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思ってたんと違う。それしかでてこない。

 生まれて初めて告白された。


 好きな人いるって言ったそばからの告白。

 ど、どうなのそれ。好きな人いるって言ったんだから、速攻で振られてるんだけどそれで良いのかタクト。

 あ。Loveではなく、Likeなのか?


 でも、またキスがしたくなると言われた。それはそういうことなんだろう……う……ぐぐ……実に分かりやすい告白だ。

 勘違いのしようがない。


 とりあえず、私は今全身が熱い。

 告白されたせいだけではない。


 どんなに頑張ってもタクトの手から自分の手を抜くことはできず、せめて姿が見えない位置を歩こうと、タクトの前に出たら横に並ばれ、また前に出たらまた横に並ばれ、そんな小競り合いをしてると小走りになり、東塔3階の転移陣の部屋をうっかり通過してしまった。


「好きな人がいるって言ってるでしょうが!」

「この世界にはいないんだろ? もう次行けよ」

「まだ失恋の痛手から抜けてない!」

「そんな繊細じゃねぇだろ」

「薄情野郎! 思春期のハートはプレパラートのカバーガラスより割れやすいわ!!」

「わけわかんねぇこと言うなよ」


 転移陣を使わずに西塔に行くには、中央塔5階の空中回廊を通る必要がある。

 現在、階段を2階分一気に掛け上り、東塔から中央塔への空中回廊を抜けて、中央塔から西塔へ行ける空中回廊に向かって激走中。

 HPが減るほどの全力疾走なのにピタリと横に付けられてる。

 隠しボス! マジで恐ろしい! なんかちょっと楽しそうだし何考えてるか一切わからない!!



 すぐそこの角を曲がったらようやく西塔への空中回廊というところで、姫の部屋の見張りをしていた厳つい魔族の後ろ姿が見え、タクトが速度を落としたので止まらざるを得なくなった。


