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傷ついたのは誰か【タクトside】

タクト視点です。

 ユイが着替えの為にメイドと部屋を出たあとに残されたのは当然、俺、魔王オレアンダー、その部下ダミアンさん。


 この面子に侍従が気を使って、別室にソファーとテーブルをあっという間に運んできた為、自然とそこに座る流れになったのだが……魔界の戦闘能力上位者3人が何だってこんな狭い部屋に雁首揃えて(ユイ)の着替えを待って居なければならないのか。

 執務はどうした。と、目の前の兄と左隣のダミアンさんを睨むが気づいているのかいないのかこちらを見ることはない。

 人間界との確執が深まっている今、かなり忙しい筈なんだが。



「面白い女性ですね、ユイさんは」

「あぁ。人間が俺に臆すること無く会話が成り立ったのは初めてかもしれない」


 そう嬉しそうに話す2人はユイをかなり気に入っているように見える。

 俺のいない間に一体何があったのか。聞くのは何となく癪に障る。

 基本的に魔族は目上の者にどんな失礼な態度をとっても、そのとられた本人が許せば不敬に当たることはない。だが、気に入らなければ言い訳などもできぬまま直ぐに息絶える事になる。

 兄はまぁ……通常は基本穏やかな奴なので驚きはしないが、ダミアンさんの首を絞めて無傷でいられるなんて奇跡に近い。

 あのアホは懐に入るのが巧すぎる。


「ユイの記憶が戻ってからは魔獣相手にでさえかなりビビってたけどな」


 勇者を拾った帰り道、ユイの足はがくがくと震え、無駄にキョロキョロと辺りを見回して、完全に小動物みたいで可愛──いやいやいや、なんだそれは。

 完全にアホ丸出しだったの間違いだ。


「タクト様、自分の失言に気付いていますか?」

「は? いや、可愛いとは思ってな……え?」


 兄は疑うような目を俺に向け、ダミアンはやれやれというように肩を上げた。


「人目を忍ぶためにレベルに隠匿の魔法がかかっているタクトならわかるが、ユイ程のレベルだとタクトの住む辺りの魔獣は弱すぎて近寄っても来ないだろう……ダミアンは気が付いていたのか」

「えぇ初めから。レベル一桁だと聞いていた光魔法保持者の少女が魔力切れで担がれてきて、この瘴気の中で生き抜けるほどのレベルになっていれば大体予想はつきます」


 兄は右手で顔を覆った。怒りからだろう兄から出る瘴気が肌を刺激し、ピリピリと焼くように痛い。


「タクトはユイに殺されたんだな」


 隠し通せるとは思ってなかったがこうもあっさりばれるとは。


 ユイについては、


 前世の記憶を取り戻したこと。

 勇者に同行したくないこと。

 勇者に同行した場合の先の未来を知っていること。

 光魔法が変異し、魔族にも治癒魔法が有効なこと。

 魔界に留めれば有効に使えるのでその方向で。


 ということを話した。


 この数年、フィオナから命を狙われている状態で魔界の奴等にはレベルアップや魔族の治癒の仕方など、死なないためのフォローを色々と受けてきたから、自殺を謀ったこと、ユイのレベルがバカ上がりしたこと、蘇生魔法を使ったことについては、申し訳なさから一切説明できなかった。



「無害そうな顔をしてあの女……」

「ち、が───」


 『違う!』というセリフが口から出る前に、息がしづらくなり吐き気が込み上げ、肌か裂けるように痛みを増す。地鳴りのような耳鳴りが頭に響き、思わず顔をしかめ、口元を押さえるとダミアンさんが焦ったように立ち上がった。


「オレアンダー様、タクト様が瘴気で死にます。抑えてください。誰かいますか!」

「っタクトすまない!」

 ダミアンさんは外にいる侍従に至急ユイを連れてくるよう指示を出した。

 兄は冷静になるようにゆっくり呼吸をして瘴気を抑えると、悪化の一途だった俺の体調にストップがかかった。


「詳しく話はできますかタクト様」


 ダミアンさんは俺をソファーに寝かせ足元から伺うように問うので、俺はゆっくり頷いた。


「……ユイの、レベルが、上がったのは俺のせい、だということは、確かだ……けれど、ユイに殺された、わけじゃない」


 呼吸をするのも苦しいレベルなんだが、ここでやめたらユイがどうなるかわからない。

 

