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有効かどうかは場合による。


 ──結衣の事を何も知らない奴の言うことなんて気にすんな、お前は口開かなきゃ誰よりもカッコいい──



 中学の時、敬太が私に言ってくれた言葉だ。この後すぐに、一言余計だと胸ぐらを掴んだが、単純な私はこの言葉で凄く楽になれた。





 次の日、東塔3階、熱血料理人のいる食堂の向かいの8畳ほどのスペースに私の仕事部屋ができた。

 小さな出窓が並んで2つ。右側の出窓の下にデスク。部屋の半分は巨大なベッドが1つ。

 姫の部屋の前にいた2人はかなり大きかったからこのぐらいのベッドの大きさも納得できる。


 仕事内容は訪れた魔族の怪我の手当てと、各部署に訪れての雑用。仕事部屋が出来たからといって駐在する必要はなく、基本好きな場所に居ていいと言われた。

 その場合の連絡手段は風魔法の保持者が声を届けてくれるらしい。


 外は暗くて、普通にランプがついているからわかりづらいけど、現在お昼頃。姫が一人でも大丈夫だというから、折角準備してもらったので仕事部屋にいる。

 向かいの食堂には、角がある方々や、大きくて厳つい方々、頭が獣の方々、半裸やほぼ裸同然の下着をつけた色っぽい方々等々が沢山訪れている。


 皆、城で働いている人達らしい。せめて服は着ようよ。


 廊下に面する壁はガラスがはまってるからチラチラと私のことを見てくる方々の多いこと多いこと。

 皆にガン見されてる上野のパンダには遠く及ばないけど、それに準ずるものくらいにはなれたんじゃないかと思う。

 まぁ、同じくらい私も彼らを見てるからおあいこか。


「……本当にハロウィンだなぁ」


「人間で光魔法を使うガキだってよ」

「人間だぁ? 魔界の恐ろしさに泣いて帰っちまうんじゃねぇのか?」


 ガハハと狼頭とライオン頭がこちらを見ながら笑う。

 こんなのより、もっと下品なことを言う輩もいた。この手の悪口は人間も魔族も変わらないんだな。


 敬太の言葉が頭に流れて今のところ落ち込まずにいられてる。


 午前中は、光魔法を敬遠してか誰も治療には来なかった。

 基本的に魔族は怪我をすると自分より少し強い瘴気をもつ魔族に瘴気を流してもらい治癒するらしい。

 私いらなくね? と、暇をもて余し、厨房の手伝いをしてきた。

 1日の仕事を紙に書いて、仕事で関わった方にサインをもらい、その日の終わりにダミアンさんにソレを見せると、仕事に見合った金額がその日に支払われるとのことだ。

 ありがたい。月給で末払いとかだったら1ヶ月ひもじい思いをするところだった。



「光魔法のお嬢さん、手合わせなどどうですか~?」


 ノックもなしに扉が開き、扉の枠に手を当てて話しかけてきたのは角系魔族のチャラそうな男。後ろに似たようなのが2人いる。

 上層に居るときは遠巻きに見られてるだけだったけど、下層に降りてきてからやたらと喧嘩を売られる。

 おんなじ城でも下の方は治安が悪いらしい。

 戦いたくないから魔界に来たのに……。


「そういうのはやってないです」


 困ったように言えば、3人はゲヘゲヘ笑う。

 話、通じねぇ。

 先頭の一人が身を屈めて戦闘体勢に入る。


「ポイズ──」

「エンジェルリング」


 咄嗟に出たのはフィオナによく使わせていた技。

 土星の輪のような光が手のひらの上に現れる。ゲームの中でフィオナはこれをブーメランのように投げ付けて使っていた。

 でもこれ当たったら確実に痛そうだ。



 えぇい!! いちかばちか!


「増し増しで!」

「──っ!?」


 頭に浮かんだ前世での呪文を適当にそう叫ぶと、輪は1メートル程にグーンと大きくなった。

 すげぇ。ゲームとは違って応用が利くらしい。


「お、おい! なんだその魔法は!!」

「偉大なるオプションの呪文だ!」


 放物線を描くように輪投げの要領で彼らに輪を引っ掻ける。


「少なめで!!」


 そう叫ぶと輪は彼らの胸辺りでキュッと絞まり、身動きの取れない一塊になった。

 バランスを崩して横たわりながらもギャアギャア騒ぐ3人を、転がしながら廊下に追い出すと、食堂で怒鳴り声が聞こえた。

 聞き耳を立てれば、配膳されたカレーうどんは自分のものだという複数人による殴り合いの喧嘩が勃発し、熱血コックが怒鳴っていた。

 整理券というものは存在しないのだろうか。

 また手伝うことがあれば熱血コックに提案してみよう。タダ券とか貰えるかもしれない。 


「セットヒーリングエリア」


 光の中級魔法。

 殴り合いをしている面々を視界に入れて効果範囲を指定してヒーリングを展開する。複数人の同時回復が可能だ。

 殴り合いの真っ只中の頭上にキラキラの輪が現れて、キラキラ粉が降り注ぐ。


「っ! 光魔法だ!! あのガキやりやがった!」

「逃げろ!! 死ぬぞ!」


 散々な言い様。その上、食堂の全員が私に睨みを利かせる。

 私の足元には光の輪で捕縛されている3人。


 あ。これ、やべぇやつ!!


