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太陽のような女性だという言葉は国によっては褒め言葉にならないらしい。

 ダミアンさんと転移陣で移動して、着いたのは魔界の門の横にある門番待機所。

 魔族が人間界を行き来する為には必ずここを通らなくてはならないらしい。


 一見、椅子のない礼拝堂にも見える広い空間。

 黒に近い紫の壁、色んな形をした岩が隙間無く敷かれた床。そこに黒く美しく浮かび上がる転移陣。

 ここもまたゲームと一緒の部屋だけど、実際立つとゲームより何倍も不気味だ。

 確か、扉を開けると部屋の真ん中にガヤさんが怖い顔して立ってて、その少し後ろに転移陣があるんだった。


 そんなガヤさんは今、私の顔より大きなサイズのチョコメロンパンを食べていた。威厳はゼロだ。


「お、ダミアン」

「ガヤ、異常はないですか?」

「ナイナイ。暇なもんだ。ん? 後ろにいるのは?」

「こんにちは、ガヤさん」


 転移陣に立つ位置が悪かったのか、ダミアンさんの影になってしまった。ダミアンさんの右に出て、ペコリと頭を下げ挨拶するとガヤさんは口をあんぐりと開けた。


「ペッぺぺぺぺ! ペアルックだと!?」

「は?」


 ガヤさんは私とダミアンさんを見比べている。

 まぁ、ペアっぽいコートであるけど……。


「どちらかと言えばリンクコーデに近い気がします」

「認めるのかユイ! タクトはどうした!」


 ガヤさんには昨日散々訂正したはずなんだけど、まだそんなことを言ってるのか。


「タクトはお兄さんの所で働いていますよ」


 メロンパンを一気に食べて立ち上がったガヤさんに両肩をガシッと掴まれた。3mの巨人。圧が凄い。


「男に働かせて自分は浮気か! 節操なしにも程かあるぞユイ!」


 イヤイヤイヤイヤ! ガヤさんの中で私どんなキャラになってるの!?


「根底から違います!」

「だが先日、初めてだったのなんだのってあれは何だ」

「ひぃっ! こんなところで言わないで下さい! あれはタクトが勝手に!」



「ガヤ」



 部屋の空気がキンと冷えた。

 ダミアンさんが得意とした魔法は地属性の毒。でも水属性の氷も使ってた気がする。

 多分この冷えは気分的なものではない。


「女性にその手の話はどうなのでしょうか。それにユイさんは否定していますよ」


 ダ、ダミアンさん! 初めて魔界で擁護をされた気がする!


「そっ、そうだそうだ! セクハラだ!」


 右手をグーにして掲げダミアンさんに乗っかる。若干、三下感が強いのは否めない。


「セ、クハラ……」

 そんなつもりは無かったようで、ガヤさんの眉が困ったように下がった。

 っていうかセクハラって通じるのか。


「……そうだな、悪かった」


「だそうですが、どうしますかユイさん」


 頭を下げてもまだ頭が高いガヤさんが、心なしか小さく見えて、ガヤさんの腕をポンポンと叩いた。

 気持ちが伝わるようにキチンと表情も作った。


「……わかってくれたなら、良いんですよ」

「よくそんなクソムカつく顔ができるなユイ」


 気持ちは伝わったようだ。




「ふふっ、ユイさんは面白いでしょう?」


 ダミアンさんがそう話すと、ガヤさんの顔が恐ろしいものを見たように引きつり、厳つい顔がさらに厳つくなって恐怖しかない。

 慌てて姿勢を正して転移陣発動のポジションに着いたガヤさん。何なんだ一体。ガヤさんの視線の先には頬笑むダミアンさんしかいない筈なんだけど。


「お、おぉぉぉお前ら! どこへ飛ばす!?」


ガヤさんの動揺がヤバイ。


「はじまりのエデンへ」

「エデンだな! よし!」


 はじまりのエデン?