「どういうことだ」


「強制停止の、魔法をかけて、ナイフを握らせて、その手を持って、自分で喉を切った……あいつの……意思じゃない」


 2人は悲痛な表情をして目を合わせた。


「なぜそんなことをした」

「ユイを、魔界に連れて、くるには、そうするしか無い、と思った。兄さん、を助け、られると」

「タクト……」


 兄が俺が横たわるソファーに手を付き、床に膝をついて座った。労るようにその手が俺の肩にかかったとき、静かに声が響いた。


「随分と酷い目にあったんですね……」


 ダミアンさんは冷たい目で俺達を見下ろしていた。


「─それは、俺の意思で」

「タクト様ではありません。ユイさんです」


 兄は立ちあがりダミアンさんを睨み付けるけれど、ダミアンさんはまるで怖くないというようにニコリと微笑む。


「ユイはタクトに操られただけだろう。魔力切れこそ起こしたが怪我などは一切していなかった」

「バカですか。だから貴方達は顔がいいのにモテないんだ」


「余計なお世話だ」(余計なお世話だ)

 兄と思考がだだかぶりした。


 親指を立てて、ダミアンはそれで胸をトントンと叩く。


「ユイさんの心の心配をしているんです」


 その目は揶揄いなどない、真剣なものだ。


「オレアンダー様がフィオナさんを殺す用意があったことを彼女に伝えたときの動揺から、ユイさんはそのようなことに不馴れだと感じました。そんなユイさんが自分の意思が無いからと言ってタクト様を殺すことを良しとするでしょうか」


「だが、彼女の魂はフィオナと同じものだぞ。あれは実際タクトの命を狙っていただろう」


「彼女はフィオナさんとは違うと言ったのはタクト様です。私もその通りだと思います。彼女には魔族と人間という括りがあやふやで、私達にまるで人と同じように触れ、会話をします」


 ゆっくりと頷く。確かにユイは俺が混血だと言ったあとも、俺への恐れ等は感じられなかった。むしろさらに気安くなり、舌打ちに舌打ちを返されたくらいだ。


「タクト様に……魔族にもユイさんの治癒や蘇生魔法が有効なのはそのせいだと私は踏んでいます。彼女はこの世界の人間とはそもそもの質が違う。万人に平等」


 人間にとっての魔族は畏怖の対象。魔族にとっての人間は暇潰しの玩具。お互いがお互いを殺すことをなんとも思わない。

 それが自然だ。


 目を瞑れば、思い出されるのは血だらけのユイ。


 ズクンと鼓動が跳ねて傷んだ。俺はあのときユイが傷ついたと思った。嫌われると思った。



「タクト!!」


 バタバタバタと物凄い足音がして部屋の扉が勢い良く開いた。その瞬間息をするのが楽になる。


「ユ──」


 直ぐに兄の横まできて膝立ちで座り俺の手をとった。

 一気に体の痛みが無くなり力が抜けていく。


「どっどどど」

「落ち着けバカ」

「どうしたらいい!? ヒーリングかけていい!?」


 この部屋に来るまでに既にヒーリングをかける準備をしていた様で、俺の手を取っていないほうの手ではキラキラとそれが待機状態で輝いている。


 速攻ヒーリングをぶちこまなかったのは前に勇者を背負っていたとき、嫌がったからだろうか。


 ユイの顔には動揺の色が濃く見える。

 こんなレベルでコレなら、俺が死んだときは相当焦っただろうなコイツ。


 思わず笑うと、ユイの眉が困ったようにハの字になった。


「掛けなくていい。瘴気は散ったしこのくらいなら自然に治癒する──ユイは俺が怪我するの嫌か?」


「は? 怪我するのみて喜ぶ人なんていないでしょ──え、まさか、そういう趣味趣向が? ごめん私はそっちの方は協力できない」

「ちっがう!! どんな頭してんだお前は!」


 ユイがすこし頬を赤めて俺から目をそらすその向こうではダミアンさんが大笑いしている。この人が声を上げて笑うのは本当に珍しい。

 兄も呆れたように笑い向かいのソファーに腰を下ろした。


「──悪かったな」

「ん?」

「もう怪我しないし、死なない」


 クリクリとした丸い目がすこし大きく開かれた後、人懐っこく細まった。何のことを言っているか伝わったようだ。


「努力してよ。こっちはメンタルゴリゴリ削られてくんだから」


 ニッと笑うその笑みにどうしようもない愛おしさが込み上げる。

 未だに掴まれている手を掴み返し、甲に軽く唇を落とすと『ギャア』という色気のない悲鳴の後に、鳩尾にヒーリング入りの拳が降ってきた。



読んでいただきありがとうございました。

誤字脱字見付け次第修正します!


次回からお仕事に入ります。


また読みに来ていただけると嬉しいです。

評価、ブックマーク等ありがとうございます!とても嬉しいです(*´-`)

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