「ごっ誤解です!! い、茨の障壁!」


 咄嗟にバリアをはり、ガンガン来る魔法や物理攻撃を全部防ぐ。足元には例の3人が転がってるのに魔族側の攻撃に容赦はないから3人もついでに守る!


 各方面からの攻撃に複数バリアを展開した。とにかく必死でどれくらい時間がたったかなんてわからなかった。






「何をしてるんだお前ら!!」



 地の底から響く怒号。魔王のそれとは違う質。

 攻撃は一気に止んだけど、一応バリアは張ったまま振り向いた。


「っ魔界の門番、ガヤ!」


「光魔法の嬢ちゃん、俺を知っているのか?」


 知ってるも何も、ゲームではかなり苦しめられた。

 人間界から転移して魔界に来ると森があり、道なりに進むと薔薇が絡まる門がある。そこの門番がこのガヤ。


 3mはあるだろう巨体、厳つい顔、人間界で倒した魔獣、魔族と比べ物にならないレベルがいきなり出てくるから、レベル上げが大変だった。


「ガヤ! その女はあいつらに光魔法をかけた! 近寄るな!」

 食堂内から蜥蜴頭が叫ぶ。

「バカ野郎、よく見てみろ。この嬢ちゃんの光魔法は俺達に害はない」


 ガヤがそう穏やかに言えば、本当だ。とか、嘘だろ。とか、治ってる。とか色々な言葉が聞こえてくる。難局は乗りきったみたいで安心してバリアを消した。


「何をやってるんだユイ」


 タクトがガヤの後ろからひょいっと現れた。


「げっタクト! 戻ってきたの!?」

「さっきな」


 タクトは住む場所を魔界にするため、あれから人間界の両親に別れの挨拶と急に居なくなることの辻褄合わせをしにいった。

 正直、顔合わせづらいから都合が良かったんだけど、ここまでか……。


 食堂の魔族達がタクトを確認すると、彼らはタクトの名前を呼んで更にザワめきだした。

 タクトは中々の有名人らしい。そりゃそうか。王弟だ。

 しかも好かれているようで雰囲気が一気に良くなった。


「で、どんなことをすればあんな状態になるんだ」

「……怪我が痛そうだったからヒーリングかけたら敵認定された」

「本当にアホな」


 一歩タクトが私に近付く。

 心臓がドッと跳ねて全身が熱くなる。

 私が一歩退くとタクトの眉間にシワが寄った。


「何で逃げる」

「何でもくそもない! 身の危険を感じてる!」

「初めてでもないだろう」

「っ! フィオナは知らないけど! 私は初めてだった!」


 渾身の睨みを利かせるけれど、タクトは「ふぅん」と口角を上げた。余裕のあるその感じが癪にさわる。



「お前ら……本当は愛の逃避行なんだろう?」


 は? 愛?

 突然降ってきた物騒なワードに、発言の主のガヤを見れば、少し頬を赤らめていた。


「そんな赤裸々な話をこんなところでするな」


 生暖かいガヤの視線の後に、食堂内がワッと盛り上がる。


「タクト様の彼女!!」

「──っ!?」

「ついにタクトを落とす女が現れた!」

「は!? まっ、まって!! 違う!!」


 全力で手を振って否定するも全く効果はない。伝言ゲームの様に食堂内の魔族に話が広がっていく。


「タクトも否定して!!」


 これだけ支持されているタクトが否定すれば全てが丸く収まる!縋る思いでタクトを見れば、面白そうにほくそ笑んだ。嫌な予感しかしない。


「快適な王城生活を過ごせそうで良かったなユイ」


 すれ違い様に肩をポンと叩かれ、タクトは熱気冷めやらぬ食堂へ消えていった。


「お、おぉお、覚えてろよお前!!」


 蔑みの目から一転した、生暖かい眼差しに耐えきれず、仕事部屋の毛布に頭からくるまった。


 敬太の言葉を必死で唱えるがこのときばかりはまるで意味がなかった。

読んで頂きありがとうございました。

誤字脱字見付け次第修正します!


また読みに来て頂けると嬉しいです。

評価、ブックマーク、感想ありがとうございます。嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回はテンション低めというか、いつもと雰囲気違っていて、一瞬別視点で読んでいるのかと思ってしまいましたw 7話でガヤが4階から下はアホが多いから絶対降りるなと言ってたのに、仕事部屋が3階に…
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