「ファング、仕事終わりか?」

「よぅタクト。今終わって誰か飯に誘おうと思ってな……あ~えぇとあんたは……ユイ!」

「どうも!」


 ファングさんというのか。

 彼は私とタクトを見比べて眺め、ニヤッと笑った。

 嫌な予感がする。


「手ぇ繋いでイチャ付くのも程々にしとけよ」


 やっぱりか……思わず遠い目をしてしまった。


「悪いな、ファング。気を付ける」

「認めんなタクト。瘴気避けで繋いでるんです。他意はないです」


 そうだろうとは思っていたが……西塔の最上階を仕事場にする魔族にまでガセが届いていた事実に直面してマジで震える。

 タクトを睨むとバカしたような笑いで返された。


 本当に私が好きなのか? からかってるんじゃないのかこの態度。漫画とか小説ではもっと甘い感じだったし……いや、タクトに甘い感じを出されても対応に困るな。


「タクトは薄情のままでいいわ」

「……何でユイを好きになったのか疑問に思うときが多々ある」

「それな」

「同意すんな」


 ブハッと豪快な笑いが聞こえ、ファングさんを見上げると必死で笑いを堪えているようだった。

 タクトと私がほぼ同時に首をかしげると、それもツボに入ったらしく、また吹いた。

 何もしてないのに笑われるこの謎の状況。ファングさんに不審な目を向けると、ファングさんは「すまんすまん」と、顔の前で小さく手刀を切った。


「いやなに、微笑ましくてな。悪い……ククッ……お前らは姫のところへ戻るのか?」

「屋上だ」


 一緒に行くのが当然のようにタクトが言う。自分の事を恋愛対象として見ている相手とどう一緒にいろというのか。

 免疫が無さすぎて……あ。いるじゃん。


「屋上? お前達には寒いだろう何しに行──」


 ガシッと。


 逞しく長いファングさんの腕をつかむ。

 藁だ。さながら私は溺れる者か。


「ファングさんも一緒にど」

「──ファングは飯に行くそうだ」

「は、はい。すみません」


 有無を言わさぬ低音ボイス。私は首根っこを掴まれた猫のように身を小さくし、ファングさんは我先にと逃げたした。

 再び手を引かれ、タクトの一歩後ろを歩く。


「ユイ」

「はい!」

 これ見よがしにハキハキと返事をした私を胡乱な表情でタクトは見やる。


「意識するのは一向にかまわない、だが避けるのはやめろ」

「ご、ごめん」

「慣れてないのはわかるけど逃げんな」

「──っ逃げてなんか」


 いや、逃げたな。物理的にも精神的にも逃げたな。

 眉間にシワを寄せ右下に視線をさ迷わせると、ククッと笑い声が聞こえた。

 反射的にタクトに視線を戻す。


「昨日の、嬉しかった。どんな意味合いでも俺を必要だと言ってくれて」


 どこか可笑しそうな表情で話すタクト。昨日の泣き出しそうなソレとは真逆で心のどこかでホッとする。


「……素直だと気持ち悪い」

「まぁな」

「同意しないで」


 強くもなく弱くもなく、ラフに握られた左手。

 それを少し握り返している自分に気付いて咄嗟に緩めると、少しキツく握られた。


「まぁあれだ。早めに落ちてくれると助かる」

「は?」

「無償で延々思い続けるほど俺は安くない」

「ぶち壊しだクソタクト。素直にも程がある」


 どちらともなく笑いが出て、屋上までの道のりはポツリポツリといつもの馬鹿話が出来た。

 


☆★☆



「うわ、本当に寒い」

「太陽がない上に季節もすぐ秋だからな」


 屋上へ出るための階段を上ると木蓋がハマっていて、それを力一杯押し上げ、顔を出したらすぐ横は屋上の床だった。

 石造りの丸い屋上。ダミアンさんの言った通り、結構な広さだ。

 すぐそこまで瘴気の雲が迫っていて、うかうかしてたら雷に打たれてしまいそうな雰囲気に少しだけ尻込みした。


「秋、か。今何時?」

「……ファングが仕事を終えた頃だから17時ちょいくらいか?」

「この世界の太陽も東から西に移動で間違いない?」

「あぁ」

「西どっち?」


 タクトは怪訝な顔で西を指差した。

「何をする気だ」

「ちょっと太陽を拝みたくて」

「はぁ!? 魔界に太陽なんてもう何千年も出てないって話だぞ」

「うん。アビスさんに聞いた」

「アビス!? 来たのか!?」

「うん。素敵なお姉さまだった……よっと! シャインアロー!」


 キラキラとした光魔法の粉が弓の形に集まって、アーチェリーに似た形の弓が手におさまった。


「まさか」

「うん。あの雲、瘴気なんでしょ? ちょっと浄化出来ないかなって思ったんだけど……シャインアローってやっぱり洋弓なんだね」

 戦闘シーンのムービーとかでちらっと見えたときもそうだったもんな。

「“ちょっと”で消せる代物じゃねぇぞ、これは」


 タクトは空を仰ぎ見て眉間にシワを寄せた。


「ちなみにフィオナは弓使ってた?」

「……いや、なんか違うって言って使ってなかったな」



 そうだろうなぁ。

 力を抜くとシュッとシャインアローが手から消えた。

 

