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アホ菌の連鎖【タクトside】

タクト視点です。

ダミアンの執務室での一騒動まで話が戻ります。

 ダミアンさんがユイの左手に契約の口付けをした。

 その場所は俺が鳩尾に一発食らった時にした場所の真上だ。

 塗り替えるようなその行為も、ユイに何も告げぬまま契約を行ったその行為も、俺の怒髪天を簡単に衝いた。

 2人の間に割って入るとダミアンさんはニヤニヤと玩具を見付けたように笑う。それもまた俺の怒りに拍車をかける。

 

 俺には一発あったのに何故ダミアンさんにはなにもしないんだ。

 “契約”だからか? 理由があれば納得するのか?


 憤ったまま、ゴシゴシとユイの手の甲を拭く。こんなことで契約は消えないがそんな気分だった。


 早くユイをこの場から遠ざけたい。ユイの手を掴み扉へと歩く。



「タクト様、人間界にはお戻りにはならないのですか?」



 どこまでも人をバカにするダミアンさんの言葉。


 俺がユイを好ましく思っていることは、きっとこの人には筒抜けだろう。それを知った上での問い掛け。

 ついつい表情が固まってしまった。


 表面上は俺やユイを思いやっての言葉の数々だが、単にこれは俺の気持ちの揺れを突っついて楽しんでいる。

 クソ。この変態野郎。

 

 反論してやろうと色々考えるが、変態を喜ばせるだけだからやめた。相手にするだけ無駄だ。


 とっとと切り上げよう。

 視線を床に落とすと、目の前に小さな背中が現れた。


「タクトは私と一緒にいるんです」


 “一緒にいる” “俺が必要” ユイの口からポロポロと溢れる俺を喜ばせるだけの言葉に唖然とし、見つめるしか出来なかった。


 ユイに手を引かれ、廊下を歩く。


 魔界に住むことを選択した俺はやることが山のようにある。

 人間界からいなくなることの辻褄会わせや、こちらでの仕事の確保、今は隠居している母さんへの挨拶など、少し考えるだけでぐったりするようなものが目白押しだ。


 特に人間界では同時期に俺とフィオナが消えるわけだから、関係の無いように見せる手回しを色々としなければならない。


 そうと決まれば直ぐにでも動き出すべきなんだろうが、ユイに手を引かれるという珍パターンをまだ味わっていたいという煩悩を捨てきれない。


 それに……もっと聞きたい。

 俺の存在を乞うような台詞を言わせたい。


「さっきのどういうことだ」


 そのままの意味と迷い無く返ってきた言葉に軽く目眩すら覚え、ユイの手を引き、抱き締めた。

 どんな表情でいるのか気になって上を向かせれば、目の下を撫でられた。


 いいのか? これはいいんだよな??

 OK以外の意味、無いよなこれ!


