていない。(キスは除外する)


「……上手く行ったらどっかいかないか?」


 つまりはデートの誘いなのだが、このところ仕事と花火の話しかしていないせいかユイは赤くなるどころか真顔で金の心配をしてきた。

 おまけに昨夜、アビスに言われた「落ち着きよりも華やかさを求めやすい」という言葉が脳裏によぎる。


 違う。決してそう言われたから誘ったわけではない。


 色々と動揺してユイの目を見ることができないでいると、ユイが港町のウィーザントに行きたいと言い出した。

 ウィーザントは俺が人間界で見習い修行に出ているという設定の町だ。育った町からも離れているしトルネアス商会の主人に協力してもらえば変装も容易いだろう。大分都合がいい。

 それに街並みも綺麗だしデートには最適と言えるだろう。


 でも聖地……? そんな仰々しい場所あったか?

 いまいち浮かばず考えていると、兄さん、ダミアンさん、姫が現れた。


 姫が来たのは予想外だったがそれよりもデートの事で頭がいっぱいだ。

 打ち上げ練習は成功して欲しいが、最早関係ない。失敗しても連れていこう。そう心の中で固く誓った。


 前回同様ユイに強化魔法を掛ける。

 ユイは姫に辛かったら呼べと一声掛けて兄さんの元へと走っていった。


 ダミアンさんと姫に並び、ユイと兄さんが何かを話すのをみていると花火模型に障壁が張られた。


「本当に出来るようになるとは……」


 驚きが隠せないようなダミアンさんの声に、ざまぁみろと心の中で悪態をつく。


 魔法の同時展開には成功したが、1球目は呆気なく兄さんに障壁を砕かれた。

 失敗に気持ちが引きずられることを心配したが、ユイは素早く切り替えたようだ。


「ユイさん、素敵……」


 隣でパンを咥えた姫が独りごつ。

 確実に独り言なので特に何も言葉は返さないが、それには同意だ。あの装備を付けたユイは少し雰囲気が変わる。


 残り1つの花火模型に張られた障壁が先程より厚く張られた。

 花火模型を軽く上に放り、全力でスイングする兄さん。

 本当に手加減も躊躇も無さすぎて軽く引く。


 ユイの顔が歪み、兄さんの打撃の負荷がかなりのものだと物語る。


「ユイ! 耐えろ!」


 自然と声が出た。

 その声に反応するように、模型の色が見えなくなるほど障壁が更に厚くなった。


 一瞬で真上に飛んでいく花火模型を追うように放たれたユイの矢。

 MPを大量消費したんだろう、立ち眩みのようにユイの体がブレた。


「ユイ!」

「タクト来るな!」


 駆け寄ろうとしたところを兄さんに止められ、兄さんがユイを抱き止めた。

 直ぐ横にいたダミアンさんが2人の元に走っていき、かなりの速度で落ちてくるだろう花火模型を受け止めるために水魔法を展開した。


 ユイは直ぐに持ち直し、兄さんの手を離れた。

 

 魔族にとって死傷は自己責任と言いながらも俺は危険な場所に立つことを是とされていない。

 何となく3人の姿を見ていられなくて視線を外すと、同じように険しい顔をしながらパンを食う姫の姿があった。

 羨望や嫉妬の色が濃く見える。


「……呼べば来ると思うぞ」

「っ!」


 見られていると思っていなかったのか、弾かれたように姫はこちらを向いた。

 俺は視線を再びユイに戻す。


「兄さんの隣に女が並ぶのが嫌なんだろう? 具合が悪いと呼べばアレは直ぐに来る」


 むしろ呼べ。兄さんとはいえ、他の男にユイを触れさせたくはない。


「……いえ」

「?」

「来て……欲しい……わけでは、ありません」


 姫は前を見つめて呟いた。


「わたくしが、あちらに行きたいのです」


 こいつは、こんな女だっただろうか。


 我を通す押しの強さはあったがそれは王族として上に立ち暮らせば比較的そうなるものだ。

 兄さんが遊びで掛けた声の魔法に惑わされ、現実から目を背け、結果死ぬ思いをしたバカな女。


 甘く誘えば簡単にひっかかると思っていた。


「頑張っているユイさんに恥じないほどの力が欲しいのです」


 真っ直ぐ見つめる先には兄さんではなくユイが居た。

 ユイのアホ菌が伝染した奴がここにもいた。



「……同感だ」



 そう言って笑えば、姫は驚いたように俺を見て微笑んだ。

 何となくは視界に入れてはいたが……。


「エレノア、あんたそんな顔だったんだな」


 兄さんの相手として少しは認めてやっても良い気がした。


読んで頂きありがとうございました。

誤字脱字見付け次第修正します!

誤字報告ありがとうございました(*´-`)


次回はデート予定です。


また読みに来て頂ければ嬉しいです。

評価、ブックマークありがとうございます!

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