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タイムリミットは勇者が起きるまで。

 勇者を背負ったタクトと共に、私は勇者の荷物を持ち、タクトの薬草入れのかごを背負って街にむかった。


 森から出ると、既に日は落ちていて月の光だけが頼りだった。


 勇者がお荷物と化している今、魔獣に遭遇したらもう一度死ぬことになるのかと脚はガクガク震えて、勇者を連れて帰るなんて判断をしたことを、若干後悔している。


 もう2度とフィオナの振りなんかしない。絶対。


 森を抜けるとしばらく平坦な道が続き、街のゲートが見えてくる、街の中央のクエストなどを扱うギルドの隣がフィオナの家。宿屋だ。

 宿屋はHP、MP共に全回復できるスポットで、レベル上げのために森と往復したから場所はわかるし、現在位置も何となくわかる。


 ゲームではすぐだったけど、リアルだと結構遠い。あと10分くらい歩けばゲートだろうか。まだ見えてこない。

 街のゲートをくぐるまでは魔獣が出るから、体は常に緊張している。


 タクトは機嫌が悪いのか、話しかけても無視だ。


 怖いなぁ。街灯の無い道がこんなに頼りないなんて思わなかった。魔獣を寄せ付けない方法とか無いのかな。


 あ、確か熊なら鈴とかで音を出すと寄ってこないってテレビで言ってた気がする。鈴はないし歌でもいいのかな?

 歌なら気が紛れていいかも。

 何の歌が良いかな。


 咄嗟に思い付いたのは校歌だった。


 いや、校歌って自分(笑)

 まぁいいか。誰が知ってる訳でもない。


 頭の中で前奏を奏でた。


「♪ふーじかゎ」

「止めろバカ!! 魔獣に見つかる!」


 ……凄い形相で怒られた。どうやら熊とは一緒にしない方がいいみたいだ。

 私の声よりタクトの声の方が大きかったんだけど、そこを指摘したら勇者と一緒に置いていかれそうな気がするので口を慎む。


「タクト、大丈夫?」

「大丈夫じゃない」


 さっき振り向いたタクトは、かなり疲れた顔をしていた。

 そりゃそうか。勇者はタクトよりガッチリしてる。72、3キロはあるんじゃないかな。

 細身のタクトがよく運んでいると思う。言い出しっぺだから代わりたいけど私には到底運べない。


 せめて疲れをとってあげ──られるじゃん!

 私はタクトに向かって掌を向ける。


「ヒーリング」

「──っ! バッ止めろ!!」

「えっ!?」


 タクトの頭上にキラキラした輪が現れ、これまたキラキラした粉のような物が降り注ぐ。

 止めろと言われても止め方なんてしらない!


 光の中、タクトはギュッと目を瞑りそれが収まるのを、まるで耐えるように待っている。

 でも少しすると目を大きく見開き、頭上の輪を見つめて呆けていた。


 30秒程で光が消えた。私は唖然としているタクトに駆け寄りその顔を伺った。

 さっきよりは疲れは顔に出てないみたいだけど……。


「ごめんタクト、疲れ取れるかと思ったの。ダメだった?」


「いや……大丈夫だ。ありがとう」


 タクトは勇者を背負い直し、街へと歩き出した。


 この世界で初めて役に立てた。そして初めてお礼を言われた。ニヤニヤと笑みを浮かべて私はタクトの後を追った。




☆★☆




 街のゲートが見えてくると、その向こうに松明を持った人が沢山いた。

 かなり物々しい装備の人もいる。


「あれ、何?」

「森に行った俺らが夜になっても帰ってこないなら、あぁなるだろ」

「なるほど確かに」


 私たちを捜索するための街の人か。と納得していると、捜索隊の1人の中年男性と目が合った。

 背が高くてガッチリした人だ。ザ・ガテン系って感じ。


「フィオナ! タクト!」


 男性はこちらに走ってきて私を抱き締めた。

 確かこの人は……フィオナのお父さん!


「お前たち今まで何処に……彼は?」


 出遅れて走って来た違う中年男性が私達に問うた。


 この人は……誰だっけ。見たことある。


 男性はタクトの背中にいる勇者に訝しげな視線を投げた。



「町長、ご迷惑お掛けしたようですみません。森で狼型の魔獣に襲われて彼に助けてもらったんです」

「魔獣に!? 2人とも怪我は!?」


 フィオナ父は私を一旦離して足下から頭のてっぺんまでを心配そうに眺めたので、私はニッコリと笑ってみた。


「ありません。この青年は魔力切れで倒れているだけです。どうやら先日城を出立した勇者様のようです」

「勇者様だと!?」


 後からワラワラとゲートから出てきた捜索隊の人が、勇者、勇者様と言いながら、勇者を一目見ようと寄ってきた。


「町長、とりあえず宿へお連れしましょう。休ませることが優先です」

「あ、あぁ。そうだな」


 フィオナ父がタクトから勇者を預り背負うと、タクトは文字通り肩の荷がおりて、フゥと息をつく。

 そして、視線が交わった。

 深い緑の瞳が更に深く見えた気がして、ドッと心臓が動いた。 


「じゃあなフィオナ。元気で」

「えっ」


 私の反応にタクトは顔をしかめた。


「もちろん勇者と同行できるように打診するんだろう?」

「───っ!!」


 そうだった! フィオナは勇者のパーティーの一員!

 確かゲームのストーリーでは、目覚めた勇者に対して町長がフィオナを連れていくように話をするシーンがあった。


 いや、むりむりむり!!

 いくら暫く旅すると仲間が増えるっていっても! 好きでもない男と2人旅なんて! 見ず知らずの姫のために命を張るなんて! 魔王を倒す!? 私、魔王に何の恨みも在りませんし!!


 助けを乞うようにタクトを見れば、そこに彼はもう居なかった。



「っ! この薄情者~~~~~!!」




 夜の街に私の大声が木霊した。



読んで頂きありがとうございました。

誤字脱字、発見次第修正します!


また読みに来て頂ければ嬉しいです。

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