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リリースを拒否した人魚に脚をあげる魔女的な人物を目指す。

 初めて体験した全回復ベッドによる回復は眩しいだけじゃなくて、体がムズムズした。

 伝わるだろうか。体育や部活で凄い走った日の夜とか、脚が何かムズムズしてやたらと布団の中で脚を動かして「あ゛あ゛あ゛っ!!」ってなるあの感じ。

 誰か! 誰か揉んでくれってなるあの感じ。わかるだろうか。


 エリー姫、ごめん。アイマスクつけるとか布団に潜るとかすれば良かったんじゃね? とかこっそり思っててごめん。これで、ずーっと寝るのは無理だわ。


 タクトの拳骨から回復して目を開けると、私の肩に手を当てて心配そうに覗き込んでくる美人(エリー姫)


「──好きです」

「アホか」

「痛っ」


 間髪おかずタクトが頭を叩いてきた。やべぇ姫相手に危うく新しい扉を開きそうになった。今回ばかりはタクトに感謝だ。


 叩かれたから反射的に痛がったけど、エリー姫が私に触れていて光魔法が途絶えている為か、タクトが若干手加減してくれたらしく、先程の拳骨ほど痛くはなかった。

 気遣い……? こんな小さな気遣い誰も気付かないだろう。魔族なりのコミュニケーションなんだろうか。


 叩かれた頭をさすりながらタクトをジッと見つめる。


「何だよ」

「人間界にも友達作る努力しなよ?」

「お前はもう少し会話をする努力をした方がいい」


 

 タクトはため息をつきながら、窓の下にある黒い革張りのカウチソファーに座った。

 

「話を戻すぞ」

 姫と手を繋いでそちらに向いて座ると、タクトはこの部屋のランプに目配せし、明かりをつけた。


 光魔法にはない落ち着いた灯火に、少し気持ちが落ち着いた。


「端的に言えば、兄と姫が結婚するってのは無理だ」

「なんで。お兄さん、ちょっとデカイけど美男美女でお似合いだと思うよ。それに魔王と人間界の姫が結婚したら平和になりそうじゃん」


 ナイスアイディアだというように、空いている手の人差し指を立てながらそう言えば、タクトは右手を伸ばして掌をこちらに向けた。


「いいか? 俺達魔族は肉、血液、髪の毛一本に至るまで瘴気が混じってる。物心つく頃には意識的に抑えることはできるが、血や体液、勝手に出てくるものは止められない」


 魔族の話をするときのタクトはあまり感情を表に出さない。淡々とした語り口調だ。


「特に兄はサラブレッド。そこら辺の魔族とは比べ物にならないくらいの量と質だ。そんなのと人間が交わればどうなる」

「それは……」


 稲妻の光が入り込んでタクトの目が猫のように光る。その目に一切の感情は無くて冷たくも映る。

 

 そうか。お母さんが魔族ってことはタクトの本当のお父さんは……。


「ごめん。簡単に考えてた」

「ユイにはわからないだろうが、兄さんの瘴気は普通の人間が隣に並べば失神するほどの瘴気なんだぞ。現にその姫が運ばれてきたときも死ぬ寸前だった」

「──っ」


 姫の手を握る自分の手に力が入る。知らなかったとはいえ、とんでもないことを言ってしまっていた。

「ごめんなさいエリー姫」


 謝罪すると姫は困ったように笑って手を握り返してくれた。


「いえ、良いんです。わたくしをここに連れてきてくださったあの方は魔王様だったのですね」


 カッと稲妻が光ると、ランプだけのボンヤリした室内に光量が増して、ポッと頬を染める姫が鮮明に見えた。


「「───ん?」」


 見間違いか??