 顔を近づけるとユイは慌てふためいた。


 可愛い。

 認める。可愛い。好きだ。凄い好きだ。

 俺の語彙力は死んだ。



「私の逃げたツケを半分貰ってくれるって約束した!!」



 予想だにしなかった。

 斜め上を行く台詞にピタッと動きが止まり、腹の底から声が出た。


「──────は?」


 俺の考えが足りなかった。相手はアホ(ユイ)だ。


 ここで引こうと思えば引けなくもない。

 だけど俺はユイが好きだ。だがこのアホ(ユイ)にこの先、こんな感じでグサグサと刺され振り回されるのだけは勘弁だ。そんな性癖はない。


 だからそのままキスをした。簡単には誰かに上書きされないだろう唇に。

 良くも悪くも確実に意識されるそこに。気持ちが伝わるのならそれでいい。


 光魔法で1発やればいいのに頭が回っていないのか、ただ胸を叩いて応戦するユイ。

 そんなことすら可愛くて俺は調子に乗った。


 初めてした契約。

 契約を交わすことを意識した口付けは強烈だった。

 魔族のプライドも消え去るような、うっとりと酔う熱い感覚が体を駆け巡る。

 これ以上は俺が無理だった。理性が崩壊する。



 咄嗟に顔を作ってユイから距離を取る。

 ユイの顔は真っ赤で、少しは脈があるのかもしれないと落ちた気持ちが浮上した。


 2人揃ってダミアンさんに説教されたあと、ユイはプリプリ怒りながら姫の部屋に入っていった。


 締まりのない顔を正して、人間界に戻り、育ての親に魔界に住むことになることを告げた。

 両親はこんな日がくるんじゃないかということを覚悟していたらしい。

 そして俺とフィオナが一緒にいることにも何となく気付いていたらしく、婿に出したと思うことにすると言われた。

 年に数回は帰ってくることを、泣く母に告げると嬉しそうな顔をしていた。


 対外的な俺の立場は『ウィーザントという遠く離れた大きな港町の大店(おおだな)で見習い修行することになった』とすることにした。

 ここの店主は俺と同類で魔族との混血。裏で魔界との繋がりもあり何かするには都合がよく、魔界を出る前に一筆書いて使いを出しておいた。


 この日は普通に家族で食事をとって自室で眠り、目が覚めると別れの挨拶もそこそこに、俺は自分の指を傷つけ少しの血を出し、床に手をつけ、魔力を送り込んだ。


「魔界の門番」

『ようタクト』

「……ベリか。ガヤは?」

『ガヤは昼前からの担当だ。こっち戻ってくるか?』

「いや、ウィーザントまで転移させてくれ。トルネアス商会の転移陣だ。話はつけてある」

『りょーかい』


 商会につくと、王弟である俺は予想以上に手厚く歓迎され、小一時間で口裏合わせの密談が終わった。

 それから少し商品を見せてもらい、気になったものを購入した。流石に品揃えが良くて本気で働きたくなったのは内緒だ。


 魔界の門の転移陣に着くと、ガヤに物凄い勢いで両二の腕を捕まれた。

「タクト! やっと戻ってきたか!」

「近い。お前のアップはかなりキツい」

「そんなこと言ってる場合じゃない!」


 ガヤの表情はかなり真剣で、ただでさえ厳つい顔が更に厳つい。


「お前の連れてきた()が食堂の向かいの部屋で働きだした」

「は!?」

「4階より下には降りるなと言ったろう!! 今のところ怪我などの話は聞かないが一体どうなってるんだ」


「……ダミアンさんが黒幕だと思う。

 ユイを回収する。東塔3階に飛ばしてくれ」


 そう確かに伝えた筈なのに着いた場所は中央塔8階。しかもガヤも一緒だ。


「どういうことだガヤ! 俺は東塔3階と言ったぞ!」


 ガヤは俺の腕を掴んで歩行を促す。その方向にはダミアンさんの執務室がある。


「あの娘のことは俺でさえ何の話も聞いていない。現状からわかるのは人間で、光魔法の保持者ということのみだ。言わば俺たちとは真逆、敵対するような存在。

 その状態であそこから保護するようにお前が現れたら、タクトは人間に寝返ったと思われてもおかしくない。お前の立場が危ないんだ」


「立場なんて気にしてられるか!」


「大事なことだ! 友人を守りたいならよく考えろタクト」

「──っクソ!」


ガヤの手を払い、ダミアンさんの執務室まで走り、強くその扉を叩くと、入室を促す声が聞こえてきた。

 機嫌よさそうでムカつく。


「おかえりなさいタクト様、人間界ではゆっくりできましたか」

「そんなことよりも話があります」


 入り口に立ったまま話を始めたらガヤが後ろから押してきた。

「タクト、ちゃんと中入れ」

「嫌だ近寄りたくない」

「お前な」


 失笑するような笑い声に、ガヤと共に顔を上げると見慣れた笑みがあった。俺はユイと行動を共にしていたので見慣れはしたが、本来この人は笑わない。笑うとすればそこには裏がある。

 それを証明するようにガヤは、おぞましい物を見たように顔を顰めた。


「本当にあなた達は……」


 “あなた達”というのは、その笑みから確実に俺とガヤのことでは無いだろう。十中八九……。


「いえね、つい数時間前にユイさんが同じことをしていたんですよ。入りなさいと言ってもそこから動かなくて」


 当たりだ。


 というか、数日前の俺ならこんな行動しなかったし、ダミアンさんも思い出し笑いなどしなかった。


 ユイのアホ菌の感染力が恐ろしくなった。



話が長くなりましたので一旦切ります。

このあと続きを投稿します。


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