「“命の芽吹きをたすく一射・麗春の長弓”」


 さっきと同じキラキラが、さっきよりも大きい弧を描き、私の回りにも舞うように飛び散る。


「なっ」


 2メートルを超える長弓が私の手にある。まさか服まで変わるとは思わなかった。下にいくほど少し暗い色になる水色の袴に胸当て。

 きっとフィオナの見た目だとコスプレ感がスゴいことだろう。


「なんだその弓と防具!!」

「え? 予約特典。予約してダウンロードじゃないゲーム購入者に貰えるフィオナの装備」

「ヨヤクトクテン……」


 道具屋タクトの目がキラキラと輝く。

 予約すれば貰えるからレアでも何でも無いんだけど、こちらではそうではないらしい。


「使えるのか?」

「中2……14歳までは弓道部にいたんだ。あ、弓をする人が集まって強くなるために練習するクラブね」

「……ユイの世界も物騒だったんだな」


 壮大な勘違いをされていそうだけどまぁいい。ほっとこう。


「国一番の大会に出るくらいの部だったんだよ」

「意外な特技があったんだな」

「怪我で出来なくなっちゃったけどね」


 タクトは「ふぅん」といつも通り返事をしたけど少し眉が下がってる。一応気を使われたらしい。



 弓道部に入って半年ほどでいろんな大会の上位に名前が残るようになり、1年の終わりには3年に混ざって団体に出させてもらえるようになった。

 

 2年になって少しして部活帰りの私の前に自転車が飛び出してきて転倒。

 腕の骨と肋骨を折って、どれだけリハビリをしても以前のようには戻らずもう弓道は出来なくなった。


 退院し、退部届けを出して、最後に挨拶をと部室にむかうと、それまで一緒に戦ってきた3年からの悪口が扉の向こうから聞こえてきた。

 運がいいだけ。調子に乗ってる。今思えばボキャブラリーのないつまらない悪口だけどあの時の私にはキツかった。


 泣いてるところを敬太に捕まり、全部吐かされたお陰で、次の日、面の皮厚く最後の挨拶に行くことが出来た。


──結衣の事を何も知らない奴の言うことなんて気にすんな、お前は口開かなきゃ誰よりもカッコいい──


 自分で言うのも何だけどかっこよく去れたような気がする。

 きっとあのまま逃げていたらずっと引きずったままだった。



 本当に色々ありがとう敬太。

 もう弓を握れないと思ってたよ。



 紫の曇天を見つめる。

 普通の長弓の飛距離ではきっと瘴気の雲をぶち抜くなんて到底無──

「っ!?」

 突然体に違和感を感じ、驚きながらタクトを見た。

「肉体強化を掛けた。無理だと思うが思う存分やれ」


「ありがとうタクト」


 呼吸を整え、矢を取るポーズをするとキラキラが矢の形で手の中に現れた。


 ゆっくりと、太陽のあるだろう方向へ向かい弓を引く。懐かしい感覚に思わず笑みが溢れる。

 痛くない。

 また自由に射ることができる。



 体の芯からホコホコと暖まる感覚がしてきた。昨日、ダミアンさんの執務室で睨み合ったときのあの感じ。


 あ、わかった。これ……技を出すとき、ボタンを長押しして威力を上げるヤツだ。

 タイミングゲージが溜まって、丁度良い所でボタンを離すと大したことのない技が一撃必殺になったりする。


 これを察したから、昨日ダミアンさんはすぐ退いたのか!


 わかってはいたけどゲーム感が凄い!! テンションが上がってきた!!

 私、タイミングゲーム系は得意です!!


 もう少し、もう少しだ。ジリジリとした焼けるような感覚が体を上っていく。



──い、まだ。



 弓のなる気持ちがいい音と共に、矢が聞いたことのない轟音をたて、見たことのない速度で離れていく。


「ユイ、大丈夫か!?」


 少し離れていた所にいたタクトが駆け寄ってきた。


「こ、こここここ怖っ!! なんだあれ!!」


 思ってたんと違う!! 思ってたんと大分違う!!

 弓の行き先を見るけど、瘴気が晴れる様子も無いし、矢もどこかに行ってしま──


「うっ! まぶしい!!」


 思わず目を瞑って脇に避けた。何だ!? 襲撃か!?


「……これ、は」



 私とタクトの間に橙の細い線が出来た。



 ちょうど、矢一本分。



 唖然と2人でそれを眺める。

「ぶち抜いた……みたいだな」

「うん。でも、思ってたんと違う」

「それな」



 その日、数千年ぶりに魔界に陽が射した。

読んで頂きありがとうございました。

誤字脱字見付け次第修正します!


次はタクト視点です。

また読みに来て頂けると嬉しいです。

評価、ブックマーク、感想ありがとうございます。とても嬉しいです(*´-`)


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