 聞いたことがない地名だなと思っていると、転移陣が渦を描くように黒く染まり、“きしめん”をちょっと太くして黒くしたようなのが身体中に巻き付いてきた。

 地面に引きずり込まれる感覚は、子どもの頃に学校行事でやった田植えに似てる。


「──あ? エデン……ってちょっ! おい、ダミアン! エデンにユイ連れてったらダメだろ!! ダミアン!!」


 耳が陣に入りきる寸前にガヤさんがなんか騒いでたけどよく聞こえなかった。



☆★☆



「着きましたよ」


 促されて目を開けると教室程の広さの部屋にいた。転移陣が浮かび上がる絨毯に、白い腰板、赤いクロスの壁には風景画が飾ってあり、脇には白いダイニングテーブルが置いてある。

 なんていうか、絨毯を無視すればヨーロッパとかの民家っぽい。


 ここがエデン(楽園)


「ガヤさんが何か言ってましたけど」

「気にしなくて良いですよ。こちらへどうぞ」


 背を押されて天井から床まで下がるカーテンの方に歩く。少し光がもれているから窓なんだろう。


 ダミアンさんがカーテンに手を伸ばし、シャッとカーテンを開けると、久しぶりのまともな太陽がサッと差し込んだ。


「ぎゃあ!!! 目が!! 目がぁぁ!!」


 咄嗟に身を翻して部屋のすみで目を隠して縮こまる。

 やべぇ! 太陽光やべぇ! 慈悲無し!

 こっちで意識が戻ってからずっと夜同然の採光で暮らしてきたから目が太陽の光を受け付けなかった。

 し、失明するかと思った。


「大丈夫ですか!?」

「だっだだ大丈夫です……少し慣らして光に馴染ませれば」

「良かった。人間は本当に弱い……」


 魔族はそういうの無いのかと羨ましく思う。こりゃ花火当日は私と姫とタクトはサングラス必須かもしれない。

 5人中3人がサングラス。中々おかしな食事会になりそうだ。


「太陽には浄化作用があるって聞いたんですが魔族の人達は当たっても大丈夫なんですか?」

「えぇ、それはあくまでも大気中の瘴気の話で、私達は細胞までしっかりと瘴気が入っているので気にする必要はありません」

「良かった。それが気がかりだったんです」


 ニッと笑うと、ダミアンさんは子どもを可愛がるように頭を撫でてきた。そろそろ園児扱いに慣れてしまった自分が居る。



 それから目が光に慣れるまで、ポツリポツリとダミアンさんは何でもないような会話を続けてくれた。




「そろそろ大丈夫かと思います」


 明るい部屋にも慣れてきて、再び窓へと向かう。

 窓はバルコニーに出られるようになっていて、今居た部屋が3階くらいの高さだったことがわかる。


「わぁ……」


 そこに見えたのはひたすら向こうまで続く広大な農地だった。緑の野菜がみっちり規則的に並んでいる。

 北海道……行ったこと無いけどまさにイメージ通りの北海道の風景。

 所々に魔族の人達が楽しそうに働く姿が見える。


「ここは魔界の食料庫とでも言いましょうか。いわば魔界の生命線です」


 そう言えばタクトが魔界の食べ物は人間界から来てるって言ってたな。

 魔界に密輸してる人間でもいるのかと思ってたけど、こんなに大々的に農業やってるとは思わなかった。


「私の一族は地属性と水属性の魔法を有している者が多く、この土地は代々私の一族が管理している土地なんです。私が今の地位にある根底を作っている場所ですね。畜産や漁業は別のエリアで他の方がやっていますよ」


 そりゃ、野菜と穀物を牛耳ってんなら強いだろうな。ダミアンさんに見放されたら魔界が終わる。


 ん? あれ? この場所が生命線なら……。


「この場所を人間に叩かれたらヤバイんじゃないですか?」


「そうですね。ですが、ここには比較的強い魔族が駐在していて、さらに隠匿魔法が掛けられていますから、よっぽどの事がない限り大丈夫ですが、“もしも”があれば魔族は終わりですね。人間界へ奪い合いの全面戦争を仕掛けるしか手は無くなりますね」


 せん、そ、う。

 身体中にザワリと寒気が走った。


「わ、私! 連れてきて良かったんですか!?」


 ガヤさんが最後何か騒いでたのはこの事だったんじゃないの!?


「ユイさんはこの場所に何かする予定ですか?」

「そんな責任だらけな事するわけないじゃないですか!」


 ダミアンさんは少し驚いた顔をしたあとに、私の角カチューシャに触れないように、嬉しそうに頭を撫でた。


「責任、そうですね……。ユイさんをここに連れてきたのは見せておくべきだと思ったからですよ。今後、魔界の一翼を担っていくのですから」



 ──ん?