 あまりの事に姫から手を離すと、ベッドの光魔法で辺りが更に明るくなる。


「ちょっと待て、あんたまさか兄の事を」


 タクトが困惑した声で姫に問えば、姫は顔全体を朱に染め、まるで蕩けるようなうっとりとした微笑みを浮かべた。

 そんな顔を結婚する筈だった相手に向ければ、きっと15人のうちのトップに立てた事だろう。


「あの日、初めて城の庭でお会いしたときは人のお姿でした。

 あの庭に入れる権利のあるどなたともお顔が合致せず、どこのどなたかもわかりませんでしたが、端正な顔立ちに甘い声色、魔族のお姿に変わられてからは記憶がありませんが、今思い出しても心がギュッと締め付けられます」


 姫は胸元で両手を握りしめて、完全に恋する乙女の顔をしていた。

 思わずベッドから降りてタクトの所へ向かう。


「タ、タタタタクト、魔族の甘い声って1回掛けたらずっとなの」

「そんなはずはない、一過性のものだ。長くて2、3日もすれば冷める」

「いや、でもガッツリホカホカ出来立てな雰囲気ですよ……まさか姫が魔界に来たのって輿入れから逃げる為じゃなくて」

「……兄さんを狙ってたのか」


 若干、というか結構吊り橋効果的な雰囲気がしなくもない。


「あんたさっきの話聞いてたか? 兄とつがえば死ぬんだぞ」

「もちろん聞いておりましたわ。ですが、ここまで来たら望まぬ結婚をするより、好いた方と添い遂げたいではありませんか」


 に、肉食系。

 魔王→姫かと思ったら、まさかの姫→魔王。


「タクト、ちなみに成就する可能性は」

「限りなくゼロ。想うだけ無駄だ」

「あら、ゼロではありませんのね」

「~~~~~あんたなぁ」


 姫とタクトはあまり相性は良くないようで段々とタクトがイライラしていく。


「レベルを上げてみたらどうだろう」

「ユイ!」

「レベルですか?」


 タクトの私を睨み付けるオーラは怖いけど、ここまで腹くくってんなら協力してあげたい女心。

 それに、タクトは「兄は姫に興味が無い」って断言してたけど、これだけの美人をわざわざ魔界に連れてきたんだから、ちょっと位は好意がある筈。

 部屋を貸してくれてるくらいだしね。


「お兄さんがこの部屋に来たことはありますか?」

「いえ、1度も」

「1度も!? 釣った魚には餌をあげないタイプ!?」

「いや、釣った事さえ忘れてるんじゃないか」


 あんまりな内容に空いた口が塞がらない。私の中でのお兄さんの株がガンガン下がっていく。


「ユイ……レベル上げってどうするつもりなんだ?」

「あぁ、姫は火と風の魔法が使えるからそのどちらでも、そうだな40くらいにはしたいの。そうすればお兄さんや魔界の瘴気にも怯まずにいられる筈だから」

「それは例の知識か?」


 例の? ゲームのことか? そうだよ。と返事を返せば何やら考え事をするように顎に手を当ててうつむいた。


「ダミアンさんが指定した姫の行動範囲はこの部屋と隣の書斎だ。そこから少しでも出れば姫の身の安全は保証できない。

 それに、この部屋からダミアンさんにバレず、無事に出たとしても姫のレベルだと魔界では無理だから人間界に戻ることになるぞ」

「っマジか」


 確かに姫のレベルだと魔界でのレベル上げは殺してくださいって言ってるようなものだ。

 かといってレベル15前後の魔物と戦いに人間界に戻ってうっかり勇者と鉢合わせなんかしたらたまったもんじゃない。


 だけど、太ももの上で祈るように手を組んでいる姫を見ると何とかしてあげたいという気持ちが消えることはない。

 万一勇者にお兄さんが倒されることがあれば、姫は勇者と結婚する事になるかもしれない。

 好きな人を殺した相手と結婚するなんてどんな罰ゲームだ。



「ダミアンさん……」

「は?」


「ダミアンさんに聞いてみよう! 宰相ポジションなんでしょ何か良い案くれるかも!」

「お前の思考回路が本当に理解できない」


 これこそナイスアイディアだと、半目になったタクトの腕を掴みダミアンさんの執務室へと向かった。



読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字見付け次第修正します!

誤字報告ありがとうございました。


次回は恋愛色が濃くなりそうな感じです。


また読みに来て貰えると嬉しいです。

評価、ブックマークありがとうございます!

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