「いちよくをになう?」


 意味がわからなすぎてカタコトになった。


「先日、ユイさんとタクト様が魔界に陽の光を降ろしたと報告がありました」

「っえ……でもあそこには私とタクトしか」


 ダミアンさんはニッコリと笑う。

 まさか、見張られていたのか。



 ま……まて、まてまてまて、どの程度!? 姫の友人になれとタクトに言われたのはバレてるのか!? ちゅ……チューは!? あれ見られてたらキツい!!


「あ、あの……」

「はい?」


 安定の笑顔だ。

 無理だ! 聞けねぇ! 見られてなかったら墓穴掘る!


「ユイさん」

「はひっ!」

「……私は人間界でリスクを負いながらの現状を良しとしていません」


 まぁそうだろうな。注意してるからって絶対大丈夫なんてことあるわけがない。


「初めは少しで構いません。少しずつ魔界での地産に移行することが理想です。それにはユイさんの力が不可欠かと思います」


 ダミアンさんは遠くを眺めながらそう語る。

 つまり、太陽出して瘴気浄化して、魔界で安心安全に農業経営がしたいと。

 


 ……なんというか、完全に私の薄っぺらな行為が独り歩きして、かなり分厚い構想なっている。


 もとは、姫とお兄さんをくっつけようぜ! そのためには太陽出そうぜ! イェー! くらいの軽いノリだったはずだ。

 それがなぜ、魔族の生命線だの一翼を担うだの重い話になってるんだ。

 背筋が寒い。


 どうする。

 ・戦う

 ・逃げる←


 思考を読んだかのようにダミアンさんがこちらを向いた。


 逃げられない!




 ──逃げても、結局自分で現状を打破しないと生きていける世界なんて何処にもない──


 タクトがカッコつけた台詞が脳内で反芻される。

 くっそ、あの野郎! 半分持ってくとか言ったくせに今この大事なときに居ねぇじゃねぇか!



 落ち着け。落ち着くんだ滝田結衣。

 私だって魔界に住んでいるんだ食料の安定供給に尽力するのはおかしな事ではない筈だ。

 話自体はでかいけど、私の仕事は浄化作業。仕事自体は単調だ。


「わ、わかりました。協力できる所は協力したいと思います」

「ありがとうございますユイさん」

「いえいえ」


 ずっと何とかしたいと思っていたんだろう、私の上っ面だけの笑顔に対して、ダミアンさんは心からの笑みを浮かべている。

 テンションの違いが後ろめたい。


 魔界にはない爽やかな風が通り抜けて髪がそよそよとなびき、風の吹いてきた方に目を向ければ目の前には美しく整備された農地がある。

 

「でもダミアンさん、こんな規模のモノを魔界に移行するとなると私の一生じゃ足りない気がします」

「そうでしょうね」


 そうですねって。いやいやあんた。

 胡乱な表情でダミアンさんを見やれば、私を見ていたらしく、ガッチリと目が合った。


「この土地は、はじまりのエデンと呼ばれています。何千年も前に魔界で食料が採れなくなった頃、人間界に降りてきた私の祖先が小さな土地から始めたと言われています」

「へぇ。凄いですね」


「えぇ。子々孫々受け継がれて今があります」


 ダミアンさんの視線になんとなく、そわそわして視線を農地に戻すけど、視線はガンガン刺さってくる。

 なんだ。一体何なんだ。


「っ!」


 頭の上の角カチューシャ。


 つい昨日体験した違和感を感じた。


 反射的に身を引いてダミアンさんを見上げると、私の頭から手を引く姿と、熱の籠ったような視線、朱がさした頬があった。


 触れられたことも気のせいかというくらいの一瞬だった。




「初めは……少しで構わないんです。後に大きくなってくれれば」


「……それは」



 何に対しての言葉なのか。



 明確な答えは教えてもらえず、まるで宿題だというようにダミアンさんは微笑んだ。


読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字見付け次第修正します!


また読みに来て頂けると嬉しいです!(’-’*)

評価、ブックマークとても励みになります!嬉しいです!

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